~第51章 答えがわかっている質問~
屋上にひとり取り残された私は、しばらく彼の出ていった方を見つめたまま立ち尽くしていた。
部長のことで頭を埋め尽くされたまま、私はオフィスへ戻ったが、上司には彼がうまく話しておいてくれたらしく、誰からも咎められることはなかった。
部長に触れられたところが熱い。
彼が発する言葉も、あの笑顔も、思い出すだけで胸がドキドキと高鳴った。
この「好き」という気持ちは、きっと彼が桐谷くんに似ているからだ。私は彼に、大好きな桐谷くんを重ねているから、だから一之瀬部長のことを好きだと思うんだ。
そう自分に言い聞かせなければ、部長への気持ちに歯止めが利かなくなりそうで、どうしようもなかった。
週末、私は部長に言われたように、この件を桐谷くんへと尋ねようと思っているのだが、なかなか切り出せない。
聞いたところで、許しが出るわけがないことは、目に見えている。
「あの・・・夏緒里さん・・・」
「え!?あ!はい!」
桐谷くんと過ごす休日。
勉強で大変なはずなのに、私とこうしてまめに会ってくれる彼の為にも、今日は私の自宅で勉強しようということにした。
先程まで勉強していたはずの彼に、突然名前を呼ばれ、私は慌てて返事をした。
「夏緒里さん、何か僕に隠していることがあったりしますか?」
彼の鋭い質問に、私はさらに焦って、こう言った。
「いや、あの・・・最近、春樹くんの話出ないから、どうしたのかなぁと思って・・・」
って、これ絶対嘘だってバレるでしょ!
いや、でも意外とこのまま何事もなく話が終わったりして。
そんなことを考えながら、彼の反応を伺っていると、彼はやはり意外な反応を示した。
「春樹なら、学校で会いますし、特に変わりはないですが。夏緒里さんはなぜ、そんなに彼のことが気になるんですか?」
そう言い終わったかと思いきや、彼はふいに、その右手で私の顎を捉え、至近距離でこう囁いた。
「まさか、春樹のこと・・・好き、だなんて言いませんよね?」
その殺気だった空気に、私は、もちろんそんなんじゃない、と答えた。
すると、彼は私から離れ、にっこりと微笑んだ。
「ですよね。すみません、変なこと聞いて」
笑顔、満面の笑顔がこんなにも恐ろしい人は、きっと世界中探しても桐谷くんだけではないか。そう思ってしまうほどの殺気に満ちた笑顔だった。
この嫉妬深さなんだし、部長のことなんて言ったら確実に私に明日はないわ。部長はなぜ、あんなに自信をもって桐谷くんに聞けなんて言ったんだろう。確か仲良くなかったはずなのに。
「ところで、一之瀬さんは、その後あなたに何か言ってきませんでしたか?」
「っっっえっっっ!!??」
彼の口から一之瀬部長の話題が出たことに、私は思い切り動揺し、すっとんきょうな声を出す。
「あ、えっと・・・会議に来て、それで、あの、そう、コピーをね頼まれたかな」
私の説明に、相変わらずの綺麗な顔で、じっと見つめてくる彼。
「そうですか」
話が終わったと思い、ほっとした私に、彼はこう問いかけた。
「それで?」
「それでって、あの、それだけだけど・・・」
真っ直ぐに見つめる姿勢を崩さない彼に、私は全て悟られていると感じ、答えがわかっている質問について話すことにしたのであった。




