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第4話 記憶の守護者

この小説の略称募集中です




結は足を踏み入れると、目の前の景色が一瞬にして変わった。


広大な空間に浮かぶ巨大な扉が現れる。

その扉は、まるで時間そのものを封じ込めているかのように、重厚で荘厳な雰囲気を漂わせていた。

周囲には無数の光が散らばり、その光が結を包み込むように舞っていた。


「これが、次の試練…?」


結は少し躊躇いながらも、その扉に近づいた。

足元はしっかりとした感触があり、どこか安定感を感じる。

しかし、心の中で何か不安な気持ちが湧いてきた。


「ここで私が試されるの?」


その問いに答えるように、背後から梓の声が響いた。


「試練の内容は、あなたがこれから向き合うべきものです。」


結は振り返ると、梓が静かに立っているのを見た。


彼の目は、どこか真剣で。

それでもどこか温かさを感じさせる。


「私が向き合うべきもの…?」


「はい。あなたがこの場所で見るもの、それが試練そのものであり、あなた自身の一部です。あなたがどれだけその一部を受け入れ、向き合えるかが、あなたの前に進む鍵です。」


梓の言葉は、結の胸に深く響いた。彼の言う通り、この場所で試されるのはただの「記憶」だけではなく、それに伴う感情や過去の自分に対する認識だった。


「でも、怖い。私、どうしても過去に向き合いたくない…」


結は小さな声で呟いた。

それがどんなに辛いことか、彼女はよくわかっていた。


傷つくのが怖い。


記憶の中にある、失われた時間や、消えた家族との日々に向き合うことが、どれほど恐ろしいか。


その恐れを感じるたびに、心が震えた。


「それでも進みなさい。」


梓の声が、優しくも力強く響く。


「進むことが、あなたにとって一番必要なことです。」


結は梓の言葉に背中を押されるようにして、再び扉に向かって歩き出す。




---




扉の前に立った瞬間、結の体に微かな震えが走った。

その扉は、まるで彼女の恐れを感じ取っているかのように、ゆっくりと開き始める。


扉が完全に開くと、そこには見覚えのある場所が広がっていた。

目の前に広がっていたのは、結が幼い頃に過ごしていた家のリビングだった。


「これは…私の家?」


結は驚きとともに、もう一度その景色を見つめた。

リビングの中には、白いソファと木製のテーブル、そして大きな窓から差し込む陽の光が温かく部屋を照らしている。

まるで昨日のことのように、鮮明に思い出すことができる。


「懐かしい…」


結は声を漏らし、目を閉じた。


あの頃は幸せだった。


家族と一緒に過ごした穏やかな日々。

母親と父親と、まだ小さかった自分が一緒に過ごしていた日々。


しかし、その幸福な記憶が急に歪み始めた。


「…お母さん?」


結はその声を呼んだ。しかし、部屋の中には誰もいない。


「お母さん…?」


再びその名前を呼んだが、返事はなかった。

部屋の中にはただ静寂が広がり、結の呼びかけが空しく響く。


「なぜ…?」


その時、部屋の隅にぼんやりと現れた影が目に入る。

結は目を凝らしてその影を見つめた。それは、結の母親の姿だった。


「お母さん…?」


結はその影に向かって駆け寄った。しかし、近づくとその影は次第にぼやけていき、結の目の前から消えていった。


「消えないで…」


結は焦ってその場所を探し、目を周囲に向けるが、影はすでに姿を消してしまっていた。


その瞬間、部屋の空気が重くなり、冷たい風が結の体を包んだ。


「あなたが恐れているのは、あなたの中にある感情です。あなたが向き合うべきなのは、この恐れ。」


梓の声が、結の耳に届く。


「恐れ? でも、私はもう…」


結は何か言いかけたが、その言葉は口に出すことなく消えた。

目の前に現れた光景が、あまりにも現実的だったから。


「あなたが失ったものは、確かに痛みを伴うものです。でも、その痛みを受け入れなければ、前に進むことはできません。」


梓の声が結の心に響く。

結は深く息を吸い込み、その言葉を反芻する。


「あなたの過去は、あなたを形作る一部です。恐れを抱くことなく、それを受け入れることが、あなたが進むための第一歩なのです。」


結はその言葉を胸に刻み込み、ゆっくりと振り返った。


部屋の中には再び何もない。

ただの空間が広がっている。


しかし、その空間に一つの光が現れた。

その光が結の目に映り、彼女はその光に手を伸ばした。


その光を掴んだ瞬間、結の体に温かな感覚が広がり、過去の恐れが少しずつ消えていくのを感じた。


「私は、進まなければならない。」


結は心の中でそう呟き、もう一度その光を掴む決意を固めた。




---




「試練は終わりです。」


梓の声が響く。


結はその声に振り向き、彼に微笑みかける。


「ありがとう。」


結の言葉に、梓は静かに頷いた。


「あなたが恐れに打ち勝ったこと、それが次の扉を開く力になったのです。」


結はその言葉を胸に刻み、次の扉へと進んでいった。

前に進むためには、もう何も恐れるものはない。


そして、彼女は新たな記憶の扉を開けるために、歩みを続けた。




(たぶん)続く

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