~第45章 消えた迷い~
ふたりを天秤にかけるという大それた事をしている私。
だが、一向に気持ちは決まらず、そのまま週末を迎えた。
「夏緒里さん・・・僕の顔に何かついてますか?」
「あ・・・ううん、ごめんね。邪魔して」
日曜日、桐谷くんは桜を見にいこうと誘ってくれたが、この気持ちのまま見に行く気にはなれず、おうちでのんびりすることにしてもらった。
彼は、退院したばかりだし無理しないでと、快く了承してくれ、こうしてふたり私の自宅で過ごしている。
自分から桜を見たいと言った手前、私に合わせてただぼんやりと過ごすのも悪い気がして、勉強をしようと誘った。と、言っても私は、料理の本を見て栄養バランスについて考えているだけだけれど。
真面目に勉強をしている彼は、始める前に、今日は勉強が中心ではないから退屈だったら声をかけてください、と私に念を押した。
そんな彼の優しさに、改めて心惹かれながらも、やはり未だに部長と桐谷くんのどちらを選ぶかという課題は残っており、気になって彼の横顔を見つめていた。
と、いつから彼を見つめていたのかはわからないが、何かついているか、と彼に言われ、私はドキッとして謝り俯いた。
「謝ることないですよ。ただ、あまりにも長いこと見つめられていたので、ドキドキしてしまいました」
あ・・・部長も同じこと言ってた・・・
「夏緒里さん?」
「あ・・・ごめん。えっと、私コーヒー淹れてくるね」
「夏緒里さん、コーヒーなら僕が・・・」
「大丈夫大丈夫。桐谷くんは、気にしないで。私が作りたいんだし」
またもや桐谷くんと部長を重ねてしまった私は、彼に名前を呼ばれ、慌てて席を立った。
それにしても、自分で言うのもなんだけど、あからさまにおかしな態度だよね・・・はぁ・・・何してるんだろ私。
しばらくして、淹れたてのコーヒーと共にリビングに戻ると、彼はローテーブルの上に開いていた参考書の上に、組んだ両腕と頬をのせ眠っていた。
気持ち良さそうに寝息を立てている彼を見ていると、迷いざわめきに満ちていた私の心は、不思議と穏やかさを取り戻していく。
長い睫に、きめ細かな肌、そして形のいい唇。
眠っている顔も本当に綺麗。
彼は、勉強しながらも私のことをいつも一番に気にかけてくれる。
入院中、ずっと私のそばに居てくれたんだもん。寝てしまう位疲れてるんだ。
出会ってから今まで、私に対する彼の真っ直ぐな気持ちは変わらない。
私は一体何を悩んでいるんだろう。迷うことなんか何ひとつないではないか。
私は、やっぱり桐谷くんが好き。
気持ちがひとつに決まった私は、柔らかな彼の髪に自身の指を通した。
そして、そのまま彼の滑らかな額にそっと口付けた。




