~第17章 恋慕~
週末、私は桐谷くんの誕生日プレゼントを探しに、オフィスの隣駅にあるデパートに来ていた。
若い男の人って、どういうのを貰ったら喜ぶんだろう・・・。
何を買えばいいのか全くわからない私は、とりあえず紳士服売り場に来ていた。
「う~ん・・・これとか似合いそうだけど・・・」
私が悩んでいると、店員が声をかけてきた。
「贈り物ですか?」
「あ、はい・・・」
紳士服売り場で贈り物なんて、父親のものしか買ったことない私は、店員の言葉に緊張しながら返事をした。
「大学生なんですけど、どういうものがいいのか全然わからなくて・・・」
私が、そう説明すると、店員はこう答える。
「学生さんでしたら、今は小物類も人気ですよ」
そう言って、何点か商品を持ってくる。
そこには、ベルトやカバン、手袋や帽子などが並べられていた。
「小物だと、なんだかイメージわきやすいですね」
私がそう言うと、店員は服との合わせ方を説明仕出す。
私としては、手袋かなと思いつつも、段々わからなくなってしまい、ひとまず店を出た。
「ふぅ・・・なんだかよくわからなくなってきた・・・とりあえず本屋さんでチョコの本探そうかな」
私は一人そう呟き、7階にある書店に向かった。
「へぇ・・・こんな作り方もあるんだぁ・・・」
私が、お目当ての本を立ち読みしていると、突如背後から話しかけられた。
「美味しそうなチョコレートケーキですね。彼氏へのプレゼントですか?」
突然の事と、彼氏という言葉に驚いた私は、勢いよく後ろを振り返った。
「っっっ!!!!!!」
振り向いた先に居たのは、まさにその彼氏。
桐谷冬真であった。
「こんにちわ、夏緒里さん。こんな所でお会いするなんて奇遇ですね。いや、運命、でしょうか」
そう言って相変わらずの綺麗な顔で、にっこりと微笑む彼。
「あ・・・き、き、桐谷くん!!!どうしてここに!?」
私が、この驚きをやっとのことで言葉にすると、彼は再びにっこりと微笑みこう答えた。
「女性の気持ちがわかる本、を買いに・・・と言いたいところですが、ちょっと参考書を買いに来ただけですよ」
「女性の気持ちって・・・もう充分わかりきっている気がする・・・」
私は、彼の言葉にドキドキしながらそう返した。
すると、彼は少し真面目な顔でこう言った。
「それにしても、あんなに急に振り返ったら危険ですよ。危うくキスしてしまうところでした・・・夏緒里さん」
「っっっっ!!!!!」
「ほら。僕って女性の気持ち、わかってないでしょう?」
そう言って、再びにっこりと微笑む彼。
「もう!ほんと全然わかってない!私ばっかりドキドキさせて!」
私は、彼の胸をポカポカと叩いた。
すると、彼は再び真面目な顔になり、私の耳元でこう囁く。
「じゃあ、本当にここでしましょうか?・・・キス・・・」
「っっっっ!!!!!」
完全に固まった私に、彼はふっと笑い、こう言った。
「ふふ、冗談ですよ。そういう大事なことは、ふたりきりの時に・・・ね」
全くフォローになっていない彼に、私は顔から火が出そうな程熱くなり、しばらくその場から動けなかった。
「桐谷くん・・・」
「はい?」
「桐谷くんって、やっぱりズルい」
ようやく動けるようになった私を、彼は近くのカフェに連れて来てくれた。
カフェラテを飲みながら私は、そんな一言を放つ。
「今度は何がズルいんです?」
彼はまた、不思議そうな表情で私に聞き返す。
「私だけいつもドキドキしてる気がする」
私は、素直にそう答えた。
すると、彼は再びふっと笑い、こう返す。
「夏緒里さんだけが、ドキドキしているって、どうしてそう思うんです?」
「だって、桐谷くんはいつも冷静に物事を見ている感じだし、ドキドキするような事でもすんなり言えちゃうでしょ?」
私は、拗ねた子どものような口調で、そう話した。
「僕は、あなたの感受性の豊かさにとても興味があるんです。僕にはない反応、気持ちの表現。そして、ドキドキしているその表情が、とても可愛らしく、抱きしめたくなる・・・」
「・・・え?・・・」
「ドキドキしているのは、夏緒里さんだけではありません。僕は、あなたと出会ってから、ドキドキするということ、あなたを愛おしいと思う気持ちが止まらない」
そう言って切なそうな瞳で見つめてくる彼の視線から、私は目を逸らすことができない。
「あ・・・あの・・・」
「夏緒里さん・・・」
「はい・・・」
私は、呼ばれるがままに返事をする。
「夏緒里さん・・・今度、僕の・・・・・・」
彼は、そこまで言うと少し沈黙し、こう続けた。
「あ、いえ・・・なんでもありません・・・」
そうして、珍しく自分から視線を逸らす彼。そんな彼に、私は不安が募る。
「あの、桐谷くん・・・」
「はい・・・」
私が呼びかけると、彼は静かに返事をした。
「あの・・・私なんかじゃあなたの役に立てないのかもしれないし、こんなこと言うと図々しいと思われるかもしれない。でも私は、桐谷くんのこと、本当に大切だから、だから・・・もっとあなたのことを話してほしいの。愚痴でもなんでもいい。もっともっと桐谷くんのことが知りたい」
私が真剣にそう告げると、彼は少し不安気な表情でゆっくりとこう返した。
「僕のこと・・・知れば知るほど、嫌いになるかもしれませんよ・・・」
彼の意外な一言に、私は少し驚きはしたが、嫌いになることは決してない。いつになくそんな自信があった。それに・・・
「嫌いになんて、なれないよ・・・。だってもう、後戻りできないくらい・・・大好きだから・・・」
そう伝えながら私は、思わず涙ぐんでしまう。
そんな私に、彼はゆっくりとこう言った。
「・・・ふふ・・・あなただって充分ズルいですよ。そんな潤んだ瞳で見つめられたら・・・ますますあなたを好きになる」
「ふっ・・・ふふふ」
私たちは、なんだか可笑しくなってふたり同時に笑い出した。
「僕たち、どうやら本当に両想いのようですね」
「うん。出会った時から・・・ね」
秋紀が言ってた・・・「バカップル」って・・・もしかしたら私たちのことかも・・・。そんなことを考えると余計に可笑しくて笑ってしまう私であった。




