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11話:うるせーですわよー!

 居住区での「でーと」から数日。


 レタリア・アーデニアムは、再び無機質な金属の壁に囲まれた格納庫に立っていた。


 目の前には、修繕を終えた愛機、マキナ『アーデン』が鎮座している。しかし、その姿は以前とはどこか違っていた。


 装甲の質感が変わり、各所に見たことのない意匠のパーツが組み込まれている。


「アーデンの修理のついでに、各パーツをうちの社のものに付け替えておいたわ」


 作業用足場の上で端末を叩いていたミレアが、事も無げに言った。レタリアは目を丸くして、その無骨な鋼鉄の腕を見上げる。


「……付け替え? この子に何かしましたの?」


「腕と足の交換。あなたの徒手空拳に耐えられるようにしてる。

 クラフィドの旧式パーツをいまさら使っても良いことはないから。これもあなたのお仕事の一環よ」


(としゅくーけん?)


「そう……。

 ……『でーたどり』、ってやつかしら」


 レタリアが最近覚えたばかりの言葉を口にすると、ミレアは少しだけ口角を上げた。


「そういうこと。飲み込みが早くて助かるわ」


 ミレアの説明によれば、腕部と脚部には「打撃用強化装甲」なるものが追加されたとのこと。

 現状格闘戦しかしていないレタリアにとっては願ってもないことだった。


「フォトンライフルとフォトンセイバーも積んであるから、そろそろ使い方を覚えなさいな」


「……努力しますわ」


 慣れない言葉の羅列に頭が痛くなりそうだったが、レタリアは殊更に優雅に頷いてみせた。


 ◇


「それから、これを着なさい」


 ミレアから差し出されたのは、独特の光沢を持つ、身体のラインがはっきりと出る薄手のスーツだった。言われるがままに着替えてみたものの、レタリアは落ち着かない。


「……苦しいですわ。これ、サイズが合っていないのではないかしら?」


「宇宙は空気がないんだから、密着していないと困るの。生身で飛び出したら死ぬわよ」


「……っ」


 レタリアは、格納庫の向こう側に広がる漆黒の闇を思った。


 音も無く、息も出来ない星の海。


 元の世界では考えられなかった、美しくも残酷な死の世界。


 そんな感傷に浸っていると、ミレアがじっとこちらを観察していることに気づいた。


「……良いプロポーションね」


「なっ……! な、なにを見てますの!?」


「思ったことを言っただけよ」


 淡々としたミレアの言葉に、レタリアは耳まで真っ赤にして抗議した。この人物は、以前も「体が綺麗」だなんて平然と言ってのけた。羞恥心というものがないのだろうか。


「この方は本当に……! ですわ!」


 ぷりぷりと怒りながら、レタリアは逃げるようにアーデンのコックピットへと乗り込んだ。


 ◆◆◆


「レタリアさーん! お待ちしてましたよ!」


 アーデンをカタパルトから射出し、宙域に出た途端、通信パネルにステシアの元気な顔が映し出された。周囲には自警団のマキナが数機、隊列を組んでいる。


「暴走令嬢さんがフリーランサーになって俺達と仕事とはね、嬉しいよ」


(暴走令嬢ってなんですの?)

 レタリアはそう思ったが言葉の意味が分からなくて答えなかった。


 自警団員たちの声が次々と入る。彼らにとって、今のレタリアは「腕の立つ協力者」という認識のようだった。


「そういえば……グレイン隊長がうちに引き入れたがってたのに、フリーランサーになったんだってねえ」


 一人の団員が漏らした言葉に、レタリアはふふんと鼻を鳴らした。


「わたくしは自由な方が性に合いますの。どこかの組織に縛られるなんて、令嬢のプライドが許しませんわ」


(……実際は、ミレアに『その方が都合がいい』と言われたからですけれど)


 そんな本音は心の奥底に仕舞い込み、レタリアは操縦桿を握り直した。今回の依頼は、近隣の航路を荒らしているレイダーと呼ばれるならず者たちの掃討。フリーとして受けた、初めての「お仕事」だ。



 ◆◆◆


「来ますわ……!」


 レタリアは素早く前方からの気配を感じた。

 自警団のレーダーの範囲よりも外だ。


「ヒャッハー! 自警団のマキナは高級品だぜ、なんとしても奪い取れ!」


 通信回線に、下品な笑い声が混じる。直後、数機のレイダー機が猛スピードで突っ込んできた。


(……どうすればいいか、分かりますわ)


 アーデンが跳ねるように動いた。トレースモードの過激な機動に、パイロットスーツ越しでも身体が叩きつけられるような衝撃が走る。しかし、レタリアはそれをねじ伏せた。


「まずは、一機ですわ!」


 強化されたアーデンの拳が、レイダー機の側面に叩き込まれた。


 金属音。真空の宇宙では聞こえるはずのない衝撃を、機体越しに感じる。以前よりも、明らかに手応えが違った。


「二機目!」


 流れるような動作で回し蹴りを放つと、強化された脚部が敵機の腹部を深々と抉り取る。


「あの動き、相変わらず化け物ですね……」


 自警団員たちが戦慄しているのも構わず、レタリアは最後の一機に狙いを定めた。その時、敵のパイロットが通信越しに叫んだ。



「おい、待て! あれ、もしかして噂の……コスプ――」


 その単語がレタリアの鼓膜に届いた瞬間、脳内で何かが弾けた。


「うるせーですわよー!!」


 激昂と共にアーデンが加速する。言葉を言い終わるよりも早く、アーデンの巨大な拳がレイダー機の頭部を打ち砕いた。


 通信はブツリと途切れ、静寂が訪れた。


「……あ、もう終わってる」


 呆然としたステシアの声が聞こえてきたが、レタリアは荒い息をつきながら鼻を鳴らした。


「なんでそうあの不埒者たちはその言葉を使いたがりますの!身の程を弁えなさいな!」


 以前の自分なら、何を言われているか分からず後から憤慨していた。

 だが今は違う。不快なものは即座に排除する。それが、異世界の空に慣れ始めた悪役令嬢のやり方だった。


 ◆◆◆


「各機、残敵なし。作戦終了だ」


 通信に、グレインの落ち着いた声が割り込んできた。


「……お疲れ様。レタリア嬢、見事な『初陣』だった」


「……ふふ、お役に立てて光栄ですわ。次はもっと手応えのある相手を用意してくださる?」


 格納庫に戻ると、ステシアが真っ先に駆け寄ってきた。

「かっこよかったですよ!」という言葉と共に、他の団員たちからも労いの言葉が掛けられる。


「当然ですわ。このレタリア・アーデニアムが本気を出せば、この程度、朝飯前ですの!」


 胸を張り、高笑いしながら、レタリアはそっとアーデンの機体を見上げた。


(……でも)


 かつては「役立たず」と蔑まれ、居場所を失った自分。そんな自分が、ここでは必要とされ、感謝されている。


(……悪くはありませんわ、この仕事も)


 少しだけ、本当に少しだけ、レタリアの頬は満足げに緩んでいた。

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【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

次回更新は明日になっております!

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ほんの少しでも「良いな」と感じていただけたら、応援ポチッとよろしくお願いいたします!

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