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人生図書館

作者: 夕暮れの家

短いです。さくっとお楽しみください。

「ここは?」


 見渡す限りずらりと本が立ち並ぶ。紙の本特有の匂いが香ってくるような圧倒的な蔵書量。上を見上げると吹き抜けで小さく空が見え、本棚があちらこちらに敷き詰められている。


「こんちには。」


 景色に圧倒され、声をかけられるまでに人が居たのに気づかなかった。目の前に白髪を後ろに撫でつけた精悍な顔つきの老紳士がいた。


「えっと、こんにちは…。」


「私は人生図書館の司書をしております。オリバーと申します。お見知りおきを。」


 人生図書館?確かにここは図書館っぽい。これほどまでに本が並ぶ図書館には出会ったことがないが。


「あの?俺はなんでここに?」


 混乱する頭を整理するためにか、不意に目の前に現れた人物に質問をしてしまう。


「状況がわからず混乱しておいでですね。大丈夫です。ここはただの図書館。何も危険はございません。貴方様に確認が必要でしたのでお呼びしたまでです。」


 確認?


「ここは現世に生きる全ての生き物の人生を一つの書物として記録し保管する図書館なのです。貴方様の人生の記録もこちらで保管されております。本日は貴方様に貴方様の人生の記録を貸し出しても良いかの確認が取りたかったのです。」


「貸し出し?」


「そうです。貸し出したからと言っても何かある訳ではございません。少々人に見られると恥ずかしいことがばれる程度でございます。」


 それは結構問題では?


「嫌でしょうか?貴方様はニートでいらっしゃいますね?」


「ニートですけど何か?」


 ニート、嫌な響きだ。他人からニートと呼ばれるのはなお嫌だ。


「ニートの方の人生を好んで読まれるニート愛好家の方たちがいらっしゃるのです。」


「ニート愛好家?そんなのどこがいいんですか?もっと成功者の人生を読んだらいいのに。馬鹿にしたいんですか?」


「いえいえ、馬鹿にしたり下に見たりといったことはございません。単に物語として成功者の順風満帆な人生ではなく、谷あり谷ありのニートの方たちの物語の方が面白いというだけでございます。」


 マニアックな。俺の人生の物語か。まあ面白いとは思わないけど読みたいなら読んで貰っても構わないかな?


「別にいいですよ。たいした人生ではないですけど。」


「ありがとう存じます。では公開させていただきます。」


 奥から一冊の本が飛んでくる。留めていた背表紙が外れ一枚一枚がバラバラになり宙を舞う。紙から文字が浮かび上がり螺旋を描き四角い透明な空間に吸い込まれていく。


「なかなか評判が良いようです。」


「評判?」


「ええ皆さま夢中になって読んでおられます。」


 今、俺の人生が読まれてるのか。なんか恥ずかしいな。後ちょっと緊張する。


「ふむふむ、続編を希望という声が多々見受けられますね。」


「続編ですか?」


「貴方様は今病院のベットの上で昏睡状態となっております。」


 思い出した。俺は日頃の不摂生が祟ったのか部屋で胸が痛くなって倒れたんだ。


「皆さま今後の展開を待ち望んでおられますが、いかが致しますか?今世をここで終わりにするか。はたまた舞い戻り人生の続きを紡ぐか。」


 人生の続き…。ニートで就職したくても就職先もなく、努力しても何も報われないあの人生の続き。


「終わりたいですね。」


「そうですか…。それは皆さま悲しみますね。皆さまこのどん底からの逆転劇を期待されているようでして。」


「逆転劇ですか。それは生き返っても見せられないですよ。逆転できないからどん底なんですよ。」


「ふむ、一理ありますね。少々お待ちください。」


 そういうと老紳士の目の前に黒電話が現れた。老紳士はダイヤルを回しどこかに電話をかける。


「…逆転するためには…ええ…可能で…なるほど…。」


 チンという音と共に受話器が元に戻される。


「今、相談したところ現世でも逆転の目はあるそうです。」


「あるんですか?本当に?」


 どこに逆転の目なんかあるんだ?俺の人生は詰んでるだろ?


「村を作っている人たちがいます。そこへ行って村づくりに参加して村人として幸せな余生を送ることも可能だそうですよ。」


 村人か。そんな人たちがいるのか。


「普通の就職は難しいようです。生活保護を受けて細々とでも小さな幸せを嚙みしめる。そんな人生もまた素晴らしいものです。貴方様が見つける小さな幸せの物語、多くの方が読みたいとおっしゃっていますよ。」


 小さな幸せの物語…。


「そうですね。ロマンを求めるのならば、ここで地球での生活は辞めて、異世界へ転生されるのはどうでしょう?元ニートが異世界で冒険する。物語としてはありきたりではございますが、この王道もまたこよなく愛されているジャンルでございます。」


 異世界転生!


「本当に異世界転生ができるんですか!?」


「ええ、先ほど確認を取っております。異世界へこのまま転生することも可能でございます。いかがされますか?」


 地球での暮らしはもう正直こりごりだ。


「異世界転生がいいです!」


「かしこまりました。では貴方様は異世界転生物の主人公をなさるということで。」


「はい!お願いします。」


「人生は甘くございません。異世界といえど現世で流行っているチート能力などはございません。それでもよろしいですか?」


 チートなしなんてもう慣れっこだよ。


「望むところです。」


「ではでは、あちらの扉から異世界へ旅立ってください。」


 右手に重厚な木彫りの扉が現れる。あの扉を潜れば異世界転生…。


「魔法がある世界でございます。魔物もいますのでお気をつけてください。」


 魔物あり、魔法あり!俺は異世界転生物の主人公になる!


「ではでは、良き人生の第二章を。皆さまハッピーエンドをお望みです。」


 老紳士が美しく礼をし、取ってを回し扉を開ける。


「いってらっしゃいませ。」


「はい!」


 俺の第二の人生がここから始まる。目標は脱ニート!!いや、大きく勇者とか?いやいや、魔王いるのか?あー楽しみだー。



 一人の男を吸い込み、扉が閉まる。


「また異世界転生ですか。最近は流行っていますね。さて、彼はどんな人生を歩むのでしょうか?皆さま続編をお待ちください。きっと彼ならば面白い人生を歩まれるでしょう。」


 

 ここは、人生図書館。全ての生命の人生が物語として保管される場所。今宵もまた一つの物語が動き出す。

お読みいただきありがとうございました。

因みに続編はありません。

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