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私に普通の恋愛を  作者: 月並 一葉
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~第14章 進みゆく道~

「そういえば、桐谷くんって誕生日いつ?」




1月も終わりに近づいた日曜日。今日は、桐谷くんが私の自宅に来ている。あのクリスマスの前の夜以来、初めてだ。


と、いっても特に何かするわけでもなく、ただ、まったりとした休日を過ごしている。


最近出したコタツに隣同士脚を入れ、ゆっくりとコーヒーを飲みながら、たわいのない話をする。


そんな時、私は、ふと彼の誕生日が気になって尋ねてみたところだった。



「え?僕ですか?・・・いつだと思います?」



「え?えっとぉ・・・あ、冬真って名前だから・・・冬かな?」


私は、思いつきで答えてみた。



「はい。本当に、真冬に生まれたから冬真と名付けられたみたいですよ」


そう言ってにっこりと微笑む彼。思いつきが、意外と当たってしまった。


「真冬って、今くらいかな?いつだろう・・・2月とか?」


私は、おずおずと尋ねた。



「はい。実は、バレンタインデー生まれなんです」



彼は再び、にっこり。



「え?2月14日!?」


私は、驚きそう叫んだ。


「ええ。2月14日です」



そう言うと彼は、私の耳元に顔を近づけ、ゆっくりとこう囁いた。



「夏緒里さんからの愛の告白・・・期待していますよ」




「っっっ!!!!!!」


瞬間、私は声も出せず固まった。



「あれ?どうしました?夏緒里さん、耳まで真っ赤ですよ、ふふっ」


そう言って、くすりと笑う彼。



そんな彼に私は、今日もドキドキさせられっぱなしだ。



「桐谷くんといると、心臓がいくつあっても足りないよ」


私は、溜め息混じりに呟く。



「じゃあ、僕はいなくなりましょうか?」


すると彼は、少し寂しそうな顔で私を見つめた。


「桐谷くん・・・ズルい・・・」



「え?」



「その寂し気な顔がもうほんとにズルいよ!」


私は、またドキドキしながらそう伝える。



「何がズルいんです?僕、寂しそうな顔してるんですか?」


と、彼は、自分がどんな表情をしているのかなんて全く気づいていないようだ。



「してる。まるで捨てられた子犬のような、かわいそうで、可愛くて・・・絶対に放っておけない・・・すごく大切にしたくなる顔・・・」



そう告げた私は、愛おしさと、またどこかへ行ってしまうのではないかという不安でいっぱいになり、彼をぎゅっと抱きしめた。



「夏緒里さん・・・?」


「もう、ひとりにしないで。ずっとこうして側にいて。私、桐谷くんがいない世界なんて・・・もう考えられないの」



私は、今までの不安だった気持ちまでもが蘇り、それを全て吐き出した。



「夏緒里さん・・・僕も同じ気持ちですよ・・・。ひとりにしたくもないし、ひとりになりたくもない・・・あなたとずっと、こうして温もりを分かち合いたい・・・でも、あなたの心臓に負担がかかることはしたくない」



彼は、真面目な顔で、私を見つめた。



「桐谷くん・・・それはもう手遅れだよ・・・」


「え・・・?」



微かに笑い、そう答える私と、その言葉に戸惑う彼。



「桐谷くんに初めて出会った時からドキドキしてる。負担はかかりっぱなし。だから・・・」




「だから・・・?」



彼は、少し不安そうな顔で私の言葉を反復する。



「私がいつ倒れてもいいように、立派なお医者さんになってよね」


私がにっこりと微笑み、そう告げると、彼は少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。




「ふふ・・・夏緒里さんには、かないませんね・・・。元々、医者になる気なんて、僕には全くなかった。ただ周りに合わせて勉強しているだけ。そんな医学の勉強すら、僕には無意味だと思ってきました。でも今、初めて僕の人生の目標ができた。あなたを助けることができる医者になれるよう、残り2年の大学生活、もっともっと頑張りますね」



そう話す彼のまなざしは、キラキラと輝きを放っていた。


私の一言で彼の人生を動かしてしまって本当に良かったのだろうか。私に、今度は違う不安が押し寄せる。



「あの・・・自分で言っておいて何だけど・・・私またちょっと自分勝手に言いすぎたかな・・・?」




すると彼は、にっこりと微笑みこう言った。




「心配しないで・・・僕が決めたことだから。こんな僕に、目標を指し示してくれて、ありがとう」




そう言って微笑む彼に、私も彼を支えていきたいという思いが強くなった。


でも・・・心臓がいくつあっても足りないという表現・・・あんなに真面目に受け止められるなんて、やはり彼はお医者さんにむいているのかも・・・。


私は、心の中で密かにそう思った。




そうして、まったりとした日曜日は、思わぬ形で幕を閉じることとなったのである。




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