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18話:練習すればよろしいんでしょう、練習すれば!

「――くっ、またですの!? この的、『ふぉとんらいふる』が当たりませんわよ!」


 シミュレーター内の仮想空間。深紫の機体『アーデン』が、右腕に装備したフォトンライフルを何度も振るうが、放たれる光弾は無情にも標的の横を通り過ぎていく。

 レタリアの感覚では、標的が数秒後にどこへ移動するかを捉えていた。

 しかし、いざ引き金を引く段になると、機体の銃身がわずかにブレる。

 レタリアは格闘戦においては高い攻撃精度を誇るが、射撃についてはその限りではない。


【MISSION FAILED:HIT RATE 34%】


 無慈悲なシステム音声と共に、ホログラムの敵機が消滅した。


「……だめだめね、レタリアさん。予測は良いのに、肝心の『当てる』ための技術が追いついていないわ。FCSの補正頼りになってる」


 通信回線から、呆れたようなメリーの声が響く。彼女は隣の筐体からレタリアの機動をモニタリングしていた。

 レタリアの腕というよりはFCS(射撃統制システム)が彼女の射撃を的に当てていた。

 要するに素人同然ということである。


「わたくしにはこのような魔法の矢、いえ、大筒は向きませんわ! 直接殴りに行った方が百倍早いですわよ!」


 レタリアは腕を下げ、筐体の中でぷりぷりと怒りに肩を揺らした。


「レタリアさんらしくていいですね! 猪突猛進、暴走令嬢の本領発揮です!」


「ステシアさん!」


 筐体の外でモニターを見ていたステシアがケラケラと笑う。

 レタリアはハッチを開けて外に出ると、悔しそうにメリーを睨んだ。


「だいたい、わたくしには『ふぉとんせいばー』がありますわ。近づいて切り捨てれば済む話ではありませんこと?」


「……レタリアさん。接近戦は確かにあなたの強みだけど、全ての敵が近づかせてくれるわけじゃないわ。それにね」


 メリーは、「一般的なマキナの修理費一覧」を提示して見せた。

 どういう損傷具合なのか、文字をパッと見て判断することはできないが、そこに箇条書きされている金額についてはわかる。


「無理な接近戦は、それだけ機体への被弾リスクを高めるの。かかるわよ、お金」


「…………。……れ、練習しますわ。練習すればよろしいんでしょう、練習すれば!」


『修繕費』という魔法の言葉に、レタリアは一瞬で毒気を抜かれた。

 誇り高き令嬢といえど、この現実の前には、渋々ながらも頭を下げるしかなかった。


 ◆◆◆


 一方、訓練室を見下ろす上層の部屋では、グレインとミレアが言葉を交わしていた。

 窓越しに見えるレタリアたちの騒ぎを余所に、二人の空気は静かだった。


「……アーデンの出力系に、また妙なログが出ているわ」


 ミレアが端末のホログラムをグレインの方へ向けた。


「レタリアが『気合』を入れる瞬間、機体のブラックボックスからエネルギーが発生している。……正直、不気味だわ。私の知らないシステムが、まだこの機体には眠っている」


「君に正体が分からない程のものなら、物好きの改造じゃないな……例の『エスカド社』絡みか」


 グレインは、以前アーデンの残骸から密かに回収した『チップ』の存在を胸に秘めたまま、短く呟いた。

 あの廃工場に居合わせた少女と謎の改造機、偶然だろうか。


「もう少し調べてみるわ。……で、隊長様がわざわざ私を呼び出したのは、その確認だけ?」


 ミレアの問いに、グレインは視線を窓の外、自分の愛機『シュエル』が鎮座するハンガーへと向けた。


「……ミレア。俺の『シュエル』を、さらに強化できないか」


 ミレアは少し呆れたようにため息をついた。


「あなたの実力は自警団でも指折りよ。今のあなたとシュエルなら、正規軍のベテランパイロットとやり合っても劣らないはずよ。……これ以上の過負荷は、あなたの体の方が持たないわよ」


「……曹長イーサンには、まだ勝ち越せていない。それに」


 グレインは、階下でステシアと騒いでいるレタリアを見下ろした。


「……レタリア嬢のような、理屈の通じない『怪物』が目の前に現れたんだ。隊長として、指をくわえて見ているわけにもいかないんでね」


「……イーサンは元教導隊っていう噂があるわ。彼に勝ったことがあるだけで大したものよ。……レタリアは、まあ、あれは例外中の例外でしょ」


 ミレアは淡々と言い捨てたが、グレインの様子は変わらなかった。


「……いい武器やパーツがあれば優先的に回してくれ。多少のリスクがある試作兵器でも構わん。俺が実験台になってやる」


 そう言って部屋を去るグレイン。

 その背中に向かってミレアは告げた。


「……物好きね。あなたに渡す前に最低限の安全性を確認はするわよ」


 その言葉に軽く腕を上げて応えるグレイン。


 ミレアは端末を閉じ、窓の外を見た。

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