第26話 焔の試練
「これが……焔の試練……」
レンの声に、エルダは静かに頷いた。
「恐れた者は、炎に飲まれて灰になる。
抗う者は、炎の中に“真理”を見る……」
エルダの杖が打ち鳴らされた。
炎が形を変える。
焦げた鉄の皮膚に、紅蓮の心臓を宿す巨像——“焔獣”。
床が揺れ、熱風が吹き荒れる。
イオが両手をかざし、風の壁を展開した。
炎が歪み、渦となって方向を失う。だが獣はそれを裂き、腕を振り下ろした。
——轟音。
鉄が弾け、石が砕ける。
レンは反射的に飛び退き、両手から水を生み出した。
蒸気が立ち上り、白い霧が空間を覆う。
「レン!」
「大丈夫だ……けど、これ、ただの炎じゃない!」
焔獣の身体の奥から、声が聞こえた。
それは低く、苦しげで——まるで“誰かの叫び”だった。
『……燃やせ……恐れるな……火は魂の形だ……!』
レンは一瞬、立ちすくむ。
その声に、奇妙な懐かしさを覚えたのだ。
胸の奥で、心臓が震え、炎の鼓動と重なってゆく。
「イオ、こいつ……生きてる」
「……! 魂の残滓よ。アグニの神官たちが、古の戦士の魂を炎に縛って創った“供犠の獣”。本当に存在するなんて、、、
この試練は、この魂を鎮めること——火を恐れず、受け入れ、共に燃やすこと」
イオが風を放つ。炎の隙を縫い、レンの足元の熱を散らす。
レンは拳を握った。
恐怖を押し込み、水の力を解き放つ。
轟音と共に、透明な波が地を走り、焔獣の炎を包み込む。
水が蒸発し、蒸気が渦巻き、空間全体が白と赤に染まる。
その中で、レンの心に声が響いた。
——“水は、炎を拒むものではない。
水は、炎を映す鏡となれ。”
水と炎が混ざり合う。
焔獣の炎が柔らかく揺れ、次第に人の形へと戻っていく。
最後に残ったのは、赤い光の粒となって、レンの掌の上に降り注いだ。
エルダはゆっくりと歩み出た。
仮面の奥の瞳が、レンとイオを見据える。
「……よくぞ、恐れずに受け入れた。
炎とは、破壊ではなく“命の転生”の象徴。
お前たちの中には、すでに火の理が宿り始めている」
仮面の奥で、エルダが微かに笑った。
「歓迎しよう。“灰環”へ。……お前たちは、まだ知らぬだろう。炎の奥に眠る“心臓”の真実を」
地下の灯が再び揺らめいた。
その光の中で、レンは無意識に掌を見つめる。
そこに残った微かな赤光は——まるで“心臓”のように、静かに鼓動していた。




