~第41章 ライバル再来~
どれくらい経ったのだろう。
頭が、ふわりと温かい。
優しく柔らかに、私の頭を撫でていく。そして、そのまま私の頬に優しく触れる。その手は、まるで壊れ物を扱うかのような繊細さで、そっと私の手を握った。
「桐谷・・・くん?」
その心地良さに、私は眠りから目を覚ます。
「葉月さん、おはよう。気分はどう?」
私が目を開けると、そこに居たのは、桐谷くんではなかった。
なんと、今朝メールのやりとりをした人物、一之瀬 京也部長であったのだ。
「あ、部長・・・私なら大丈夫です!それよりも、先日は大変申し訳ありませんでした!!!」
私は、部長の顔を見た途端、瞬時に頭が覚醒し、必死に謝る。
と、部長が私の手を握っているのに気づき、私は振り払うこともできずそのまま俯いた。
「ふふ、葉月さん、それ今朝もう聞いたよ?」
余裕のある優しい声で、話す彼。
「す、すみません!!では、処分を・・・」
そんな彼とは正反対に、全く余裕のない私。
「うーん、処分ねぇ。君にそんなに真っ直ぐ見つめられると、ドキドキしてしまうよ」
「え?あ、申し訳ありません!」
もう、完全にクビ。
そう覚悟していた時、部長から意外な発言が出る。
「そんなに謝られると、本当に処分、下しちゃうよ?例えば・・・僕の奥さんになりなさい、とかね」
そう言って彼は、握っていた私の左手に軽く口付けた。
「え!?あ、あの・・・えっと・・・」
「あれ、もしかしてもう先約済み?この指輪は例の彼からかな」
「あ、あの、そうですけど、先約とかじゃそんなんじゃなくて・・・」
私は、部長がここにいるっていうだけで緊張するのに、彼の言動にドキドキさせられっぱなしでしどろもどろな回答をする。
「そうなんだ?じゃあ、まだ僕にも可能性、あるってことかな」
そう言ってにっこりと微笑む彼は、やはり桐谷くんと重なる。
「か、か、可能性って・・・あ、あの・・・そういえば、どうして部長がこちらに?」
私は、彼のペースから逃れようと、慌てて話題を変える。
「君のお友達から、処分だけはやめてくれって頼まれてね。それで、君と話をしたいと言ったら、ここにいると教えてくれたんだ。だから、会社を早退してきたよ」
再び、にっこりと微笑む彼。時計を見ると、17時30分を過ぎたところだった。
「そ、早退って・・・なぜそこまでして、私なんかの所に・・・」
私は、ますます意味がわからなくなり、彼に問いかけた。
「なぜって・・・僕は、葉月さんのことが好きだからだよ。おそらく、例の彼に負けず劣らずね」
「す・・・き・・・?そんな・・・」
少し切なげな瞳をして、柔らかく微笑む彼に、私はまたもや桐谷くんと重なり、胸がキュンとなる。
「ふふ、君は自分の魅力に気付いていないのかい?地位や名誉の中で生きるしかない人間にとって、君はまるで救世主のような存在なんだよ。彼も、そうだろう?」
「あ・・・」
確かに、桐谷くんもそんなこと言ってた。
私のどこが、救世主?
部長に桐谷くんを重ねたりして、ふたりの間で私の心は・・・揺れて・・・いる?
「葉月さん・・・」
とても愛おしい人の名を呼ぶように、私の名前を呼ぶ彼。
切なそうなその瞳で真っ直ぐに見つめられると、私は身動きすらとれず、彼の瞳をただただ見つめるしかない。
握られた左手、捉えられた顎・・・キスされるっ!!
そう覚悟してぎゅっと目をつぶった時、病室のドアが開いた。
「夏緒里・・・さん・・・?」




