第25話 “灰の導師”エルダ
二人は扉を抜け、階段を駆け下りた。
熱は薄れ、代わりに鉄と灰の匂いが濃くなる。
下へ、さらに下へ——。
そして辿り着いた先は、巨大な地下の空洞だった。
壁一面に、赤黒い鉱石が埋め込まれている。
古代語のような火文字が浮かび上がり、淡く鼓動するように光を放っていた。
レンが息を呑む。
「……ここは……」
そのとき、頭上から声が降ってきた。
「侵入者か?」
影の中から現れたのは、赤い布で顔を覆った者たち。
十数名が円を描くように彼らを囲み、手にした槍の先から微かな熱が立ち上る。
中央に立つ一人——仮面の女が一歩前へ出た。
彼女の周囲の空気がわずかに揺らぐ。
「何者だ。ここは、選ばれし者の祈りの炉だ。外の者は立ち入りを許されぬ」
イオはわずかに身構えたが、その肩をレンが押さえた。
そして彼は真っすぐに仮面の女を見据え、名を口にした。
「……あなたが、“灰の導師”エルダですか」
周囲がざわめく。
エルダは仮面の奥で目を細めた。
「……その名を知るか。では貴様らは、炎の敵か」
「違う」レンが即答した。
「俺たちは、炎を敵にするために来たんじゃない。——炎を取り戻すために来た」
沈黙が落ちた。
やがて、エルダの声が低く響く。
「取り戻す……? この国の誰一人、そんなことを口にする者はいない。貴様、何者だ」
イオが一歩前へ出る。
「風の国ヴァーユの調査官、イオ・レインハルト。そしてこの男は、水の心臓の継承者——レン」
導師の仮面がわずかに動く。
「……水の……心臓?」
その言葉が火花のように、空気を変えた。
周囲の赤布の者たちが互いに顔を見合わせ、ざわめきが強くなる。
レンは拳を握りしめた。
「水は死んだ。けど、もう一度流れを取り戻したい。そのためには、炎の力が必要なんだ」
沈黙ののち、導師はゆっくりと手を挙げた。
赤布の者たちが武器を下ろす。
「……ならば見せてもらおう。お前たちが“炎を恐れぬ者”かどうかを」
その声と同時に、床の下で鈍い音が鳴った。
鎖がほどける音。地面の裂け目から、灼熱の風が吹き上がる。
炎が形を持ち、影を作る。
巨大な四足の獣が、赤く脈動する輪郭を揺らめかせながら現れた。
その眼は、煤と火花の中で光る——まるで獣の残骸が、再び呼吸を始めたように。
導師エルダが低く告げた。
「“焔の試練”だ。これに耐えた者のみが、我らの盟約に足る」
レンはその熱を前にして、拳を強く握る。
イオが風を纏い、隣に並んだ。
——炎を恐れぬ者として、立ち向かうために。




