表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

第26話 焔の試練

「これが……焔の試練……」

 レンの声に、エルダは静かに頷いた。

「恐れた者は、炎に飲まれて灰になる。

 抗う者は、炎の中に“真理”を見る……」


 エルダの杖が打ち鳴らされた。

 炎が形を変える。

 焦げた鉄の皮膚に、紅蓮の心臓を宿す巨像——“焔獣えんじゅう”。


 床が揺れ、熱風が吹き荒れる。

 イオが両手をかざし、風の壁を展開した。

 炎が歪み、渦となって方向を失う。だが獣はそれを裂き、腕を振り下ろした。


 ——轟音。

 鉄が弾け、石が砕ける。

 レンは反射的に飛び退き、両手から水を生み出した。

 蒸気が立ち上り、白い霧が空間を覆う。


「レン!」

「大丈夫だ……けど、これ、ただの炎じゃない!」


 焔獣の身体の奥から、声が聞こえた。

 それは低く、苦しげで——まるで“誰かの叫び”だった。


『……燃やせ……恐れるな……火は魂の形だ……!』


 レンは一瞬、立ちすくむ。

 その声に、奇妙な懐かしさを覚えたのだ。

 胸の奥で、心臓が震え、炎の鼓動と重なってゆく。


「イオ、こいつ……生きてる」

「……! 魂の残滓ざんしよ。アグニの神官たちが、古の戦士の魂を炎に縛って創った“供犠の獣”。本当に存在するなんて、、、

 この試練は、この魂を鎮めること——火を恐れず、受け入れ、共に燃やすこと」


 イオが風を放つ。炎の隙を縫い、レンの足元の熱を散らす。

 レンは拳を握った。

 恐怖を押し込み、水の力を解き放つ。


 轟音と共に、透明な波が地を走り、焔獣の炎を包み込む。

 水が蒸発し、蒸気が渦巻き、空間全体が白と赤に染まる。


 その中で、レンの心に声が響いた。

 ——“水は、炎を拒むものではない。

   水は、炎を映す鏡となれ。”


 水と炎が混ざり合う。

 焔獣の炎が柔らかく揺れ、次第に人の形へと戻っていく。

 最後に残ったのは、赤い光の粒となって、レンの掌の上に降り注いだ。


 エルダはゆっくりと歩み出た。

 仮面の奥の瞳が、レンとイオを見据える。


「……よくぞ、恐れずに受け入れた。

 炎とは、破壊ではなく“命の転生”の象徴。

 お前たちの中には、すでに火の理が宿り始めている」


 仮面の奥で、エルダが微かに笑った。

「歓迎しよう。“灰環”へ。……お前たちは、まだ知らぬだろう。炎の奥に眠る“心臓”の真実を」


 地下の灯が再び揺らめいた。

 その光の中で、レンは無意識に掌を見つめる。

 そこに残った微かな赤光は——まるで“心臓”のように、静かに鼓動していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ