第3話 記憶の迷宮
新年始まったことにまだ頭が追いついてないです
結は目の前に現れた記憶の断片を、呆然と見つめていた。
「これが…私の記憶?」
その記憶は、まだ幼い結が母親と一緒に公園で遊んでいるシーンだった。木の下で、二人は笑いながら手をつないで歩いている。風が吹き、木々の葉が揺れる音が響く。
その記憶には暖かな光が満ちていて、結はその光景を心地よく感じた。しかし、次の瞬間、その光景は歪み、ゆっくりと変わり始めた。
母親の顔がぼやけていき、結の手を離れた。
「え…?」
結は驚いてその光景に手を伸ばすが、記憶はすぐに消えてしまう。残ったのは、虚しさと不安だけだった。
「な、なんで…」
彼女はその記憶を取り戻したかった。どんなに必死に手を伸ばしても、その手は虚空に消え、彼女の中に空白だけが広がった。
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「試練を乗り越えなければならない。」
梓の声が結の耳に響く。彼女は振り返り、梓の顔を見つめる。
「試練?」
「はい。ここで試されるのは、あなたがどれだけ過去の自分を受け入れ、向き合えるかということです。」
梓はゆっくりと歩きながら、結の肩に手を置いた。
「今の記憶は、あなたが忘れたかったこと、避けたかったことです。けれど、それがあなたの一部であることを理解しなければ、次の扉を開けることはできません。」
結はその言葉にしばらく黙っていた。
過去の自分、過去の記憶に向き合うことが怖かった。
自分が失ったものを思い出すことが、どれだけ辛いことなのか。
彼女はよく知っていた。
「でも、私はどうしても知りたい。私は、どうして記憶を失ったのか。母親はどこに行ったのか…それを知りたいんです。」
結は強く言った。
その言葉には、これ以上隠さずに進みたいという決意が込められていた。
「その気持ちがあるなら、あなたは試練を乗り越えられるでしょう。」
梓は微笑んで言った。
そして、結に向かって手を差し伸べる。
「行きましょう。次の記憶の扉へ。」
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結は梓の手を取り、さらに先へ進んだ。
歩きながら、周りを見渡すと、無数の光が揺らめいている。まるで、星が舞い降りたような、幻想的な空間だ。
「これが私の…記憶?」
結は目を凝らして光の中を見つめる。
その中にいくつかの記憶が現れるのを見た。
それらは、どれも過去の一瞬一瞬を切り取ったものだった。
ある光景は、家族での旅行先の思い出。
海辺でのひととき。
結が小さな手で砂浜にお城を作る姿。
父親と母親が楽しそうに笑っている。
その記憶に、結は自然に涙を浮かべた。
それは幸せな、温かな記憶だった。しかし、すぐにその景色も消え去り、代わりに暗闇が広がる。
「また…消えていく。」
結は思わず呟くが、その声は空に吸い込まれるように消えていった。
消えていった記憶の中に、残っているものがあった。
それは、結の心に深く刻まれていた。
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「それでも、向き合うしかない。」
梓がそう言って結に振り返った。
「あなたが恐れることは、必ずしも悪いことではありません。過去の痛みや傷は、あなたを作り上げる一部です。それを受け入れることで、初めて自分を理解することができる。」
「でも…」
結は口をつぐんだ。
その言葉に対して、何も反論できない自分がいることに気づいた。
彼女はどこかで、それを受け入れたくないと思っていた。
「記憶を失った理由が、もし辛いことであったとしても、それを知ることであなたは前に進めるはずです。」
梓はゆっくりと歩きながら続ける。
「だから、試練を乗り越えなさい。」
結は深く息を吸い込んで、その言葉を反芻する。
目の前に現れる無数の光景が、彼女に試練を与えていた。
どれも過去の一部。
どれも自分が忘れたかったこと。
でも、それを受け入れることで、結は前に進む力を得ることができるのだろうか。
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その時、結の前に新たな記憶が現れた。
それは、彼女が13歳のとき、母親と一緒に最後に過ごした日だった。
「お母さん…」
結はその記憶を見つめた。
母親が優しく微笑み、結の髪を撫でていた。
まるで、何もかもが上手くいっているかのように。けれど、その直後、記憶が歪み、母親の顔がぼやけ始めた。
「お母さん!」
結はその記憶に向かって手を伸ばしたが、再びその光景は消えていく。
「消さないで…!」
彼女は声を上げた。
しかし、光景はあっという間に消え、空気だけが残った。
「なぜ…?」
その問いに、答えはない。
ただ、結の胸に一つの疑問が深く刺さった。
それが、彼女をさらに前へと押し進めていた。
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「あなたが過去と向き合うことで、未来に進む力を得ることができる。」
梓の声が再び結の耳に響く。
「さあ、次の試練へ。」
結はゆっくりとその足を踏み出した。どこか遠くの光を見つめながら。
そして、彼女は再び、記憶の迷宮の中に足を踏み入れた。
(たぶん)続く
ずっと同じ体制というのもよくないですね。
二の腕がピキピキ言い始めました。
さすがに運動します。
皆様健康には気をつけましょうね。