第20話 機関車にて
――ごうん、ごうん、と蒸気機関車の鉄のリズムが響いていた。
狭い貨物車両の影に身を潜め、レンとイオは荒い息を整える。外の喧騒が遠ざかり、やっと一息つけた。
「……ふぅ……」
レンは背中を鉄壁に預け、額の汗を拭った。氷影、奉水院、あの水門……すべてを一気に抜けてきた疲労がどっと押し寄せる。
イオは対照的に、涼しい顔で靴を脱ぎ、組んだ膝に顎をのせていた。
「思ったよりやるじゃない、レン。普通の子なら、あの氷影で凍り漬けになってたわ」
「……僕はただ必死に……」
言いかけて、レンは息をつぐ。胸の奥で、リヴァーサルコアが静かに脈打っていた。
「でも、ここからが本番よ」
イオの瞳が暗闇でかすかに光った。
「次に向かう炎の国――アグニは、水の都よりもずっと厳しい土地。大地は赤熱し、空気すら燃えるような熱を帯びる。人々は炎を“力”と崇め、強者だけが生き残る国」
レンは思わず息をのむ。
「……炎の国の水も死水に……?」
「あたりまえよ、だからこそ、水の都に依存してる。清水を輸入する代わりに、アグニは鉄と火薬を供給してる。おかげで、この世界の戦争の火種は絶えないの」
イオは指先で空中に丸を描いた。
「五王国――空、風、火、地、そして水。均衡を失えば、世界はさらに崩れる」
機関車の窓から、遠く赤く光る地平がかすかに見えた。
「……炎の国に行けば、僕たちは何を?」
イオは薄く笑った。
「水の心臓を復活させるために、炎の力と炎の心臓片を手に入れるのよ!でも……覚悟しておきなさい。あそこは弱者を容赦なく焼き尽くす国。甘えは通じないわ」
レンは拳を握りしめた。
胸の奥で、水の鼓動が熱を帯びて広がっていく。
――やがて機関車は、赤い大地の王国へと近づいていく。




