第三十一話 ヴァルドの真実
煉獄牢・第四層。
そこは牢ではなかった。
**炎を祀る祭壇**だった。
円形の空洞の中心に、巨大な炉柱。
赤黒い結晶が脈打ち、その内部に――人影が浮かんでいる。
無数の鎖。
炎で編まれた拘束陣。
そして、空間そのものが軋んでいる。
まるで、この場所だけが**過剰な熱を抱えすぎている**かのように。
「……あれが」
焔環の一人が息を呑む。
「ヴァルド……」
レンは一歩踏み出しかけ、止まる。
近づくだけで焼ける。
だがそれ以上に――感情が侵食される。
怒り。
否定。
押し殺され続けた、暴発寸前の衝動。
イオが低く言う。
「……能力者じゃない。
完全に“炉にされてる”」
そのとき。
炉柱が、ひび割れた。
中の人影が、ゆっくりと顔を上げる。
「……来た、のか」
掠れた声。だが確かに生きている。
「ヴァルド……!」
エルダが叫んだ瞬間――
**警告灯が赤く点灯する。**
「侵入者検知」
「炎核防衛機構、突入」
床が割れ、重い振動が走る。
次の瞬間――
**バスティオン級機構兵、三体。**
さらに、その背後から軽装の炎衛兵がなだれ込んできた。
「来るぞ!!」
エルダが叫ぶ。
---
戦闘は、即座に地獄になった。
バスティオンの一体が、炉心を唸らせる。
炎圧の衝撃波が、空間ごと叩き潰す。
焔環の一人が防ぎきれず、吹き飛ばされる。
「ぐっ……!」
別の仲間が飛び出し、引きずって退かせる。
「退くな! 鎖を断つまで持たせろ!」
レンは歯を食いしばる。
正面から行けば、焼かれる。
だが――止まれない。
「イオ!」
「任せて!」
イオが手を振る。
風が走る。
だが切り裂かない。
**押し流す。**
炎衛兵の隊列が崩れ、互いにぶつかる。
その隙に、レンが炉柱へ走る。
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だが――
バスティオンが一体、立ちはだかった。
巨体。
両腕が展開し、炎の刃が唸る。
「ここは通さないってか……!」
レンが構える。
次の瞬間、斜めから火符が撃ち込まれた。
焔環の戦闘員だ。
「行け!!」
彼は叫びながら、バスティオンに飛びつく。
爆杭が起動し、機体に食い込む。
「俺が止める!!」
「待て――!」
レンが叫ぶより早く、
**爆発。**
炎と破片が弾け、バスティオンがよろめく。
だが、完全には止まらない。
それでも――
**道は開いた。**
---
レンは走る。
炉柱の前へ。
アクア・リヴァーサーが強く脈打つ。
水蒸気が広がり、
炎の拘束をわずかに鈍らせる。
「……今だ」
リヴァーサーの出力を縛り上げる
一撃目――弾かれる。
二撃目――焼ける。
三撃目――
**水と炎がぶつかる。**
拮抗。
押し返される。
皮膚が赤く爛れ始める
「まだ……!」
レンは踏み込む。
そのとき。
後ろから声が飛ぶ。
「レン!!」
イオの風が、背を押した。
ほんの一瞬。
ほんの僅かな加速。
それで、足りた。
――パキン。
鎖が砕ける。
---
静寂。
一瞬だけ、世界が止まる。
そして――
**解放。**
ヴァルドの体から、炎が噴き上がる。
空間が震え、床が裂ける。
バスティオンの残骸が、押し潰される。
炎衛兵たちは、後退するしかなかった。
「ッ……!」
その瞬間、
ヴァルドの体から、何かが解き放たれた。
空洞全体が、震える。
「やめろ!!」
エンスが叫ぶ。
「まだ完全じゃない!」
だが、遅かった。
ヴァルドが、ゆっくりと立ち上がる。
炉柱が崩れ、
炎が“膝をつく”ように沈む。
「……長かった」
彼は、レンを見た。
そして、イオを見る。
「来てくれて……ありがとう」
次の瞬間。
炎が、吼えた。
爆炎が天井を突き破り、
煉獄牢全体に警報が鳴り響く。
「臨界突破」
「炎核、制御不能」
焔環の導師が叫ぶ。
「全員、退避!
このままじゃ国ごと燃える!」
エンスは、苦い顔で呟いた。
「……これが、真実の一端だ」
ヴァルドは、拳を握る。
だが――
その炎は、完全には制御されていなかった。




