~第11章 交錯2~
「なぁ、桐谷。ここってどう思う?」
・・・・・・・・・・。
「桐谷?お~い?」
・・・・・・・・・・。
「・・・え?何?春樹。何か言った?」
「何か言った?じゃなくて・・・お前やっぱ、あれからちょっと元気ないんじゃない?さっきの実技も珍しくミスってただろ?まさか桐谷が、って教授も驚いてたぜ」
「へぇ・・・そうだっけ?」
年明け、学校が始まり、僕たちは放課後の研究室で明日の予習をしている。だが、一向に身が入らない。
夏緒里さんとは、もう会わない方が彼女の為だと、今まで連絡すら取っていない。
自分で選んだ道。
でも、どうしても、彼女のことが忘れられなかった。
「ねぇ、春樹」
「ん?何?大丈夫か?」
「僕って、ほんと・・・何のために生きてるんだろ・・・」
「秋紀、今日って予定ある?」
「え?ないけど、どうした?」
「うん、秋紀と一緒にぱぁっと美味しいものが食べたくなって」
「いいねぇ!何食べよっか?」
「秋紀、私ね。あのイタリアンに行きたいな」
「え?・・・」
年明けのある日のお昼休み。私は、秋紀にそんな提案をした。
私にとって、彼と過ごした時間は、短くてもとても良い思い出であり、悲しむことなんてもう、何もなかった。
「あのイタリアンて・・・学園都市の・・・だよね?」
秋紀は、少し心配そうな面持ちで問いかける。
「そう。あそこ美味しいし、おしゃれだし、秋紀と行って楽しかったから」
私は、ニコニコしながら答える。
「あ、そうだね・・・美味しいもんね」
「うん、それに・・・あそこ、桐谷くんとの良い思い出しかないから」
私は、再び笑ってそう、話す。
「夏緒里、完全に吹っ切れたのね。わかった、行こう!その代わりぃ・・・途中で泣かないでよぉ?」
秋紀は、そう言っておどけてみせる。
「泣かないよぉ!もう思う存分泣きましたから」
私は、そんな秋紀におどけて返した。
ほんと、沢山泣いた。
彼が、元気でやってるかも気にはなる。
ただ、今の私は、秋紀との夕食を楽しみたい。ただそれだけだった。




