第18話 ひょ、ひょぇ~
老人の言葉を胸に、レンとイオは図書館の裏口へ向かった。
密かに取り付けられた梯子を下り、外の屋根伝いの通路へ。
「これで、脱出のルートは完璧……はず」イオが息をひそめてつぶやく。
図書館を抜け出したレンとイオは、狭い屋根道を駆け抜ける。
だが、その進路を複数の機構兵が塞いだ。
「侵入者、捕縛せよ」
無機質な声と同時に、青白い蒸気が夜空に舞い上がる。
鋼鉄の脚が屋根瓦を砕き、爪が閃光のように振るわれる。
「数が多いな……レン、目を逸らすなよ!」
イオは掌をかざすと、烈風を纏った刃を生み出した。
風の刃が三体の機構兵を一度に弾き飛ばし、屋根の端へ叩きつける。
レンもすかさず応じる。
「水よ、砕けろ!」
瓦に染み込んでいた湿気が一斉に水流となり、残る兵の脚を絡め取る。
イオはさらに風で水を圧縮し、竜巻のように兵を包み込んだ。
蒸気と水と風が入り乱れ、機構兵たちはバランスを崩し、次々と崩れ落ちていく。
「……ふぅ。私を侮ったらだめだよっ!」
さすが一国の威信を背負って潜入しているだけはある
二人は水門の間を縫うように走り抜け、ついに脱出口である定期機関車発車駅の屋根にたどり着いた。そこには、炎の帝国アグニへ向かう唯一の移動手段——巨大な蒸気機関車が停車していた。
しかし、安堵したのも束の間。
重々しい足音と共に、聖水院の団体が影のように広がってくる。
「ここまで逃げ延びるとは……だが、終わりだ」
青白い灯火の列に囲まれ、退路はすでに塞がれていた。
その最前列に立つ影が、剣を抜いた。
水を纏った刃は、夜の光を鮮烈に跳ね返す。
「最上級聖水魔剣士、氷影……!」
イオが低くつぶやく。
氷影の剣先がゆるやかに構えられる。
それは追撃ではなく、狩りの始まりを告げる合図だった。
蒸気機関車の汽笛が遠くで鳴り響く。
逃走の時は迫り、戦いの幕は上がろうとしていた。