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90話:……どういうおつもりですの

 セルディア宇宙自治区の境界を少し外れた、うっすらと宇宙塵コスモダストが漂う暗い宙域。

 無数のデブリが浮遊するこの静寂の空間に、レタリアは新しく生まれ変わった愛機、アーデンと共に訪れていた。


『よお、お嬢さん、久しぶりだな』

『機体の見た目、結構変わったね』


 通信回線から聞こえてきたのは、聞き覚えのある軽い声と落ち着いた声。

 レタリアの視線の先には、ゼインの駆る細身で小柄な機体『リギュネ』、そして、かつてそのリギュネの複座に乗っていたファルが、新たに手に入れた自らの愛機『マーファント』の姿があった。マーファントはリギュネとは対照的に、少し手足の長い独特なフォルムをしており、開発企業であるレデテル社の意向のようなものを見せていた。


 一方、レタリアの駆るアーデンも、以前の剥き出しのプロトタイプのような姿とは異なっていた。今回の依頼を受けるにあたり、ミレアの手によって民間汎用機『ルード』のパーツを模した追加装甲が施されている。その本来の姿を偽装した外見は、一見すると『少し派手にカスタムされた通常機』の範疇に収まっていた。


「あなた方も久しぶりですわね、ゼイン、ファル」

 レタリアは通信越しに、いつものように気品を崩さず挨拶を返す。


 すると、もう一機、重厚な質量感を誇るマキナがデブリの影から滑り出してきた。

『息災だな、レタリア殿』


「ツーイン様もお元気そうで何よりですわ」

 そこにいたのは、以前ブラング達を確保した際に同行した、重装機『イェラ』を駆るツーインだった。


『さて、世間話はこれくらいにして仕事の確認だ。今回の依頼はセルディア管理局からの直々のもので、この辺りにある放棄された古い廃棄物ブロックの安全確認だ。まあ、古いとはいえ原生生物の巣窟になってたり、イカれた自動防衛タレットがまだ生きてるかもしれねえ』

 ゼインがメインモニターに簡易マップを展開しながら、改めて依頼の内容を説明する。


『脅威を完全に排除して、調査員の安全を確保することが私たちの目的ね』

 ファルがそれに補足した。


「ふふふ、このわたくしへの依頼にしては少々地味ではありますが……新たなアーデンの肩慣らしにはちょうど良いですわ!」


『もう、そうやってすぐに調子に乗るんだよね。でも、レタリアは毎回ちゃんと結果を出すからなぁ』


 呆れたように言うファルの言葉を聞いて、ゼインが通信の向こうで豪快に笑った。


『お前も毎日努力してるんだ、そのうちあの規格外のお姫様に追いつけるさ。……多分な』


 ファルに向けられた言葉だったが、真っ先に反応したのはレタリアだった。


「わたくしはお姫様ではありませんわ、では行きましょう」


 ◆


 作戦が開始されると、一同は手分けして廃棄物ブロックの調査へと移った。

 ゼインの言う通り、放置されたデブリの内部からは、侵入者を感知した古い防衛タレットがガシャガシャと起動し、あるいは暗がりに潜んでいた獰猛な宇宙原生生物が、牙を剥いて飛びかかってきた。


 しかし、今のレタリアとアーデンの敵ではなかった。

 基本兵装の挙動をモノにしたアーデンは、以前よりも遥かに鋭く機動を見せる。飛びかかってくる原生生物の鋭い爪をかわし、その返す刃で一閃。光の刃が生物の巨躯を両断する。さらに、物陰から不意打ち気味に放たれたタレットのレーザーに対しても、レタリアはまるで最初から知っていたかのように機体を傾け、最小限の動きで回避しながら見事な徒手空拳を披露した。


『……? おい、なんか妙だぞ』

 ふと、別エリアを調査していたゼインから無線が入った。

『反応する自動防衛装置の中に、妙に新しい規格のものが混じってやしねえか? 型落ちの廃棄物には見えねえ』


 ゼインが疑問を呈するが、通信越しに誰もその答えを持ち合わせている者はいなかった。


 そんな中、レタリアのアーデンに搭載されたレーダーのさらに外側――遥か遠くから、何かが網膜に直接触れるような不気味な気配を感じ取った。


「あちらに何か……ありますわね……」


 それは機械のセンサーが捉えた信号ではない。レタリア自身の『魔力』が、この宙域の外れにある異質な存在を感知したのだ。

 現在、ゼインやファル達は別の区画を広範囲に捜索しており、距離がかなり離れているため、ほぼ別行動に近い状態だった。


 レタリアは躊躇うことなく、自らの直感が捉えた『何か』の元へとアーデンの推力を傾けた。


 依頼宙域から外れた場所、デブリさえもまばらな虚空。

『これは……なんですの?』


 レタリアが辿り着いた場所にあったのは、ぽつんと宇宙に浮かぶ、小さな金属製の箱だった。

 アーデンのセンサーが近づいてようやく微弱なシグナルを捉えたが、推進器も武器も持たない、ただの小さな浮遊物のようだ。


 その箱にアーデンの腕を延ばした瞬間


「――ッ!」


 レタリアは反射的に、アーデンのスラスターを最大出力で噴射させ、機体を強引に横へと跳ね上がらせた。


 背後から明確な『殺意』を孕んだ一撃が、たった今までアーデンが静止していた空間を突き抜けていった。


 トレースモードを通じて、レタリアの身体に強烈なGの負荷が襲いかかる。しかし、新調されたパイロットスーツ『ノーブル・ロータスⅡ』の強化された耐Gシステムとクッション機能が瞬時に作動し、その衝撃を完璧に吸収した。さらにレタリア自身の頑強さも相まって、彼女へのダメージは文字通り皆無だった。


 アーデンは即座に反転し、先を見据えた。

 メインモニターに映し出された『それ』を見て、レタリアは冷静に声を放った。


「……どういうおつもりですの、ツーイン様」


 レタリアの視線の先。

 暗い宇宙の闇の中で、重装機『イェラ』のセンサーアイが、怪しく赤く明滅していた。

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