~第1章 夏緒里~
目が覚めると、そこにはひとりの青年が立っていた。
これまで見たこともないくらいの美しい青年が。
私の名前は、葉月夏緒里。
27歳独身。
どこにでもいる普通の
OLだ。
ただ、普通じゃないところがひとつある。
それは・・・
「葉月くん、あとで社長室に来るように」
「はい・・・」
社長からの一言に気乗りのしない返事をしてしまう。
ここのオフィスには社長席もあるが社長室も別にあるのだ。
私は、どうせまたあれだろうと、足取り重く社長室へ向かった。
「失礼します」
軽くノックをし、艶のある重い木製のドアを開ける。
「おぉ、葉月くんか。待っていたよ。まあ、かけたまえ」
歳は60代半ば。白髪混じりで高級感溢れる金縁眼鏡をかけたその人は、嬉しそうに私を部屋へ招き入れた。
「最近どうだね、調子は」
「はぁ、特に変わりはありませんが・・・」
私はまた気のない返事をする。
「そうか。では変化が必要だな。とりあえず、私の膝に座りなさい」
はぁ・・・やっぱり。
「お断りいたします!」
もちろん私はきっぱりと断る。
「ふふふ。相変わらず気が強いねぇ葉月くんは。そういうところがたまらんわ」
社長はそう言ってまた嬉しそうに笑う。昨日もこのやりとりしたのに本当に飽きないなぁこの人。
「まあいい。なかなか楽しかったぞ」
「では、わたくしはこれで失礼いたします」
軽く会釈をして私は部屋をあとにした。
「はぁ・・・」
自分のデスクに戻ってきた私は大きなため息をついた。もう昼休みになっていた。
「どうしたの?そんなに絶望的なため息ついて、また変なこと言われたの???」
そう声をかけてくるのは友人の月宮秋紀。私とは違って普通に彼氏がいて普通に恋愛できていて、しかもモテ女だ。
「うん。昨日と全く同じー」
私はさっきの社長とのやりとりを思い出しながら力無く答える。
「夏緒里はほんとにおじさま方にモテるわよねぇ。ある意味特技だわ」
秋紀は、そう言ってケラケラと笑う。
「もう、何で私だけがこんな目に。他にも女子社員はたくさんいるのにさぁ」
そう、私、葉月夏緒里の普通じゃないところは、おじさま方からやけに好意を寄せられること。しかもちょっと権力のありそうな方々から。もう奥さんも子どももいるだろうし、完全に遊ばれてるよね。
「それはやっぱり、相手が社長だからって媚びへつらうこともなく持論を展開するからでしょ」
と、秋紀が言うとなんか説得力ある。
「媚びへつらわないのは普通じゃないのかなぁ?はぁ秋紀みたいに普通に恋愛したい」
私はまたまた溜め息混じり。
「普通が何か判らないけど、夏緒里にもきっと素敵な人が現れると思うよ。私の勘がそういってるわ」
なぁんてね。と、おどけてみせる秋紀。辛口だけど最後はいつも私を励ましてくれるんだよね。女の私がドキッとするんだから男の人はそりゃほっとかないだろう。
「ありがとう秋紀。はぁ秋紀みたいに優しくて綺麗な人と付き合いたいなぁ」
と、ぎゅっと抱きつく。
「ごめんねぇ男じゃなくて。残念でした~」
とまた笑ってみせる。
そんなやり取りが私の今の癒やしの時間。
何だかちょっとほっとする所に行きたい。週末は久しぶりに実家で過ごそうかな。そんなことを考えながらマグカップに残っていたコーヒーを一気に飲みほした。