表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

9話:なななな、なにを言いますの!?

 ミレアの研究室は、今日も変わらず無機質だった。


 白い壁。

 光を反射する金属の床。

 低く唸る機械音。

 そして、どこか薬品めいた匂い。


 その中心で、ミレアが端末を操作しながら言った。


「レタリア嬢、ここの生活には慣れた?」


「……ええ、まあ」


 素直に「はい」と言うのは癪なので、少しだけ濁す。


 ミレアは気にした様子もなく、淡々と続けた。


「ここの食事は美味しい?」


「美味しいですわね……種類もたくさんありますし」


「そう、良かったわ」


 ミレアの声はいつも通り落ち着いている。


(私たちと同じ食事でも検査は異常なし。

 彼女自身も違和感なし……ね)




(……わたくし、観察されている気がしますわ)



 ◆◆◆


「じゃあ、検査を始めるわね」


 ミレアの指示で、レタリアは服を脱ぎ無機質な台の上に横たわった。


 天井から光の膜が降りてきて、身体をゆっくりと通り抜けていく。


(……慣れたとは言いませんけれど)


 前回よりは、少しだけ落ち着いていた。


 そんな中、ミレアがふと呟いた。


「ところで……あなたの体、綺麗ね」


「なっ……!?」


 レタリアは反射的にシーツを引き寄せた。


「なななな、なにを言いますの!?

 いきなり、そんな……!」


 ミレアは涼しい顔で端末を見ている。


「思ったことを言っただけよ」


「……っ!」


(この方は本当に……!

 悪気がないのが、余計にタチが悪いですわ!)


 顔が熱い。

 耳まで熱い。


 ミレアはそんなレタリアの反応を気にする様子もなく、淡々と検査を続けた。


 ◆◆◆


 検査が終わると、ミレアは椅子に腰掛け、レタリアに視線を向けた。


「最近、よく話すようになったわね」


「……そうですの?」


「ええ。あなた、最初はもっと不愛想だったわよ」


「不愛想とは失礼ですわよ!」


「でも、今は違う、変わってきてるわ」


 ミレアはくすりと笑った。


 レタリアはむっとしたが、どこか否定しきれない。


(……確かに、ミレアとはよく話すようになりましたわね)


 最初は信用できないと思っていた。

 この世界の誰も、信用できないと。


 だが――


(……この人は、なんと言いますか……)


 怒っているのとも違う。

 呆れているのとも違う。


 言い表しようのない気持ちが胸に残る。


 ミレアは、レタリアのそんな内心を知らないまま、端末を操作しながら言った。


「そういえば、シミュレーターの成績、見てるわよ」


「っ……!」


 レタリアは思わず背筋を伸ばした。


「良い成績ね。相変わらず、って感想にすらなってきたわ」


「ふ、ふふ、そ、そうでしょうとも!

 わたくしがアーデンを華麗に乗りこなすためには、努力が必要なのですわ!」


「そうね」


 ミレアは軽く笑った。


 その笑いが、なぜか少しだけ嬉しかった。


 ◆◆◆


(……魔法のことは、まだ言っていませんわね)


 ふと、胸の奥に沈んでいた思いが浮かぶ。


 元の世界では、役立たずと言われ続けた魔法。

 “感じるだけ”の魔力。


 だが――


(あれが、わたくしの動きを支えているのは……もう分かっていますわ)


 戦闘でも、シミュレーターでも。

 敵の動きが“分かる”。


(でも……)


 誰にも話していない。


 この激動の中で話す機会を失っただけ。


 そして――


(わたくしの魔法は……恥ずべきもの、でしたから)


 この世界には魔法がない。

 だから、言う必要もない。


(……)


 その瞬間――


「レタリア嬢?」


 ミレアの声が、感傷を断ち切った。


「……なんですの?」


「ぼーっとしてたわよ」


「していませんわ!」


 ミレアは笑った。


 ◆◆◆


「でも、武器もきちんと使わなきゃだめよ」


「……」


「あなた、格闘戦しかしていないわよ」


「分かっていますわよ!

 慣れないんですの!」


 ミレアは肩をすくめた。


「アーデンの手足をまた

 ボロボロにしたくないなら、覚えなさいな」


「努力しますわ!」


「はいはい、お嬢様」


 ミレアは端末を操作し、何かの許可証を表示した。


「お待たせしたわね。居住区に出る許可が出たわ」


「……!」


 レタリアの表情がわずかに変わる。


「最初はお付きを連れて行ってね。それから、これ」


 ミレアが小さなブレスレット型の装置を手渡してきた。


「……このブレスレットは何ですの?

 あなた方も付けてますわよね」


「これは認証キー。鍵とお金よ」


「……鍵と、お金……?」


 ミレアは微笑んだ。


「詳しい説明は、明日。

 あなたのお付きが来るから、その子と一緒に行ってらっしゃい」


 レタリアはブレスレットを見つめた。


(……鍵とお金、ですの?)


 この世界の“街”へ。

 初めての外出。


 胸の奥が、少しだけ高鳴った。

---------------------------

【あとがき】

お読みいただきありがとうございます!

次回更新は明日になっております!

皆様からいただける★評価やブックマークが、物語を完結させるための最大の原動力になっています。

ほんの少しでも「良いな」と感じていただけたら、応援ポチッとよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ