~第61章 デートの始まりから~
外に出ると、彼は停車してあった車のドアを開け、私を助手席へと座らせた。そして、シートベルトをはめようとする。ドアの外から行われている為に、彼の体が私の体に覆い被さるような形で手を伸ばし、ベルトをはめた。
「よし。じゃあドア閉めるよ?」
「は、はい!」
「ふふ、元気がいいね」
彼の行動にまたもや胸が高鳴った私が、その恥ずかしさから逃れようとして出した返事に、彼は優しく微笑み、ドアを閉めた。
彼の言動の全てが私をドキドキさせる。
部長は、わざとドキドキするようなことをしてるんじゃないか。そんな考えさえも浮かぶほど、私の鼓動は速度を落とさない。
「じゃあ、行こうか」
運転席に座り、慣れた手付きでシートベルトを締めた彼は、にっこりと微笑むとそのまま車を発進させた。
「ふふ、助手席に君が乗っているなんて、本当に夢みたいだ」
彼は、嬉しそうに話しかける。
私は、初めて父親以外の車の助手席に乗る。
車だなんて考えてもみなかった。
それだけでも緊張するのに、こんなかっこいい人の隣に座ってるなんて、緊張するどころの騒ぎではなかった。
「・・・」
「あれ?どうかした?」
緊張から全く話ができない私に彼は、心配そうに尋ねる。
「あ・・・す、すみません。あの・・・私、その・・・」
説明したいのは山々だが、全く言葉にならない。
「あ・・・まだドキドキが止まらないんだ?」
彼のそのいじわるな言葉に、私はただただ頷いた。
「ふふ、君は本当に可愛らしい子だね」
そうして、クスッと微笑する彼に一気に顔が熱くなる。
「あ、もしかして今の台詞もダメかな?ドキドキしすぎるのも体に良くないね。えっと・・・」
私の緊張を和らげようと、別の話題を考え出した彼。そんな彼の台詞に私は桐谷くんを重ねた。体に良くない・・・桐谷くんはもっと具体的だったっけ。
私は彼が医師になると決めた時のことを思い出していた。そんな時、部長から彼の名前が飛び出し、私はハッとする。
「えっと、彼・・・桐谷くんは、車には乗らないのかな?」
「あ・・・はい。桐谷くんとは、電車で出掛けることが多いです」
「そっか。・・・彼の話になると、ちゃんと話せるんだね」
「え・・・?」
「ふふ、なんでもない。じゃあ今日は少し遠くに行ってみようか?」
彼は、そう言うと先程よりスピードを上げ、車を走らせていった。
私の自宅を出て40分あまりが経ち、とある駐車場へと車は入って行く。そして、駐車しようと、運転席の彼は私の座る助手席の背もたれに腕をかけ、後ろを向いた。
真剣な表情、そして近くに感じる彼の体温。
私は、やっと落ち着きを取り戻していた胸のときめきが、再びぶり返す。
あぁ、もう私ってば、一体どうしちゃったのよ!
車停めてるだけで、こんなにドキドキしてほんとダメなんだから!
私がどうしようもない自分を責めていると、駐車が終わりエンジンを切った彼が、私に話しかけた。
「葉月さん・・・耳まで真っ赤。もしかして、またドキドキしちゃった?」
「えっ?」
部長の言葉に、恥ずかしさから俯いていた私は彼の方を見る。
すると、気づかないうちに彼の顔は私と唇が触れそうな位置まできていた。
「あっ、すみません!」
私は咄嗟に謝り、再度俯く。
「ふふ、図星、だね。可愛い・・・」
俯いた私の耳元で彼が、そう囁くのが聞こえたかと思うと、彼はそっと離れ、そのまま車から降りた。
そして、助手席のドアを開けると、爽やかな笑顔で私に手を差し伸べた。
「じゃあ、行こうか。葉月さん」
太陽の光に照らされ、さらに輝きを放っているその爽やかな笑顔に私は一瞬見惚れ、差し伸べられたその綺麗な手を掴んだのである。




