第15話 大図書館へ
第一層の街路は陽光に照らされ、石畳の上を清水が走る。
だが周囲には武装兵と監視機構が並び、油断すればすぐに捕まる状況だった。
「私は風の国からの使節として第一層で招かれたこともあるからなーんとなくは場所がわかるのよ!」
「……絶妙に心もとないなぁ」
「正面から行ったら一瞬で捕まるね……」レンが小声で言う。
「心配しないで。風に隠してもらえばいい」イオは囁き、そっと息を吹いた。
すると、建物の角から突然つむじ風が立ち、砂埃が舞い上がる。
衛兵たちの視線がそちらに向く一瞬の隙を突き、三人は石橋の下へ滑り込む。
さらに進むと、蒸気仕掛けの監視球が通路を漂っていた。
イオは両手を広げ、空気の流れをわずかに歪める。
球体のセンサーはわずかな風圧に反応し、反対方向を探り始めた。
「今よ、急いで!」
そうしてすぐ図書館の近くまでこれた
風の魔法がこんなに便利なものだとは……
図書館の正面は厳重に警備されていた。
広場には聖水院の衛兵が立ち、蒸気仕掛けの監視球が宙を漂っている。
正面からの侵入は不可能に近い。
「上からなら……行けるかもしれない」
イオが小声で言うと、足元にそよ風が集まりはじめた。
次の瞬間、風は階段のように形を変え、三人の身体を静かに押し上げる。
布の裾がはためく音すら、風が吸い込んで消していた。
「……これが、風の力……」レンは息をのむ。
足場らしい足場のない外壁を、彼らは音もなく昇っていく。
石造りの壁に手をかけると、風が支えてくれるため、重さはほとんど感じなかった。
やがて図書館の屋根にたどり着く。
下を見下ろせば、衛兵たちはまだ地上の警備に集中している。
彼らが屋根の上に人影を見つけることはない。
イオは短く息を吐き、髪をなびかせながら囁いた。
「静かに。ここからなら、裏口の天窓に降りられる」
レンは頷き、光を浴びる屋根の上を、風に導かれるまま進んでいった。




