~第28章 ホワイトデー前編~
私の自宅から電車で10分。
学園都市駅と自宅のある駅との間にあるこの駅は、高級ブランドショップや、一流ホテルなどが並ぶセレブリティな所。
そう、一般庶民の私なんかは全く用がない駅である。
しかし、今日3月14日、なんと私はその場所で待ち合わせをしていた。
この場所を何の躊躇もなく指定した相手。それは勿論、桐谷家のご子息、桐谷冬真である。
うぅ・・・桐谷くんはよくここに来るんだろうか・・・私こんな格好で大丈夫かな・・・。
私が、そんなことばかり考えながら改札を出ると、やはり彼は今日も先に到着していた。
と、いうかそれよりも驚く事があり、私は少しドキドキしながら彼に挨拶をする。
「桐谷くん、遅れてごめんね・・・というか・・・その服装・・・」
「こんばんわ、夏緒里さん。この服・・・どこか変ですか?」
彼は、いつものように、にっこりと微笑みながらそう問いかけた。
「いや・・・違うの・・・。桐谷くん・・・かっこよすぎて・・・」
普段から、私なんかには勿体無い程美しい彼だが、今日はホテルディナーということで、シャツにネクタイ、そして仕立ての良さそうなスーツに身を包んでいる。
それ故に、美しさに加え、格好良さまで際立っているのだ。
そして案の定、周りの視線はみな桐谷くんに釘付けだ。相変わらず、彼はそのことに全く気づいていないが。
「・・・良かった。僕、嬉しいです。夏緒里さんに格好いいって言ってもらえたの、初めてだから・・・」
そう言って、少し照れくさそうに微笑む彼に、私はまた初っぱなからドキドキが止まらない。
「かっこよすぎて、本当に王子様みたいだよ。ドキドキするし・・・私なんか隣に並べないよ」
私は、素直にそう伝えた。
すると彼は、軽くお辞儀をし、すっと私に手を差し出すと、こう言った。
「私には勿体無きお言葉。さあ、美しき姫君、まいりましょうか」
「・・・はい」
私は、ただ一言そう答え、彼の掌に右手を重ねた。
彼は、私の手をとるとそのまま歩き出す。
「桐谷くん・・・」
「はい」
「ドキドキと恥ずかしさで死んじゃいそう・・・」
「えっ!大変だ。少し休みますか?」
「いい。今立ち止まったらそれこそ注目の的だもん」
そんな会話をしながら、私たちはディナーへと向かうのであった。
でも桐谷くん・・・やっぱりお医者さんにむいてる気がする。
「わぁ・・・綺麗・・・」
着いた先は、世界的にも有名な、かの一流ホテル。
その38階のレストランに私は居た。
壁一面を覆うピカピカに磨かれた大きな窓からは、街の灯りが一望できる。
「桐谷くん、こんな素敵な所に連れてきてくれてありがとう」
私は、あまりの感動に早速お礼を言う。
「良かった。気に入っていただけて。ケーキが食べたい、とおっしゃっていたので、このホテルにしたんです」
彼は、そう言ってにっこりと微笑んだ。
「え?それだけでこんなすごいホテルに?」
私は、彼の言葉に驚きを隠せない。
「ええ。こちらのケーキは本当に美味しいんですよ」
彼は、私の驚きとは裏腹に、幸せそうにニコニコと笑う。
「そうなんだね。楽しみ」
彼の考えにはいつも驚かされるが、幸せそうな彼を見ていると、なんだか私も幸せな気分になった。
食前酒に始まった夢のような豪華な食事が終わると、彼は近くに立っていたウェイターに声をかけ、こう言った。
「デザートをお願いします」
「はい。かしこまりました」
そうして出てきたのは、美しい装飾が施されたピンク色の箱。
その箱の蓋を、運んできてくれた店員さんはゆっくりと開けた。
「わぁ・・・」
その光景に思わず見とれる私。
その箱の中には、色とりどりの小さなケーキが、まるで宝石箱の中の宝石のように美しく散りばめられていた。
「気に入って、いただけましたか?」
彼の少し不安そうな声に、私は我に返った。
「うん!こんな綺麗なケーキみたことがないよ」
私が半ば興奮気味にそう答えると、彼は安堵したようにこう言った。
「実はこれ・・・僕の案なんです。あなたを喜ばせたくて、パティシエの方にお願いして作っていただきました。テーマは宝石箱。箱は苺のチョコレートでできているので全て食べられるんですよ」
「・・・え・・・?これ桐谷くんが考えたの!?ますますすごいよ!ケーキやさんになれちゃうかも!」
彼の話を聞いた私は、さらに興奮しながらそう言った。
「ふふ、喜んでもらえて良かった。でも、残念ながら僕は考えただけで、作ることはできません」
「じゃあ、桐谷くんが考えて私が作ろうかな」
私は、無謀にもそんな想像を話した。
「ふふ、そんな未来もいいですね。でも、僕の提案は無茶なことばかりですよ。覚悟してくださいね」
そう言ってにっこりと微笑む彼。
そんな彼の言葉に、私たちはなんだか可笑しくなって一緒に笑った。
素敵な彼とふたりで美味しいケーキを食べて、一緒に笑える。そんな私は、本当に幸せ者だと心からそう思うのであった。




