~第22章 到着~
少しレトロな風合いを残した駅舎を出ると、そこには並木道のある大きな広場があった。
その並木道を真っ直ぐに進んで行くと、少し近代的な建物が右手に見えてくる。
「この建物は何?」
「これは博物館。そしてその隣は美術館です。この町には先ほどの駅舎の様に歴史的建造物が多いんですが、これらの建物のように建て直すケースも少なくありません」
彼は、私の問いに丁寧に説明してくれた。
しばらくすると、ひらけた通りに出た。特段、交通量が多いわけではないが、とにかく広い五差路。その内のひとつを、彼は進んでいく。
歩き始めて15分程経っただろうか。周りには大きな家々が建ち並んでいる。まさに高級住宅街といった感じだ。この中に彼の自宅があるとしたら・・・私なんて完全に場違いであることは言うまでもない。
と、突然彼が足を止める。そこには、ヨーロッパのお城にあるような黒い鉄柵の大きな門があった。中は噴水のある広い公園のようだ。
彼は、その門扉をゆっくりと押し開けると、中に入っていく。少し休憩でもするのかと、私は彼に声をかけた。
「素敵な公園だね」
すると、彼は少し切なそうにこう言った。
「公園・・・ではなく、ここは僕の自宅の庭です。たくさん歩いてお疲れなのに、さらに歩かせてしまってすみません。あと少しで自宅に着きますから・・・」
「・・・え?・・・」
彼の言葉に、私は何のことだかわからず、言葉にならない声を出す。
その間にも、歩き続けた私たちは入り口から見えた噴水を通り過ぎ、そして煉瓦色の壁をした少しレトロな雰囲気の一軒の家の前に辿り着いた。二階建てだが横に長く伸びているその様は、王宮とまではいかないものの、それを彷彿とさせるたたずまいだ。
「あ・・・あの・・・」
「すみません、やっと到着しました。ここが僕の自宅です」
戸惑う私に、彼は申し訳なさそうな表情で、そう答えた。
「え・・・あの・・・そうじゃなくて・・・」
私は、とにかく驚くなんてものじゃないくらいの驚きで、いまだに言葉にならない。先ほど見てきた家々は、大きいといえど、まだ外から家が確認できたが、ここは中に入ってやっと家だとわかるのだ。
私、なんてすごい人と付き合ってるんだろう・・・泣かせたなんて知れたら大変なことになりそう・・・もう場違いすぎて完全にアウトでしょ。こんな平凡な私なんて・・・
そんな思いだけがグルグルと頭を駆け巡る。
そんな私に、彼が優しく話しかけてきた。
「あの・・・夏緒里さん、大丈夫ですか?体調が優れないのならまた次回でも・・・」
その不安そうな彼の眼差しに、私は正気に戻る。
「あ・・・ごめん、大丈夫。おうちが広すぎてびっくりしただけだから」
「すみません・・・もし、また具合が悪くなったりしたら、遠慮なく言ってくださいね」
そう言って再び不安そうな瞳で見つめてくる彼に私は、うん、とだけ返事をした。
とにかく、ダメで元々。とりあえず、ここまで来たんだから挨拶くらいはきちんとして帰ろう。私は、そう胸に秘め、家の中へと入っていった。




