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第27話 革命前夜

焔の試練の後、地下の空洞には静寂が戻っていた。

 壁に刻まれた火文字が淡く脈動し、鉄と煤の匂いが残る。

 エルダは仮面を外さぬまま、祭壇のような卓の前に立った。

 その卓上には、アグニ全域の立体模型——赤い鋳鉄で作られた都市の縮図が浮かんでいた。


「さて……次に話すべきは“仲間の救出”だな」

 低い声が空間に響く。


 レンは頷いた。

「炎の国で捕らわれている“ヴァルド”。でも、なぜ捕まっているんです?」


 エルダは模型の中に手を伸ばし、南西の一角を指した。

 そこには、黒い煙を吐き続ける塔のような建物——《煉獄牢れんごくろう》と呼ばれる施設があった。


「ヴァルドは元、帝国軍の錬火技師れんかぎしだった。

 だが、彼は“心臓を持たぬ炎”の危険性に気づき、反旗を翻した。

 いまは処刑待ちだ。……三日後、彼の知識を奪うため、“焔脈抽出”が行われる」


 イオの表情が凍りついた。

「焔脈抽出……? まさか、魂ごと焼き尽くす禁術の……」

「そうだ。あれを受ければ、肉体も記憶も、ただの灰になる」


 レンは拳を握った。

「だったら、もう時間がない……!」


 エルダはゆっくりと頷き、傍らの信徒に命じた。

 鉄板が開き、古びた設計図が広げられる。

 それは煉獄牢の構造図だった。


「牢は三重の結界で守られている。

 一層目は《熱圏ねっけん》——外部侵入者を焼き尽くす魔炎の層。

 二層目は《機構兵の廊》——鉄鎧の兵が常に巡回している。

 そして最深部、《熔芯牢ようしんろう》にヴァルドが囚われている。

 我々《灰環》も何度か潜入を試みたが……成功した者はいない」


 イオが身を乗り出す。

「なら、風を通せる“換気塔”を経由して侵入するのは? 外部から見えない高熱流の層があるはず」

 エルダは目を細めた。

「なるほど……《風の民》らしい発想だ。だが、熱流は暴発すれば瞬時に焼ける。成功率は……五分といったところか」


 レンは迷わず言った。

「それでも行く。ヴァルドを置いては進めない」


 その言葉に、エルダは沈黙し、やがてゆっくりと手を上げた。

 周囲の信徒たちが一斉に膝をつく。

 その中心に、紅蓮の印が浮かび上がる。


「よかろう。お前たちに《灰環》の協力を与える。

 この印を持つ者は、地下路を自由に通行できる。

 ——ただし、忘れるな。ヴァルドを救うことは、この国の“心臓”を揺るがす行為だ」


 イオがレンの肩に手を置いた。

「つまり、これが本当の“革命”の始まりってわけだね」


 レンは小さく頷く。

 その目には、恐れよりも確信の光が宿っていた。


 エルダの声が最後に響く。

「夜明けまでに準備せよ。焔が街を照らす刻、煉獄牢の門はひととき開く——その瞬間を逃すな」


 地下の灯が赤く揺れる。

 焔の壁の向こうに、三人の未来が熱を帯びて脈打っていた

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