~第8章 煩い~桐谷side
僕の名前は、桐谷冬真。22歳の大学生だ。
最近の僕は、どうもおかしい。
今までの僕からは想像もできないくらい、言いたいことも言えない男になってしまったのだ。
「ねぇ、春樹・・・」
「ん?何?」
彼は、立花春樹。僕と同じ学部に通う同じく22歳。僕の一番の理解者であり、幼なじみ。
「どうして、言いたいこと、言えないんだと思う?」
僕は、次の講義までの休み時間、春樹にふと問いかけた。
すると、彼は教科書に目を通しながら、こう答えた。
「え、そんなの、相手のことが気になるからだろ」
「気になるって、何が?」
僕は、春樹の答えの意味がよくわからず、さらに問いかけた。
「何がって、こう言ったら相手が悲しむかもとか、嫌いになられるかもとか?」
「確かに・・・それはあるかも・・・」
彼の答えに少し思い当たる節がある。と、納得していると、春樹は教科書から目を離し、僕を見てこう言った。
「要するに、相手のことが好きってことだな。彼女のことだろ?」
そう言ってニヤリと笑う彼に、僕は彼女のことを思い出し、胸が高鳴った。
「今まで、どんな女性に対してもこんなことはなかったのに、なぜか彼女の・・・夏緒里さんのことになるとダメなんだ・・・」
「はぁ・・・そりゃ完全に惚れてるね。あの笑顔を崩さない桐谷が、こんな泣きそうな顔しちゃってさ」
春樹はそう言うと、泣き言を言う僕の頭を、ポンポンと優しく撫でてくれた。
「どうせ、クリスマスのこと言えずに悩んでんだろ?」
「う、図星・・・」
春樹の問いに僕は、絶句する。
そう、クリスマスは今週末。それなのに、彼女に本当のことを言えずに、彼女の家を飛び出した、ダメな僕。
「それなら大丈夫大丈夫!彼女は俺らより大人なんだぜ!ちゃんと話せばわかってくれるよ!」
そう言って、にこっと笑う彼。
「ありがとう・・・春樹ってさすが複数の年上女性と付き合ってきただけのことはあるね」
僕は、そう言ってにっこりと笑う。
「いや、そんな素敵な微笑みで言う台詞じゃないから。しかも、なんか遊び人みたいになってない?俺?」
春樹は、そう言って泣き真似をする。
「え?違うの?」
そんな彼に僕は、少しふざけてみる。
「いやいや、桐谷様の女泣かせに比べたら、俺のは微々たるもんですよ」
春樹も笑顔で張り合う。
「僕は、素直に付き合えないと断っているだけだよ」
「その本気なかんじが余計に傷つくのよ」
僕の言葉に、春樹は再び泣き真似をしてみせる。
「とにかく、ちゃんと言わなきゃ、彼女もっと悲しむぜ」
もっと悲しむ・・・好きな人を悲しませる僕を、彼女は許してくれるだろうか・・・。
春樹の言葉に僕は、再び頭が不安でいっぱいになった。




