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私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
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~第75章 電話~

部長のこと、もう一度考えてみたら?


そう秋紀に言われ了承したものの、いざ話すとなると本当に良いのか考えてしまう。自分から断っておきながら連絡をとるなんて、相手は迷惑に決まっている。


でも・・・あ、桐谷くんに頼まれた見送りのこと、聞かないと・・・。


仕事を終え帰宅した私は、それだけを口実に、部長へ電話をする決意をする。


しかし、時刻はまだ18時45分。


「部長、もうお仕事終わったかな。仕事中だったらどうしよう・・・」


そんな不安を感じたが、勇気を出してかけてみることにした。


そして・・・案の定、彼は出ない。



「はぁ・・・やっぱり出ないよね。仕事じゃなくても、私からの電話・・・出るわけない・・・。はぁ・・・」


私は、自分で自分につっこみを入れた割に、落ち込んでいた。


「はぁ・・・夕食の仕度でもするかなぁ・・・」


と、立ち上がろうとした時、握っていた携帯電話が鳴り出した。私は、慌ててその画面を見ると、それは一之瀬部長からの電話であった。



「はい・・・葉月です」


私が恐る恐る電話に出ると、少し遠くの方で部長と誰かの会話が聞こえてくる。


「・・・そう。あとは、また明日頼むよ。じゃあ、お先に失礼。お疲れ様」


まだ、仕事中なんだ・・・。

私が申し訳ない気持ちでいっぱいになっていると、急に私に、話をふられる。



「あ、もしもし?ごめんね。今、話しても平気かな?」


「はい!私の方こそ、突然電話なんかして、すみません!まだ、お仕事中ですよね?」


「さっきまでね。今はもう終わらせて本社を出るところだから大丈夫。それより、驚いた。君から連絡がくることは、もう無いと思っていたから」



「すみません」



いつもと変わらず仕事熱心で爽やかな部長。

そんな部長とは対照的なうじうじした私。


「ふふ、謝る必要ないよ。とても嬉しいからね」



「部長・・・」



「うん?どうしたんだい?」



まるで何事もなかったかのように、私に接してくれる部長の優しい言葉。こんな私を受け入れてくれるかのような部長の優しく柔らかな声を聞いていると、なぜだか涙が出そうになり、言葉に詰まった。そんな中、一生懸命返した答えは、考えていたこととは違うことだった。



「えっと・・・あ、出国の準備は、順調ですか?」


「ああ、だいたいね。あとは、調理器具とか毎日使うものを詰めるくらいかな」


「・・・そう、ですか・・・」



準備は順調。

それは、好ましいことであるはずなのに、私を余計に落ち込ませた。



「・・・葉月さん、どうしたの?元気ないね。彼氏と喧嘩でもした?」


「・・・」



そうだ。桐谷くんともうまくいってないんだ。

その上、部長にももうすぐ会えなくなるなんて・・・。


その寂しさから、私は何と答えていいのかわからずにいると、部長はその優しい声で、こう言った。



「そっか・・・。葉月さん、少し待っていてくれるかい?」


「え?」


「今、自宅だよね?」


「はい」


「じゃあ、すぐ出るから、そこで待っていてね。電話、切るけど平気かな?」


「え?はい。あ、あの・・・」


「良かった。じゃあ、またあとでね、葉月さん」



そこまで話をすると、彼は電話を切った。



そこで待っていてね。って・・・、部長が来る。

私のところに来てくれる。


それは、今までのこと、桐谷くんのこと、これからのこと、色々考えなければならないことはあるけれど、それらを私の脳裏から消し去る程に、ただただ純粋に嬉しかった。



「・・・誕生日・・・」



そういえば、秋紀が言ってた。

今日は、部長の誕生日だ、って。


もしかしたら、誰かとお祝いする為にすぐに帰るかもしれない。それでも、彼の誕生日だと知った以上、私も彼をお祝いしたかった。


私は、すぐさまキッチンに向かい何かケーキの材料になるものがないか確認する。生クリームにクリームチーズ、オレンジにビスケット・・・誕生日といえばイチゴショートという発想の私だったが、あいにくイチゴも時間もない。・・・そうだ!あれにしよう!こう見えて、お菓子作りが好きな私は、今ある材料、時間、そして部長の爽やかなイメージを考え、とあるケーキを作ることにした。


そうと決まれば、行動あるのみ!

私は、全ての邪念を取り払い、早速料理にとりかかった。


ただ一心に、京也さんのことだけを考えながら。





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