表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
74/94

~第72章 本当の桐谷くんはどっち?~

やっとお互いの気持ちが伝わった私たちは、暫くその温もりを確かめるように抱き合っていた。


桐谷くんはというと、やはり本気で体を奪うなんて考えていないようで、抱擁を解き、私の乱れた格好を見るや否や、慌てて私に背を向け、こう言った。



「す、すみません。僕、大変な事を・・・あの、早く服を整えてください。・・・僕にも、限界があるので」



「あ・・・はい・・・」



先程の意地悪さとは全く別人のような彼の言動に、私は驚いたが、焦る桐谷くんを見るのは久しぶりで、なんだか嬉しかった。



「ふふ、もういいよ」



服を整えた私は、この状況が可笑しくなり、思わず笑った。私の言葉に、やっとこちらを向いた彼には、私が笑っている理由がわからないようだ。



「夏緒里さん、何が可笑しいんですか?」



きょとんとした、少年のような彼の表情に、私は彼が可愛くて仕方ない。


「ふふ、だって、さっきまでとっても色っぽくて意地悪だったのに、急に服を整えてだなんて言うんだもん。桐谷くんが、ボタン外したんだよ?」



「それは、あなたが誰にでもこんなこと・・・させるのかと思ったから・・・」


冷静なようで明らかに動揺している彼は、顔を赤らめて私から顔を背けた。



「ふふ、私、やっぱり桐谷くんの彼女で良かった」



いつも私を奪うと言いながら、私のこと大切にしてくれる。桐谷くん、やっぱり大好き。


私がそんなことを考えていると、彼は、私にキスをしてからにっこりと微笑んだ。



「あんな風に、あなたを無理矢理奪うようなことはしませんよ、僕の大切な奥さん。こういうことは、きちんと夫婦になってから、ね」



「桐谷くん・・・あ、あの・・・奥さん・・・って・・・」


私は、さらっとその言葉を発する桐谷くんに、またもやリードされ、一気に顔が熱くなる。



「ふふ、まあ・・・それまで僕の我慢が続けば、ですけど」


「えっ!?」



次々とドキドキさせるようなことを言う彼に、私はまともに彼の顔を見ることができない。


そんな私の指にはめてある彼からの指輪。それに彼はそっと触れると、急に真面目な声で私に尋ねた。



「これ・・・一之瀬さんと居る時は・・・外した?」



彼の質問に、私は京也さんと過ごした日のことを思い出し、すぐさま否定した。


「ううん。外してないよ。そしたら、桐谷くんは、本当にプロポーズをしたんだね、って。それで、その後、部長から、僕と一緒についてきてくれないか、って言われた・・・」



私は、一言多く言い過ぎたことに気付き、彼を見る。と、案の定、彼はあの殺気立った笑顔でこちらを見つめていた。



「それで?」



私は、そのやはり恐ろしく感じる笑顔に、彼を直視できず、俯いたまま答える。


「あ、あの、それでって・・・もちろん、ちゃんと断りました」



そう正直に答えた私が、恐る恐る彼を見上げると、彼は先程とは違う優しい笑顔で私の頭を撫でてくれた。



「ふふ、良くできました」



満面の笑みを浮かべ、私の頭を撫で続ける彼に、私は心地よさを感じながらも、ある疑問が湧いてくる。


「あの・・・桐谷くん?」


「はい?」



「あの・・・、桐谷くんは、優しくて真面目で冷静で、でも少年のような純粋さを持ってるよね」


「そうですか?自分ではあまり実感がありませんが」



「でも、時に、さっきみたいに意地悪だったり、こうして仔犬を可愛がるみたいなこと言って頭撫でてくれたり・・・何だか全然正反対で、あの・・・どっちが本当の桐谷くんなのかなって」



私が話し終えると、彼は特に表情を変えるでもなく、冷静にこう答えた。



「特に演技しているわけでもありませんので、どちらも本当の僕でしょうね」


「え?」


「え?って・・・、じゃあ、夏緒里さんはどちらの僕が好きなんですか?真面目で優しい僕?それとも・・・」


笑顔でそう尋ねたかと思うと、彼はゆっくりと私の耳元まで顔を近づけ、あの甘く色気のある声で、そっとこう囁いた。



「少し・・・鬼畜な僕?」



「き・・・き・・・」



「き?」



桐谷くんの声だけでもドキドキするのに、さらに凄いことを聞いてくる彼に、私は言葉にならない。



「き・・・ああ、鬼畜な僕の方が好きですか。では、今からそっちでいきましょう・・・ね?たくさん可愛がってあげますよ」


そう言って、にっこりと微笑む彼に、あの少年のような可愛らしさはまるでなかった。あるのは、私をドキドキさせる色気と、大きな威圧感だけであった。



「あ、あの・・・私、優しい方が、いいです!」



私が、必死でお願いすると、彼は私の言った通り、いつもの優しい桐谷くんに戻る。



「そうですか?それは、残念。もう一人の僕、結構気に入ってるんですけどね。あなたも、意外としっくり来てるみたいですし」



「あの、それって・・・やっぱりちゃんと使い分けできてるんじゃ・・・」


「え?なんの事ですか?ふふ、そんなことより、そんなに潤んだ瞳で見つめられたら、僕の我慢、続かないかもしれません」


「え!?」



にっこりと優しい桐谷くんは、再びダークな桐谷くんに変わる。



「少しだけ、味見してもいいですか?悪いようにはしませんので」


そう囁くと、そのままぺろっと私の耳を舐める。



「ひっ!」


予想通り、変な声が出る私。


「だ・・・だめ・・・」



私の弱々しい声に、くすっ、と微笑する彼の唇が、そのまま私の首筋を吸い上げる。



「・・・はぁっ・・・だ、から・・・」


「くすっ・・・だから?」



「だから・・・味見なんてだめ!!」



私は、思いきり彼の胸を押し返した。

それでも離れようとしない彼。



「夏緒里さん・・・ひどい。僕には抵抗なんてしないって言ったじゃないですか。これ、思いきり抵抗ですよね?」



彼は、私の腕を指差しながら私に問いかける。



「だって、味見、なんて言うから・・・」


「あ!もしかして・・・味見じゃなく、完食、ならいいんですか?それを早く言ってください」



「・・・う・・・ん・・・」



「・・・え?・・・」



意気揚々と私に迫る彼だったが、私が頷いたことにより、急に恥ずかしくなったようで、再び私に背を向ける。



「ああ、すみません!僕、本当にどうかしてしまったみたいです。もう変なことはしませんから、僕の事、嫌いにならないでください」



「ふふ、やっぱり桐谷くんって、可愛い!」



形勢逆転。

やはり、桐谷くんは可愛い。


久しぶりの彼との楽しい時間。

桐谷くんと、こうしてじゃれあうひとときは心地よく、私をゆっくりと京也さんから引き戻してくれるかのようだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ