~第47章 初めてのお花見~
考え事をしていると、1日が過ぎるのが速いもので、あっという間に週末がきた。
今日は、4月4日の日曜日。先週見に行けなかった桜を、桐谷くんと一緒に見にいくのだ。
ふたりでは初めてのお花見。
だいぶ痛みもなくなった右手のリハビリも兼ねて、お弁当を作ってみたけど・・・張り切りすぎって笑われるかな。食べてくれるかな。
そんな小さな不安と共に私は、待ち合わせ場所へと向かった。
学園都市から電車で25分下った場所にある扇桜寺駅は、名前の通り、桜の名所であるという。
その駅舎は、寺院などに建てられている八角堂のような、風情ある造りになっている。
少し薄暗さを感じる駅舎に差し込む、出入り口からの柔らかな日差しに導かれ、私は駅の外へと向かった。
出口から出ると、そこは先程の駅舎の中とは対極をなしており、太陽の光が輝いていた。
駅から真っ直ぐに延びる桜並木。
地面に舞い散り敷き詰められた淡いピンク色の桜の花びらが、その光を反射してキラキラと眩しい。
私は、駅で待ち合わせということをすっかり忘れ、その幻想的な景色に吸い込まれるように、ゆっくりと並木道を歩き始めた。
少しすると、左手に石垣が見えてきた。その手前には濠があり、小さな石橋が渡してある。よく見ると、濠は駅舎を出たところからずっと続いていた。
私は、石橋を渡ると、木でできた少し古びた門をくぐり抜ける。
出てきた先は、石垣に囲まれた、伝統的な雰囲気を醸し出すお寺であった。本殿に続く石畳の両脇には白い砂利が敷き詰められており、こちらも桜の木が石垣に沿って並んでいた。
そして、その花びらがひらひらと舞い落ち、白い砂利の上をピンク色に染め上げている。
「綺麗・・・」
目の前の美しい光景に、私は思わず呟いた。
ふと、目をやると、桜の木の下に人影が見える。
桜を見上げるその美しくも見慣れた横顔に、私は暫し見とれた後ゆっくりと歩み寄った。
「桐谷くん」
私が声をかけると、彼は一瞬驚いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「こんにちわ、夏緒里さん。あなたも桜に誘われてこちらへ?」
「うん。駅を出たらとても幻想的な景色が広がっていたから・・・あ!」
そう答えた私は、待ち合わせ場所のことを思い出す。
「あ!は、待ち合わせ場所、のことですか?」
私の叫び声に、クスッと笑う彼。
「う、うん。勝手にこんな所まで来ちゃってごめん」
謝る私に、彼は優しく微笑みかける。
「謝る必要なんてないですよ。こうして無事ふたりは出会えたんですから」
「うん、会えて良かった」
私は、彼の言葉に嬉しくなって微笑んだ。
「ところで夏緒里さん、なんだか重たそうなその鞄。僕、持ちますよ。手、まだ痛むでしょう?」
「あ・・・じゃあお願いしようかな・・・ごめんね。お花見と聞いて、お弁当作ってきちゃって・・・」
私は、申し訳なさと恥ずかしさが入り混じった気持ちで、そう答えた。
「お弁当・・・ですか?」
「う、うん・・・」
手が治ってないのにって怒られるのかなぁ。
聞き返されたことに不安を感じた私は、さらに自信をなくし俯いた。
「すごく嬉しいです。手作りのお弁当なんて、初めてで・・・すみません、あまりに嬉しくて・・・なんだかうまく言葉になりませんでした」
少し照れながらも、まるで子どものように嬉しそうに微笑む彼に、私は一気にテンションが上がる。
「で、でも、そんなすごいものじゃないから、あんまり期待しないでね」
「夏緒里さんの手作りなんですし、期待してしまいます」
素直なその言葉に、私はまたもや胸がキュンとなるのであった。




