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0話:おーっほっほ! わたくし、宇宙(ここ)でも最強ですわ!

 漆黒の静寂が支配するはずの真空に、暴力的な光条が幾重にも交差する。

 セルディア居住区から遠く離れた、岩石とデブリが漂う名もなき宙域。そこは今、剥き出しの殺意が衝突する戦場と化していた。


「ひゃっはー! 野郎ども!根こそぎ奪い尽くせー!」


 下品な笑い声を通信回線に垂れ流しながら、継ぎ接ぎだらけの無骨なロボ(マキナ)――レイダーたちの機体が、殺到する。対するは、居住区の平穏を守る自警団の面々。だが、その混戦の最中心で、ひときわ異彩を放つ一機が躍動していた。


 深い紫の装甲に、高貴な輝きを放つ金のライン。

 その機体――『アーデン』は他の機体を圧倒する速度で、迫り来る実弾の嵐を紙一重で回避していく。


『……なんですの、その下品な声は。耳障りですわよ!』


 コックピットの中で、レタリア・アーデニアムは不快げに眉を寄せた。

 その服装はパイロットスーツというよりはまるでドレスだった。

 彼女の四肢の動きをダイレクトに機体へと伝えるトレースモード。全身を叩くような凄まじい反動(G)が襲いかかるが、レタリアはそれを気合でねじ伏せる。


「チッ、なんだあの動きは! まさかコイツ、あの『コスプレ女』……」


『やかましいですわよーーーっ!!』


 レタリアの叫びと共に、アーデンの脚部スラスターが火を噴いた。

 物理的な質量を無視したような鋭い踏み込み。驚愕に目を見開くレイダーの鼻面に、アーデンの鋼鉄の脚が突き刺さった。


 ドゴォッ!!


 真空を震わせる衝撃。蹴り飛ばされたレイダー機は、制御を失った駒のように回転しながら、遥か彼方のデブリ帯へと消えていった。


『ふん、わたくしを誰だと思っていますの? 礼儀のなっていない殿方には、お仕置きが必要ですわ!』


 勢いに乗ったレタリアは、そのまま残る敵機へと突進する。

 左右から挟撃を試みるレイダーたち。だが、彼女には「視える」。敵の狙い、弾道、そして焦りまでもが。

 彼女の持つ魔力はその動きを予知させていた。


『そこですわ!』


 アーデンが独楽のように回転し、振るった裏拳が右の敵のカメラアイを粉砕する。そのまま左の敵の腹部を掴み、そのまま近くの岩塊へと叩きつけた。


 ものの数分。

 荒れ狂っていたレイダーたちの反応は、すべて沈黙した。


『ふぅ……。まったく、わたくしの美学に反する野蛮な方々でしたわ』


 通信回線に、安堵の溜息と感嘆の声が混じる。


「……相変わらずだな、レタリア嬢。味方でなきゃ肝を冷やすところだ」


「さすがレタリアさん、いえ、『暴走令嬢』ですねー!」


 聞き慣れた男の苦笑と、少女の屈託のないはしゃぎ声。

 レタリアはふん、と鼻を鳴らし、操縦桿を握る手にぐっと力を込めた。そして、胸を張って――いつものように、誇り高く宣言する。


『おーっほっほっほ! 当然ですわ! わたくしにかかれば、このような賊など庭掃除にもなりませんことよ! 感謝なさいな、皆々様!』


 広大な宇宙に、彼女の高笑いが響き渡る。

 自警団の仲間たちの軽口を受け流し、帰還の途につくアーデン。


 だが、そのコックピットの中で。

 レタリアはふと、自身の右手の平を見つめた。


 かつてのわたくしなら。


 きっと、こんな生活になっていると思いもしなかっただろう。


(……それでも)


 不思議と、悪くない気分だった。

 追放された先で見つけた、自分の力で掴み取る勝利。そして、共に笑う「変な方々」。


『さあ、帰りましょう。わたくし、お腹が空きましたわ!』


 紫の閃光が、煌めく星々の海を滑るように進んでいく。

 それは、新しい世界の主役が放つ、力強い光だった。

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