~第66章 京也さんの告白~
「少しは落ち着けたかい?」
ノックをしてから寝室へと入室してきた京也さんは、ベッド脇にしゃがみこむと、私の顔を覗き込みながら再び頭を優しく撫でてくれる。
その心地よさに、私はまたも桐谷くんを重ね合わせた。
「はい。ありがとうございます」
「良かった。じゃあ、夕食にしようか」
そう言って微笑む彼の笑顔は、なぜだか少し寂しそうな笑顔だった。
「わぁ・・・す、すごい!これ、全部京也さんが!?」
リビングにあるダイニングテーブルに並べられた料理の数々。まるで、イタリアンのお店に来たかのように本格的な料理に、私は驚き、感動する。
「うん。残念ながら、僕ひとりしかいないからね。でも今日は、君が居てくれるから、美味しく食事ができるよ。さ、乾杯しようか」
彼は、そう言って嬉しそうに微笑むと、シャンパンの入ったグラスを持ち上げた。
「乾杯」
グラスから一口だけ流し込んだ私は、その美味しさに緊張も和らぐ。
「うん、美味しい!」
「ふふ、良かった。アルコールは、時に緊張をほぐしてくれるよね。さ、食べようか」
「はい」
緊張をほぐすって、彼もなにか緊張しているのかな。私から見ると、そんな気配は微塵もない。もしかしたら、私のこと、気づかってくれたのかも。
京也さんって本当に優しいな・・・。
この人の彼女になったら、幸せだろうな。
そんな考えが浮かぶほど、私は京也さんに心を開いていた。
華やかなディナーを楽しんだ私たちは、再び黒い革張りのソファに腰掛け、食後のコーヒーをいただく。
時刻は20時になろうかというところ。
外はすっかり暗くなり、街の灯りが光り輝く。そのキラキラと輝く壁一面の夜景は、例えようがないくらい美しい。
「ほら、青いライトに照らされたビルの隣、あれが本社だよ」
私の隣に腰掛け、窓の外の景色を指差しながら説明する彼。
「あ!本当だ!近いんですね」
私は、見たことのあるそのビルを見つけ、少しテンションが上がる。
「近いのはいいんだけど、部屋から見えると何だかまだ職場にいるような気になってしまうよ」
そう言って、ははっ、と笑う彼。
「本当に。できれば職場は見えない方がいいですね」
「うん。でも・・・今日は見えていてもいいかな」
「なぜですか?」
「この会社に勤めているから、こうやって夏緒里に出会えたんだからね」
彼は、そう言うと、私が膝の上にのせていた両手のうち、その右手に、彼の手のひらを重ねた。
それだけで、私の胸は高鳴り、体はびくりと跳ねる。
「ずっと気になっていたけど・・・この指輪・・・。彼は本当に君にプロポーズをしたんだね」
京也さんは、その長く美しい指先で、指輪の石の輪郭をゆっくりと一周なぞると、切なそうに微笑みながらこう呟いた。
「僕が、彼よりも先に君に出会っていたら・・・君は僕を好きになってくれていただろうか・・・」
「京也さん・・・」
もしかして、寝室を出る時の寂しげな笑顔は・・・私が桐谷くんのこと、考えていたのが京也さんに伝わっていたから・・・?
「僕はね、夏緒里・・・。今日だけでなく、この先もずっと君にそばにいてほしい・・・。葉月さん・・・僕に、ついてきてはくれないか?」
真剣な表情で真っ直ぐに私を見つめる彼。
ぎゅっと、強く握られた右手。
ふたりだけの、静かすぎる部屋。
それは、まさに彼、一之瀬 京也からのプロポーズであった。




