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私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
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~第2章 出会い~

「ふぅ、寒いっ」


11月とはいえ、日が落ちるとかなり冷え込む。

金曜日の夕方、オフィスから出た私は事前にまとめてきた荷物を持ち、そのまま駅へと向かった。


駅ビルでちょっとした手土産を買い、ホームへと急ぐ。


「19時20分発、と」


私は電光掲示板を確認し、列車へと乗り込んだ。

「ふぅ、間に合ったぁ」

私は、ほっと胸をなで下ろし、空いている席に座る。週末だからかこの時間はそんなに混んでいない。


ここから実家のある駅までは約30分。都会と都会の間にある田舎といったところだろうか。


久しぶりだけど、お母さんたちなんていうかなぁ。また結婚相手の話されるかも。


それにしても列車の中は暖かい。そう色々と考えていた私は、そのまま眠りについた。










「・・・さん」


「・・えさん」



う~ん・・・何だろう・・・誰かを呼ぶ・・・声・・・・・・?



「おねえさん」


あれ・・・綺麗な車掌さん。私に何か用かなぁ・・・・・・


「お姉さん!」



「え!!??」


私はトントントンと肩を叩かれ、ハッとした。



目が覚めると、そこにはひとりの青年が立っていた。


これまで見たこともないくらいの美しい青年が。



「お姉さん、もう終点ですよ」


あ、さっきの誰かを呼ぶ声はこの人だったんだ。私がぼーっとそんなことを考えていると、その青年はもう一度私にこう言った。


「お姉さん、ここ、もう終点ですよ」



「・・・しゅうてん?・・・え?終点!!??」


青年の言葉に私は、完全に目が覚めた。慌てて辺りを見まわすが、車内には私たち以外もう誰もいなかった。


「あ、あの私・・・」


私は何が起きたのか判らず、頼りない声を出す。


「眠ってしまっていたんですよ」


そんな私に、青年が優しくそう答えてくれた。


「あ・・・すみません!あ、ありがとうございます!」


やっと状況がつかめた私は慌ててお礼をいうが、寝起きでなんだかしっくりこない。


「どういたしまして。目が覚めて良かった。さあ、とりあえず、降りましょうか」


と、その青年はにっこりと微笑んだ。




「うぅ、外は寒い」


列車を降りた私は、外の冷たい風に思わずジャケットの襟を立てる。


青年にお礼を言って、引き返す電車に乗り換える為、向かいのホームに向かおうとしたその時・・・


「あっ・・・」


私は、うまく踏み出せずにつまずいてしまった。


次の瞬間、私の手に何かが触れる。



「あっ!私、あの、本当にごめんなさい!」


気がつくと、青年が私の手を掴んでくれていた。


「本当に度々すみません!」


私は恥ずかしさでいっぱいで何度も謝る。


「お姉さん・・・手、冷たいですね」


青年は、少し真面目な顔をしてそう答えた。


「あ、そうですよね!本当にごめんなさい!」


私は謝ることしか頭に浮かばず、また謝る。



そうしてすっかり俯いてしまっていた私の首もとが突然ふわっと温かくなった。


「えっ・・・?」


「そんなに冷たくなってたんじゃ風邪、ひきますよ。手袋じゃなくて悪いけど、マフラー、良かったら使ってください」


そう言って青年は、またにっこりと微笑んだ。


「あ・・・あの、ありがとう」


私はあまりの突然の出来事に、ただそれだけ言うのが精一杯だった。


「じゃあ、僕はこれで」


青年は優しく微笑むと、歩き出した。



あ、行ってしまう・・・そう思った瞬間、私は大きな声で叫んでいた。


「ま、待って!」



青年は驚いた表情でこちらを振り返った。


「あ、あの・・・これ、お菓子。良かったら食べてください」


私は青年に駆け寄り、先程、手土産にと買ったお菓子を差し出した。



「っふ、っふふふ」


と、突然青年が笑い出した。


「あなたって人は、本当に面白い人ですね」


と、言うとまた笑い出す。


私は、何がおかしいのかわからずに、ただただ青年が笑うのを眺めていると・・・


「はぁ、すみません。本当に面白くて・・・ふふっ・・・お菓子ありがとう。大事に食べますね」


そう言って、爽やかに去って行った。




「はぁ~・・・・・・私すごいことした・・・!!」


私は、そのままその場にへなへなと座り込んでしまった。と、いうよりは腰が抜けた。といったほうが正しいだろうか。

とにかく全身の力が抜けた。


なんか、車掌さんじゃなかったし、明らかに私より年下っぽかったし、優しくてでも何がおかしくて笑ってたのかわからないし・・・ていうか顔、綺麗すぎでしょ!!!


私は、今までの人生で経験したことのない事の連続で、頭も気持ちも大混乱だった。





「はぁ・・・かっこよかったぁ・・・」


と、今回はいつものため息とは違って、嬉しいため息。最終的に私の中で「かっこいい」で落ち着いたようだ。


と、そこで突然、携帯電話が鳴った。

私は携帯を入れた場所すら忘れてしまい、やっと見つけて電話に出る。


「もしもし?」


「あ、夏織里?いまどこにいるの?」


実家の母からの電話。


「あ、お母さん?今ねぇ・・・今・・・あ!!」


「何!?どうしたの!?」


「今・・・私、終着駅にいる・・・」


母からの問いに、私は、すっかり我に返った。


「あ!しかもお土産渡しちゃったぁ!」


「はぁ!?誰にぃ?なんかよくわからんけど、来るなら早くいらっしゃい。もう夜も遅くなってきたよ」


そう母に言われ、初めて時計を見た。


21時30分。


「えぇ!!!21時30分!!??」


「そうよ~。駅に着いたら電話しなさいね。迎えにいくから。気をつけて来なさいよ。寝るんじゃないわよ」


「うっ。さすがお母さん。私の行動パターンお見通しだわ」


「もう、変な子ねぇ。早くしないと電車なくなるわよ」


「はぁい」


そう返事をして電話を切った。


もう27だというのに母親の前ではまだまだ子どもだわ。


そんなことを考えながら私は、やっと引き返す電車に乗り込んだ。

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