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私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
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~第65章 初めてのキス!?~

やっと落ち着きを取り戻した私と、何事もなかったかのように接する部長。まあ、私が勝手な解釈をしただけだから、普段通りの態度でおかしくはないのだけれど。でも・・・


思い出すだけで、ドキドキはまたぶり返す。


その原因となった窓の手前に置かれた、黒い革張りのソファとガラステーブル。そのソファに私たちは腰掛け、ひとまずお茶の時間を終えた。






そして、私は、今ひとり雑誌を読んでいる。

調理に取りかかる為、キッチンへと向かった彼に、部屋にあるもの自由に見ていいよ、と言われ、私は

何冊か並ぶ中の一冊を手に取った。


料理や、政治・経済などの本、日本庭園や美術館、海外旅行に山登り、さらには宇宙や歴史の本まで、幅広いジャンルのものが置かれている。


全て興味があるものなのか、興味はないが勉強の為に置いているのか、それは定かではないが、買ったのに読まないということはないだろう。部長が博識なのがわかった気がした。



それにしても・・・シャツの袖をまくり、黒いシンプルなエプロンをつけ、手際よく料理をする彼の姿を見ていると、彼に恋をしない女性などいないのではないかとさえ思ってしまう。何をしても様になるところは、本当に桐谷くんと同じだ。


しかし、やはり何か落ち着かない。

私にも手伝えることがないだろうか。

少し、調理の手が落ち着いたところで、私は彼に声をかけた。



「あ、あの・・・お邪魔だったらすみません。あの・・・私にも何かお手伝いできること、ありませんか?」



緊張しながらも、私は彼に尋ねた。

すると、彼は優しい微笑みを浮かべ、こう言った。



「ありがとう。じゃあ、このソースの味見、してくれるかい?」



彼の答えは少し意外だったが、私にも手伝えることがあるのが嬉しい。私は、差し出されたソースをスプーンで少しだけすくい、口へ運んだ。


「ん!美味しい!」


それは、酸味と甘味がほどよく混ざり合う中に、オリーブオイルの青臭さが微かに香る爽やかな味だった。


「良かった。君にそう言ってもらえると安心するよ」


そう言って微笑む彼の表情は、その言葉通り安堵しているようだ。



「あ・・・夏緒里、ソース・・・」



「え・・・?」



私が彼の言葉の意味を確認しようとしたその時、彼の唇が私の唇の端に触れる。そして、そのままその舌先で、ペロリと舐められた。



「・・・・・・っっっ!!!!!」



一瞬、何が起きたのかわからず沈黙してしまった私であったが、すぐに事の次第を理解し、声にならない叫びを発する。



「ソース、ついてたよ。君の言う通り、美味しいね。ごちそうさまでした」



絶句する私のことなどお構いなしに、にっこりと微笑みウインクしてみせる彼。


「き、き、き、京也さん!」


「うん、なんだい?」


焦って突然名前を呼ぶ私に、再び余裕のある笑顔で答える彼。そのエプロン姿を間近で見た私は、さらに胸が高鳴り、また体の力が抜けていく。


「おっと・・・少し刺激が強すぎたかな?夜は、もっと刺激の強いことが待っているかもしれないよ・・・耐えられるかな?」


床に崩れ落ちそうになった私を、抱き止めてくれた部長。そんな私の耳元で、そっと囁く彼の甘く色気に満ちた声。その声だけでも立っていられなくなるのに、その内容までもが私の体から全ての力を奪った。


「・・・ふふ、冗談だよ・・・。ごめんね、意地悪しすぎたかな?手伝ってくれてありがとう。少し横になるかい?」


話す力さえ失っていた私に、優しく提案してくれる彼。私は、とにかくこの気持ちを鎮めたい。その思いだけで、彼の提案にただただ頷いた。


すると、彼は私を今朝と同じように抱き上げ、リビングの奥へと続く部屋のドアを開け、中へと入る。

そして、私をゆっくりとおろすと、私の頭を優しく撫でながらこう言った。



「僕は、料理の続きに戻るから、気兼ねなく休むといい」



「・・・京也さん・・・すみません・・・」


「できたら、呼びにくるね」


「はい・・・」



そう言って、彼は優しく微笑むと、部屋を後にした。



ここは、寝室?

私は、真っ白でさらさらな肌触りのシーツが張ってあるベッドへとおろされた。彼にかけられた黒色の掛け布団はふわふわで、微かに京也さんの香りがする。


京也さんは、この広いベッドにひとりで寝ているのかな。部屋だってこんなに広くて、寂しくないのかな。私はそんなことを考えながら、この部屋にも設けられている、壁一面の窓に視線を移した。

先程まで明るかった外の景色は、もう茜色に染まっていた。


私、京也さんの部屋に居て、彼の寝室に居て、彼のベッドに寝ている。


・・・桐谷くんのお部屋にも行ったことないのに・・・桐谷くんは、本当に平気なの?


私は、一人きりになった静かなその部屋で、京也さんのドキドキする香りに包まれながら、桐谷くんと一緒に、自宅のベッドへ潜り込んだ時のことを思い出していた。





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