表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
36/94

~第34章 年下の劣等感~

部長の退散に、広場にふたり残された私たち。


本社の部長にあんな無礼を働いた挙げ句、優しい桐谷くんを怒らせた。

そんな自分が恥ずかしくて彼を見ることすらできない。


先程から、立ち尽くしたまま、互いに何も発さないふたり。


そうだ。とにかく、桐谷くんに謝らないと。


私は、やっと顔を上げ、彼に謝ろうと恐る恐る口を開いた。



が、それは桐谷くんの言葉に遮られる。



「夏緒里さん・・・」



「は、はい・・・」



下を向いたまま、ぼそっと私を呼ぶ彼に、私は怒られる、と覚悟を決めて返事をした。




「夏緒里さん・・・あの人の言う通りだ。あなたにはこんな僕なんかよりも、あの人の方がずっと似合っている・・・」




「・・・え?・・・」




「僕は、まだ学生で一人前にもなれていないただの子どもだ。それなのに、あなたを幸せになんてできるはずがない。あの人の言うとおり、僕はあなたをわかってあげられない」




いまだに下を向いたまま顔を上げない彼だったが、一呼吸置いた後、顔を上げ私を見つめた。


その瞳は、微かに潤んでいるかのように見える。


が、次の瞬間、彼はにっこりと微笑んだ。潤んだ瞳から、堪えきれなかった涙を零しながら。




「あの人は、あなたを満たしてあげることができると言った。そして、あなたをかばって去って行った。僕には、言い返せる言葉すらなかった。夏緒里さん・・・あの人なら、きっとあなたを幸せにできる。どうか・・・僕のことは忘れて・・・あの人と幸せになってください」




そう言うと、彼は私に背を向け歩き出した。



桐谷くんは、いつも私を一生懸命愛してくれる。それなのに、私は・・・わかってあげられないのは私の方だ。



そんなことを考えている間にも、彼の姿はどんどん小さくなっていく。



今、彼の手を掴まなければ、もう二度と会えなくなる気がした。




「桐谷くん!!待って!!」




私は今までの人生で一番大きな声で、そう叫んだ。私のもてる力全てを振り絞って。




そして、彼の元へ走る。



彼は、静かに歩みを止めた。




「桐谷くん・・・私・・・あなたを忘れるなんて、できない!」




何の反応も示さない彼の背中。


その背中に私は、自分の思いを包み隠さず話した。




「私、つまづいたんじゃないの。私から抱きしめたの。彼の、切なそうな笑顔が桐谷くんと重なった。桐谷くんをほうっておけない。どんなに忘れようとお酒を飲んでもダメだった。ホワイトデーの夜も、一緒に帰ってくれないあなたを見てきっと嫌われたんだと思った。ひとりで帰るのが寂しくて悲しくてたまらなかった。あなたは子どもなんかじゃない。こんな自分のことばかり考えてる私なんかよりずっと大人。さっきは、いくら桐谷くんに似ていたとはいえ、軽率な態度をとってしまって本当にごめんなさい。嫌われても仕方ないよね。・・・お願い・・・最後に、大嫌いって言ってほしい。私のことなんか大嫌いだ・・・って・・・」




私が最後まで話し終える前に、私は彼の腕に抱かれていた。


微かに震えながら、強く強く私を抱きしめる逞しくも華奢な腕。



彼の後ろにドサリと音を立てて落ちた彼の鞄からは、教科書らしきものがぎっしりと詰まっているのが見えた。



「あ・・・もしかして、こんな時間まで・・・勉強・・・してたの?」



「うん・・・そうだよ・・・。あなたと約束、したから・・・」


その言葉に、私は涙が溢れ出た。


彼は、私の為に頑張って勉強して、いつも私の幸せを願ってくれている。


桐谷くん、本当にごめんなさい!!!!!!




「ごめんなさい!!!桐谷くん、ごめんなさい!!!!!」




私は、彼の胸で泣いた。声を上げて泣いた。


本当に、小さな子どものように。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ