3話:脱ぐのは、見えない所でですわ!
「俺は仕事に戻る。何かあれば連絡してくれ」
グレインはそう短く言い残すと、颯爽と背を向けて去っていった。
(……あの男が、今のところ一番まともに見えますわ……)
レタリアはその背中を見送りながら、密かに安堵のため息を漏らした。
見知らぬ天井、妙に美味な食事、そして勝手に動く扉。
混乱の極致にいた彼女にとって、グレインの誠実そうな態度は唯一の救いだった。
「さあ、行きましょうか。あなたのことは、しばらく私が預かるわ」
先ほど現れた白衣の女性――ミレア・イチノセが、楽しげに足を進める。
レタリアは戸惑いながらも、その後に続いた。
到着した「シンセ・フィブラ」の施設は、先ほどの通路以上に無機質で、それでいてどこか神聖な気配すら漂う場所だった。
「協力してくれたら、衣食住の面倒は見てあげる。しばらくは不自由しない生活を約束するわ」
足を止めたミレアが、振り返りざまに条件を提示した。
「……それは、どういう意味ですの?」
「あなたのデータが欲しいの。悪いようにはしないわ」
(データ……?)
聞き慣れない言葉に眉をひそめる。
だが、レタリアの脳裏には、追放される直前の鬱屈とした日々がよぎった。
あの冷淡な父。憐れみと共に善意を向けてくる妹の顔。
もしも、もしここに来なければ、雨風を凌ぐ場所すらなく、惨めに野垂れ死ぬ未来が待っていた。
(……それに比べれば、今の方が幾分マシですわね)
目の前の女は「悪いようにはしない」と言った。
ならば、今はその言葉に乗り、この施設を利用してやればいい。
悪役令嬢としてのプライドが、彼女に打算的な選択をさせた。
「……分かりましたわ。協力しましょう」
「話が早くて助かるわ。じゃあ、まずは身体検査からね。服を脱いでちょうだい」
一瞬声が詰まる。
「なっ……!? な、何を言ってますの!?」
「別に着たままでもできるけど、脱いだ方が精度が上がるのよ」
ミレアは事務的に言い放つと、今さらながらレタリアの装束をまじまじと見つめた。
「……それにしても、変わった服ね。大昔の地球にこういう服があったって、記録で見たことがあるけれど」
「地球……? 何のことか分かりませんけれど、脱ぐのは、見えない所でですわ!」
頬を朱に染め、必死に抗議するレタリア。
対するミレアは、「ああそう」と興味なさげに奥の部屋を指差した。
彼女にとって、脱衣など単なる手順に過ぎないらしい。
◆◆◆
案内された検査室は、見たこともない機械に囲まれていた。
レタリアは指示されるまま、硬いベッドのような台の上に横たわる。
「……これは何をしていますの?」
「あなたの体の中を調べてるの。痛くないから安心して」
ミレアの指がパネルの上をなぞり、光の膜がレタリアの体をスキャンしていく。
レタリアは何が起きているのか分からず、ただ天井を見つめて固まっていた。
ふと、操作していたミレアの手が止まる。
端末に表示される波形を見て、彼女は面白そうに眉を上げた。
「……ふぅん」
「……何ですの、その顔は。わたくしの体に何か問題でも?」
「いいえ。面白いデータが取れたわ。あなたって、なかなか興味深い体をしているのね」
(興味深い体……?)
「……褒められているのかしら、それは」
「褒めてるわよ。最大限に」
不敵に微笑むミレア。
検査を終え、身なりを整えたレタリアに、ミレアが歩み寄る。
「ねえ、一つ聞いてもいい?」
「……何ですの」
ミレアは確信に満ちた目で、とんでもない提案を口にした。
「うちで、働かない?」
「………………」
突然の誘いに、レタリアは返す言葉が見つからなかった。
追放された星空の世界の中、彼女の行く末は、ますます予測不能な方向へと加速していく。
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【あとがき】
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