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112話:わたくしの……『第二の故郷』と言っても良いほどですのよ!

 レタリアはファルとしっかりと手を繋ぎながら、煌びやかなシーズモールの中を楽しそうに見て回っていた。


 その中で立ち寄ったファッションショップにて


「あ、これ! レタリアにすごく似合うんじゃない!?」


 ファルが嬉しそうにハンガーから取って見せてきた服を目にして、レタリアは首を大きくかしげ、率直な疑問を口にした。


「あの……ファル? これ、あちこちが破れておりますけれど……本当に新しい服なのですの?」


「こういうファッションなのよ!『ダメージ加工』ってやつ!」


 ファルは拳を握りしめながら熱弁してくる。

 だが、それはレタリアの感性の中には決して存在しないデザインの衣服だった。元の世界では貴族御用達の格式高いドレス、こちらの世界に来てからはその意匠を取り入れたソラお手製の美しい衣装や、ごく一般的なシャツとスカート、動きやすいパンツルックなど――そういった服装ばかりに囲まれていたレタリアにとって、ファルが差し出してきた服は……何とも言葉に形容しづらい代物だった。

 派手で鮮烈な色合いと不規則な模様、スカートもフレアタイプではあるものの、装飾として幾重ものチェーンやごついベルトが巻き付いている。


「えーと……その、またそのうち機会がありましたら……試してみますわね」


 レタリアは、相手の意図を汲んで言葉を選ぶという対応を、この世界に来てそれとなく学んでいた。


(……後でミレアやソラさまに、あれが今の流行りなのか聞いてみましょう)


「そっかー、残念。じゃあ次はレタリアが、アタシに似合いそうな服を選んでみてよ!」


「分かりましたわ! ファル、任せなさい! あなたを完璧で立派な『淑女』に仕立て上げて見せますわ!」


 自信満々に意気込んだレタリアだったが……悲しきかな、シーズモールの中にあるどの服屋を探しても、かつて彼女が身にまとっていたようなクラシックで豪華絢爛な貴族ドレスなど一着も置かれていないのだった。


 ◆


 ……そうしてモールの中をあちこち散策した二人。

 途中で「ちょっと休もうよ」とファルが提案し、二人はモール内にあるおしゃれなカフェのテーブル席に着いていた。


「……ふむ、とても良い座り心地の椅子ですわね」


 レタリアは椅子の上で少し体を揺らしながら、手でペタペタとシートの感触を確かめている。

 デザイン性と快適さを重視したカフェのインテリアは、普段彼女が利用しているセルディア管理局の質実剛健で機能性重視な椅子とは外見も手触りも大きく異なっていた。


 そんなレタリアの珍しそうな様子を、ファルはジュースのストローを咥えながら不思議そうな面持ちで眺めていた。


「レタリアって、あんまりこういう場所に来たこと無かったの?」


 これまでのレタリアの反応から、モールに来たことどころか、友達同士でのショッピングすらもほとんど経験が無いのだろうとファルは察していた。


「ええ。わたくしはセルディアにおります時は、いつも管理局の区画におりますから」


「ふーん……いろいろと不思議な点が多いわね、アンタ。……でもね、実はアタシも、こうやって誰かと一緒にお買い物したことなんて、今まで一度も無かったんだ」


 ファルはそう言うと、手元のジュースをちゅーっと一口口につけた。


「あら、そうなのですか?」


「うん。アタシはずーっと親方と一緒に仕事をしながら、いろんな場所を旅してきたからね。このセルディアが、今までで一番長く滞在してる街かも。親方もすごくここを気に入ってるし……本当にいいところよね、ここ」


 ファルの言葉に、レタリアは誇らしげで温かい笑みを浮かべた。


「ええ、そうですわね! ここは本当に素晴らしい場所ですわ。わたくしの……『第二の故郷』と言っても良いほどですのよ!」


 レタリアの言葉に、ファルもつられて嬉しそうに笑った。


「ふふ、良かった。この間のこと、すごく気にしてるんじゃないかって思ってたけど……全然大丈夫そうだね」


 不意にファルが口にした言葉に、レタリアはパチクリと目を丸くさせた。


「この間のこと、とは……?」


「ツーインさんのこと。アンタ、ちょっと気にしてるんじゃないかなって思ってさ……どうかなって気になってたの」


 ――不器用ながらも温かいファルの優しい気遣い。

 少し恥ずかしそうに視線を泳がせながら話すファルに向かって、レタリアは胸がキュッと温かくなり、ふふっと楽しそうに笑ってみせた。


「まあ! 気になどしていませんわよ! この世界にはあのようなお仕事をしている方もいらっしゃると、ちゃんと理解しておりますから。……ですが!」


 レタリアは力強く拳を握りしめた。


「次に出会ったら、容赦なくぶっとばして差しあげる予定ですわよ!」


「あはは! らしくていいわね!」


 笑い合う二人の声が、カフェの柔らかい空気の中に爽やかに響き渡っていた。

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