気がつけば疾走中
いつも、鏡越しに見ているだけだった。
羨望、あるいは嫉妬。
笑顔が溢れるその場所を見て。
助けてと、叫んだ声が届くよう。
強く、強く願った。
「何で、私はこんな目にあってるのかしら?」
輝弥は、全力で走りながら呟いた。
こんな事さえなければ、結構いい日になったのかもしれないのに。
視線を上げれば、眩いお日様。周りは豊かな自然に囲まれていて、絶好のピクニック日和だ。頬を掠める風も、心地よい。
丘の上に見える大木は、まるでゆっくり休んでいってよと語りかけてくるようだ。
しかし、そんな他愛無い想像は、後ろから聞こえてくる爆裂音に遮られた。
ふと振り返ると、先ほどよりも確実に距離を詰めた物体が、ぐんぐんこちらに向かってくるところだった。
追いかけてくるのは、地球ではついぞ見かけることのない様な生き物。
見上げるような巨体に、大きい口。その中には、健康そのものです、とばかりにキラキラと白く輝く歯が綺麗に並んでいる。ガチガチと歯を鳴らしながら追いかけてくる様は、『さあ、今から餌を食べるぞ』と語りかけてくるようだ。
「何、冷静に呟いてるの!何とかしなきゃ!」
隣で叫ぶ彼の言い分もよくわかるのだが、茶色い鱗で覆われたその巨体を、自分にどうしろと言うのか。
終いには、輝弥の顔を三個並べたよりも大きい掌から、鋭い爪を出して振り回してきた。
勢いよく振り回されたそれは、ホームランバッターのスウィングよりも大きな音を立てて、目の前の大木に突き刺さった。
砕け散った大木を横目に、輝弥は一つため息を吐く。
鬱になる気分とは裏腹に、心地よい風が輝弥の顔を掠めた。