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私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
31/94

~第30章 幸せなのに~

「3月とはいえ、まだ夜は冷え込みます」


ホテルのエントランスから外に出ると、彼はそう言って私の肩にふわっと温かなものを羽織らせてくれた。


それは、薄いピンク色から薄い藤色に変わるグラデーションのストールだった。


よく見ると先の方に小さな桜の花びらがあしらわれている。



「バレンタインデーのお礼です。今日は、ありがとうございました。おやすみなさい」



そう言うと彼は、にっこりと微笑んだ。


そして、エントランス前に停車しているタクシーに私を乗せると、運転手に行き先を告げ、ドアを閉めた。



「あ・・・」



あっという間の出来事についていけない私に、彼は優しい笑顔で手を振った。





行き先は、私の自宅マンション。支払いをしようと財布を開けると、運転手は、いりませんと言った。どうやら、彼が行き先を告げた時にお代を渡したらしい。



「はぁ~・・・なんか色々あった・・・」



帰宅した私は、溜め息混じりにベッドに横になる。




冬真・・・って呼んで・・・




そんな私に突如、彼に囁かれた台詞が蘇る。



「冬真・・・」



呼んでみたものの、いざ彼を目の前にしたら言えない気がする。だって・・・今日のこと思い出すし・・・今日のことって色々あるけど、やっぱり・・・



「桐谷くんと・・・キス・・・しちゃった・・・・・・しかも唇に!!あぁどうしよう!!そんなことならお酒なんか飲まなきゃよかった!!ていうかそんなに飲めないし沢山飲んでないのに酔っ払うし・・・・・・はぁ・・・桐谷くん・・・格好良すぎ。好き好き、大好き・・・」



私は、キスのことを思い出し、一気にテンションが上がった。


でも・・・



「どうして、一緒に帰らなかったの?桐谷くん・・・」



いつも一緒に帰ってくれる。それなのにどうして今日は・・・。


時間が遅いから?

私が酔っ払いだから?

キスしてみたけど、何か違ったとか?




そんなことを考えていると、今度は一気にテンションが下がった。


時計は、とっくに夜中の0時をまわっている。



「もう・・・寝よう・・・」



そう呟いて、私は目を閉じた。


うっすらと滲んだ涙が、冷たかった。





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