~第46章 新年度なのに~
4月。
長い冬、別れの春、も終わり、希望を胸に新しい気持ちでの生活が始まる。
私もそのひとり。
桐谷くんはというと、新しい学年に上がり、以前よりもさらに忙しいそうだ。
それでも、まめに連絡をくれる彼に、私は尊敬の念すら抱く。彼は、まさか私に一瞬でも迷いが生じていたなんてこと、思いつきもしないだろう。
出社した私がそんなことを考えていると、社長の朝礼が始まる。
4月定番の挨拶に事業計画、そして・・・
「それから来週、年度始めの会議がある。出席者リストの最下部の者は、会議の補助に入るように」
社長の話も終わり、席についた私は、リストに目を通す。
上層部の名前の中には、もちろん一之瀬部長もいた。
そして・・・私の名前・・・
「っえっ!!!」
「何々!?新年度早々変な声出して」
私の息を吸い込んだ様な叫びに、秋紀が横から顔を出した。
「だ、だ、だってっ!!!」
私が、リストを片手に震えていると、それを見た秋紀はサラッとこう言った。
「あぁ。私と夏緒里、会議のお手伝いさんだね。上層部の会議に参加なんてなかなか無いよ~。一之瀬部長も来るしさぁ、楽しみ」
にこにこと機嫌のいい秋紀を尻目に、私は溜め息をつく。
「で、どっち選ぶか決まったの?」
秋紀の突然の問いに、思わずビクッと身体を震わせる私。
「う、うん!もちろんき、き、桐谷くんだよ!」
「そりゃそうだよねぇ。あんだけ好きになってくれて、尽くしてくれる人、そうそういないよぉ!?で、なんでそんなに動揺してるわけ?」
「え?だって、やっぱり・・・部長とは顔合わせづらくて・・・」
「あはは。大丈夫大丈夫!仕事の時まであんたにちょっかいかけないって!夏緒里って意外と自分に自信あるんだ?」
ニヤニヤと笑いながら肘でつついてくる秋紀に、私はまたもや焦って否定する。
「じゃあ、こう言ったら?桐谷くんと結婚しますって」
「けっ、結婚って!!まだそんなんじゃないし・・・」
「そんなんじゃないって、そろそろだと思うよぉ。恋のライバルが現れたのに、じっとしてないでしょ普通。それに、もうプレプロポーズまで終わってるんだしさ」
さらに鋭い所をついてくる秋紀に、私は切り返す言葉すら見つからない。
「とにかく、桐谷くんに決めたんなら、部長のひとりやふたり、どんと来いでしょ!」
確かに、秋紀の言うとおり、決めたんだから、どっしりと構えておかなくちゃ。
それに、考えたら、こんな私がいつまでも部長に好きでいてもらえるわけない。私があまりにも謝るから、仕方なく優しくしてくれているだけだ。
新しい気持ちで迎えたはずの4月は、またも部長の存在により、ざわめき出した。
それはまるで、穏やかな海に段々とさざ波が立ち始めたような、そんな様子であった。




