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私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
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~第27章 彼女そして幼なじみの間で~

翌朝、私が目を覚ますと、桐谷くんからメールが届いていた。



(夏緒里さん、おはようございます。昨日は、なんだか慌ただしくなってしまい、申し訳ありませんでした。それで、昨日お聞きするのを忘れてしまったことがあり、メールしました。今週末の14日(日)のご都合はいかがですか?もしよろしければ、バレンタインデーのお礼をと思っていますが、いかがでしょう?)



聞き忘れるなんて珍しい。私は、そんなことを思いながらこう返信した。


(昨日は、ふたりの仲良しな姿が見られて嬉しかったです。なんだか心が温まりました。それに、お揃いの指輪までプレゼントしてもらえて・・・本当にありがとう。毎日つけるね。14日、予定はないので、ぜひ桐谷くんに会いたいです)



送信し、出勤の準備をしていると、再び返信がきた。



(良かった。僕も、早く夏緒里さんに会いたい。14日は何かしたいこと、ありますか?)



会いたいって・・・メールなのにドキドキする。

私は、昨日の駅での出来事を思い出し、そっと自分の唇に触れた。


「あんな色っぽい桐谷くん、見たことない。もっと、見たことない顔があるのかな・・・」



私は、目の前にあった鏡に向かってそう呟いた。


(したいこと・・・一緒に美味しいケーキを食べたいです)



14日はホワイトデー。そう考えると甘いものしか浮かばず、私はそのまま返信した。



(ケーキ、いいですね。では、14日にお会いしましょう。僕も指輪、毎日していきます。でも、今は春休みなので学校では御披露目できないのが残念ですが)



春休みかぁ。私も学生ならもっと桐谷くんに会えるのになぁ。でも、医学部なんて私には到底無理だけど。桐谷くんも、休みだからって勉強しないわけじゃないだろうし・・・彼も頑張ってるんだから私も仕事頑張ろう!


「よし!気合い入れて、行ってきます!」



私は、誰もいない部屋に元気よくそう告げると、足取り軽くオフィスへと向かった。










「で、桐谷。休みだというのに、こんな朝早くからどうしたんだ?」



現在時刻、午前8時10分。


僕は、春樹の部屋に来ている。


一応着替えてはいるが、まだ眠そうなその声は、低血圧な春樹らしく明らかに少し不機嫌そうだ。


「ごめんね、一緒に勉強しようと思って・・・あと、ちょっと色々と・・・」



「色々?」



「うん・・・色々・・・」



春樹の問いかけに、僕はなんだか言いにくくて、言葉を濁した。



「色々・・・ねぇ・・・」


そう呟いた春樹は、持っていた煙草に火をつけると、壁の中ほどにある障子と窓を開け、その手前の勉強机の椅子に腰掛けた。


春樹の家は、伝統的な日本家屋で、広い和室がいくつもあり、日本庭園のような広い庭には鯉が泳ぐ池や鹿威し(ししおどし)なんかがある、まさにお屋敷のような造りになっている。


ただ、春樹の部屋だけは勉強し易いようにと、畳は床に変え、机に椅子、背の低いベッドに、書棚なども置かれている。


床といっても和室に合うような、木肌を活かし黒が強い茶色をした光沢のある床材であるが。

漆で塗られた漆黒の家具との調和が取れていて、春樹らしいおしゃれな和モダンといった感じの部屋である。



窓からは、天に向かって真っ直ぐに伸びる青々とした竹の幹が見える。



暫し沈黙が続き、ゆっくりと煙草を吸い終えた春樹は、僕の方を降り向くとこう問いかけた。



「プロポーズ、のことだろ?」



「何も言っていないのに、僕の考えていることがわかるなんて・・・さすがは幼なじみだね」



僕は、春樹に心を読まれたような気分になり、そう答えた。



「しかし、あんな場所でプロポーズしようとしていた奴が、何を悩むことがあるんだ?」


春樹は、やっと目が覚めたのか、いつもと変わらない笑顔で僕に尋ねる。


「うん。プロポーズの計画はあるんだけど、僕はまだ学生で、彼女を養っていける立場にないよね。そんなことで、夏緒里さんや彼女のご両親に認めてもらえるのだろうかと、急に不安になってしまって・・・」



「・・・なるほど」



僕の考えに静かに頷く春樹。



「昨日、彼女と居た時はそんなこと感じなかったんだ。それなのに、帰宅してひとりになると途端に不安が押し寄せてきて・・・」



僕は、そう話し終えると、再びその不安にさいなまれ、俯いた。



そんな僕を見かねてか、春樹は立ち上がると、僕の座っているラグの隣に腰掛ける。


そして、僕の両肩を掴み、春樹の方を向かせると、未だ俯く僕に彼は優しい口調でこう言った。



「俺の目、見れる?」



その言葉に僕は、俯くのをやめ、おずおずと春樹の目を見つめる。



「で、お前は何が不安?」



真剣に真っ直ぐ見つめてくる春樹に、僕は再び先ほどの不安を話した。


すると春樹は、にっと笑い、こう言った。



「それ、そのまま伝えたらいい」



「・・・え?」



春樹の言っている意味がわからずに戸惑う僕。



「これだけちゃんと相手の目見て、自分の気持ち言えるようになったんだ。その思いも全て話して、受け入れてもらえてこその結婚だと、俺は思う」



そう言って、片方の手で優しく僕の頭を撫でてくれる春樹。


そんな春樹に、僕は胸がいっぱいになり、ぎゅっと力強く抱きしめた。



「そうだね。僕の全てを受け入れてもらえてこその結婚だよね。春樹・・・やっぱり君に相談して良かった!いつも本当にありがとう」



「・・・あ・・・ああ・・・」



「あれ?春樹?」



僕は、春樹の様子がおかしいのに気づき顔を見上げる。



「わかった。だから・・・桐谷。抱きつくのはやめろ・・・」



「あ・・・」



よく見ると、そう言う彼は顔まで鳥肌が立っていた。



「ふふ・・・そうだったね。ごめん」



そう言って謝った僕だったが、再びぎゅっと春樹を抱きしめた。



「・・・・・・」



「あれ?春樹?」



何も発しなくなった春樹を再び見上げようとした時、瞬時に僕の腕は振り払われ、そのまま今度は春樹が僕を抱きしめる。


「ひっっっっ!!!!」


瞬間、春樹と同様に全身に鳥肌が立った。



「・・・春樹・・・もうしないから・・・」



僕は、必死にお願いする。


それでも春樹はやめない。



「ほら、わかったか」



そう言って春樹はニヤリと笑うと、やっと僕を解放してくれた。



「う・・・うん」



「いくら幼なじみでも男同士は気持ち悪いだけだろ。ま、お前の感謝の気持ちは伝わったけどな」


そう言って柔らかく微笑む春樹に、僕は最初の大きな不安さえも小さなものに変わった気がしたのである。





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