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第28話:不埒者を成敗致しますわ!

 宇宙の静寂を切り裂き、アーデンの残光が猛然と加速する。

 レタリア・アーデニアムの瞳はこれまでになく燃え上がっていた。

 仲間を傷つけ、自分たちの行く手を阻んだ不届き者、ブラング。彼に向けられた怒りは、アーデンの出力を限界まで押し上げていた。


「覚悟なさいな、不埒者! わたくしの前を遮る無礼、その身に刻んで差し上げますわ!」


 迎え撃つブラングの重装甲機が、巨大なガトリングの砲口を向け、再び咆哮を上げる。

 凄まじい密度の弾丸が宇宙を埋め尽くすが、レタリアにとってそれは止まっているも同然だった。


『くたばれコスプレ女! 今度こそハチの巣にしてやるぜ!』


 狂ったように引き金を引き続けるブラング。

 だが、レタリアには見える。

 弾道が描かれる数瞬前、ブラングの指が、機体の駆動系が、どの方向へ殺意を向けようとしているのか、魔力的な知覚が正確に捉えていた。


 アーデンは大きな曲線を描きながら、弾丸の嵐そのものを避けて進む。一発の掠り傷さえ負うことなく、その距離は一気に縮まっていく。


(……? なんですの、この違和感は)


 回避を続けながら、レタリアは眉をひそめた。

 当たらないという事実に変わりはない。だが、敵の反応が以前よりも「鋭い」。

 こちらの動きにいち早く反応している、合わせている、そんな違和感。


「ですが、避けてしまえば同じこと!」


 アーデンがブラング機の眼前まで肉薄する。


 ◆◆◆


『な……当たんねえ! なんでだ、なんであの激しい動きをして、中身の人間は無事なんだよ! あのコスプレ女、化け物か!?』


 ブラングはコックピットの中で絶叫していた。

 この機体に搭載されている『未知のシステム』。それを使っているはずの自分ですら、激しい偏頭痛に襲われ、視界がチカチカと明滅しているというのに。

 あの紫の機体は、重力無視の機動を平然と行い、あろうことか加速を続けている。


『……っ、クソが! 頭が割れそうだぜ……だが、これならどうだぁ!』


 ブラングが機体を強引に旋回させ、ゼロ距離でガトリングを斉射する。

 レタリアはそれを最小限の動きで回避し、アーデンの脚部を力強く跳ね上げた。


「当たりませんわよ!」


 鋭い蹴りがブラング機の重装甲を捉える。強く重い衝撃が機体を揺さぶるが、ブラングは執念で機体を立て直した。

 そして、隠し持っていた武器を向ける。


『かかったな!』


 ブラング機の左腕装甲が展開し、内蔵された小型キャノンが至近距離から火を吹く。不意打ち。これまでの戦いでは見せなかった武装だ。

 通常なら、回避不能のタイミング。


 だが、レタリアの魔力はそれすらも捉える。

 ブラングの左腕が動く数瞬前、機体各部に走るエネルギーの脈動を、レタリアは肌で感じていた。


「っ!!」


 アーデンは不自然なほど急激な姿勢制御を行い、放たれた熱線を紙一重でかわす。


『……う、嘘だろ!? 今のをかわすのか!? 未来予知でもしてやがるのかよ!』


 ブラングの驚愕は恐怖へと変わる。

 距離を取ろうとハンドキャノンを連射するが、レタリアはそれすらも全て躱し、間合いを測る。


 レタリアは確信する。この距離、この位置。射撃が苦手な自分でも、外しようのない「間合い」。


「逃がしませんわ! 『ふぉとんらいふる』、受けてみなさいな!」


 レタリアはアーデンのライフルを構え、FCS(火器管制システム)のロックオンが赤く染まった瞬間に引き金を引いた。

 三条の光条が、ブラング機へと吸い込まれる。

 一発目は左足の装甲を削り、二発目は胸部を掠め、そして三発目――。


 轟音と共に、ブラング機の右肩装甲が盛大に吹き飛んだ。


『何っ!?俺の機体が!!』


 アーデンに装備されたフォトンライフルはシンセ・フィブラの新型、その威力は並のフォトンライフルを上回る。

 ブラング機の対フォトン装甲を撃ち抜いたのだ。


「これで終わりですわ!『ふぉとんせいばー』!」


 レタリアはアーデンの出力を右腕に集中させ、光り輝くブレードを形成した。

 加速の勢いを乗せ、ブラング機の胴体目がけて一閃。

 だが、ブラングもまた死に物狂いだった。彼は爆砕された右肩を捨て、残った左腕をあえてブレードの軌道へと差し出した。


 激しい金属音と共に、左腕が切断される。

 直撃こそ免れたものの、ブラング機の戦闘継続能力は、もはや風前の灯だった。


『くそ……っ、コイツを使ってもダメなのかよ。……頭が、頭が割れる! おぼえてやがれ、コスプレ女!』


 ブラングはコックピットの緊急離脱用ブースターを点火。損傷した機体をデブリ群の影へと強引に加速させ、逃走を図った。


「このっ!まだ終わっていませんわよ!」


 レタリアが追撃のためにスラスターを焚こうとした、その時。


『――そこまでよ、レタリア。深追いはやめなさい!』


 耳元で案ずるようなミレアの声が響いた。


「ミレア! 邪魔をしないでくださいまし! あの不届き者を成敗しなければ、気が済みませんわ!」


『ダメよ。あなたのバイタルも大きく上がっている。……落ち着きなさい、レタリア。輸送船の守りは完了したのよ。戻ってきなさい』


「……っ」


 ミレアの言葉に、レタリアは我に返った。

 視界の端で点滅する警告アラート。自分の心臓が、早鐘のように脈打っていることにようやく気づく。

 乱れる息と心音を、深呼吸と共に押し込める。


「……ええ、そうですわね。戻りますわ」


 レタリアはアーデンの出力を落とし、逃げ去るブラングの軌跡を見送った。

 怒りが引くと同時に、ドッと疲れが押し寄せる。だが、それよりも優先すべきことがあった。


「ゼイン、ファル! ご無事かしら!?」


 レタリアは機体を反転させ、二人のもとへと急行した。

 ボロボロになりながらも、ゼインの機体に肩を貸されたファルの機体が、そこに浮いていた。


『……なんとか生きてるわよ。あんたのおかげでね。……助かったわ、レタリア』


『助かったぜ、お嬢さん。あれはただのレイダーと言うには、ちょっと様子がおかしかったが……。

 ……まあ、今は戻るのが先決だ』


「そうですわね、戻りましょう」


 三機のマキナは、夕闇のような宇宙の中を、待機するサーペント号へとゆっくりと戻っていった。

 レタリアは、窓の外を流れる星々を見つめながら、少しだけ誇らしげに微笑んだ。


 激闘の後の静寂が、コックピットを優しく包み込んでいた。


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