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My home, in yesterday  作者: 葉桜 藍
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My home, in yesterday

「へえ~。それでその子と一緒にドライブに行ったんだ。以前の海さんなら絶対なかっただろうね」

 からかうように弾む声が、スマホから聞こえてくる。その声に結喜は苦笑いを浮かべた。

「うん、自分でもそう思う。昔の私だったら絶対やらなかっただろうなって」

 結喜の言葉に反応して、スマホから笑い声が聞こえてくる。

 電話の相手は青崎だった。結喜がフォットネットに鹿町で撮った写真を公開すると、すぐに青崎から電話がかかってきた。写真を誉めちぎってくる青崎に、結喜は今回の旅の経緯について説明した。蛯沢に連れて行くようお願いされたこと。一緒にドライブに出たこと。二人でどこに行って、何をしたか。

 その話をスマホの向こうで青崎は驚いた様子で聞いていた。昔から結喜のことを知っている青崎としては、結喜が誰かと一緒に出掛けることはあり得ないことだと知っていたから。

「ちょっとびっくりかも。あの海さんが誰かと一緒に出かけるとか」

「ああ……やっぱりそう思うよね。自分でも驚いてるし」

 結喜にとっても、自分が誰かと行動を共にするのは、以前なら絶対になかっただろう。それがこうして、一緒にドライブに出かけているのだ。結喜も不思議なことだと首を傾げた。

 その時、青崎が笑みを含んだ声をかけてきた。

「でも、楽しかったでしょ?」

「……そう思う?」

 結喜の問いかけに、からかうような青崎の言葉が聞こえてきた。

「だって、ドライブの話をしている時の海さんの声、とっても楽しそうだったし」

 その言葉に青崎は肯定も反論もできず、ただ沈黙を返した。その沈黙の意味を知っている青崎は楽しそうに笑った。

「しかもその子、蛯沢さんだっけ? 一緒に楽器屋に行ったんでしょ? もう仲良しになってるし。ちょっと妬いちゃうかも」

 青崎の言葉に微笑む結喜。彼女の傍らには、新品のトランペットが置いてあった。



 ドライブから数日経った後、結喜と紬は約束したとおり、トランペットを買いに楽器屋に足を運んだ。そこは紬の行きつけの楽器屋で、紬が顔馴染みの店員と話をすると、店員は結喜にトランペットについて色々と教えてくれた。

 店員はトランペット売り場に結喜を連れてくると、いくつかお勧めを教えてくれた。

 その中で、結喜は一つのトランペットに目を奪われた。金色の輝きを放つトランペット。その輝きから目を離せなくなった結喜は、迷わずそのトランペットを選んだ。

 試しに結喜がそのトランペットを構えてみた。まだ一度も吹いたこともないのに、プロのミュージシャンになれたみたいで、結喜はずっとドキドキしていた。

 それから結喜は道具一式を買い揃えて、最後に店員からトランペットケースを受け取った。

 ケースを手から提げる姿がかっこよくて、ニヤニヤする顔が止まらなかった。そんな結喜のことを、紬はずっと楽しそうに見つめていた。



 そうして手にした初めてのトランペットを、結喜は大事そうに見つめていた。

「それで? もう演奏したりしてるの?」

「いや、さすがに演奏はまだ……ロングトーン? 今はまだ音出しの練習だけ。さすがに曲は演奏できないって」

 演奏どころか、音出しだって満足にできていない。低音などは何とか出せるけど、高音に行くほど音を出すのは難しく、息切れだってしてしまう始末だ。

 これで本当に演奏できるようになるのか、道はあまりに遠く感じられた。

 だけど、このトランペットから音が出る。今はそれだけでも楽しかった。

 今はまだこれだけだけど、いつかはあの曲をやりたい。この曲もやりたいと、今から楽しみで仕方なかった。

「これから少しずつ練習していくよ。少しでもこの子を大事に扱えるように」

 トランペットを『この子』と語る結喜。まるで親ばかだなと、スマホで聞いていた青崎は内心で笑うのだった。

「あ、そういえばフォトネのことだけど、アカウントの名前、まだ変えてないの?」

 青崎の言葉に結喜が思い出す。そういえばまだアカウント名を変えていなかった。

「あ、そうだった。忘れてた」

「まだ自分の名前のままだよね? それでもいいけど身バレするのが嫌だったら、早いうちに変えた方がいいよ」

 その申し出に頷く結喜。実際誰にも言ってないのに職場の人間にバレてしまったのだ。海鳥なんていう珍しい苗字、特定されやすいのだから当然だ。

 とはいえ、だからこそ紬とも繋がれたのだから、全てが悪いことではなかったわけだが。

「わかった……早めに変えておくよ」

「変えたら教えてね。それじゃ、お疲れさまー」

 そう言って電話を切る青崎。ツーツーという音だけが聞こえる中、結喜は一人きりとなった。

 そこで一息つく結喜。色々と騒がしい数日間だった。こうして落ち着くのも久しぶりかもしれない。

 昔の独りぼっちだった自分では考えられない経験だ。誰かと一緒に行動して、一緒に笑って、しかもそのことを楽しいと感じる自分がいる。

 全てが初めてのことで、全てが楽しかった。

 昔の自分にこのことを教えたら、きっと顔をしかめていただろう。そんなことを考えて、結喜は我がことながら苦笑いを浮かべるのだった。

「……そうだ。ちょうどいいから、今のうちに変えよう」

 思い出したように身体を起こすと、結喜はスマホを手に取ってフォットネットを開いた。

 そこに映し出したのは結喜のアカウント。アカウントの名前は本名のままになっていた。

 身バレや特定されるのを防ぐために、名前を変えるよう言われた結喜。かなり写真も増えてきたので、この機会にアカウント名を変更することにした。

「……どうしよう」

 そこでスマホを睨み続ける結喜。どんな名前にしようか大きく悩んだ。

 別にどんな名前でもよかったのだが、せっかく誰かに見てもらえるのなら、興味を惹けるような名前にしてみたかった。かと言ってどんな名前がいいのか、結喜には考えも付かなかった。

 こういう時、自分のセンスのなさに呆れてしまう結喜だった。



 ……そういえば、そもそもどうして写真を撮り始めたんだろう?



 結喜の中でそんな疑問が浮かび上がった。最初は青崎に、変わりゆく故郷の姿を伝えたくて撮り始めたのがきっかけだった。

 言い換えれば、結喜が撮っているのは、かつてそこにあった故郷の姿なのだ。

「……かつてあった、昨日まであった町…………」

 その言葉を口にした瞬間、彼女の中で一つの言葉が形になった。結喜はその言葉を忘れないようにその言葉をスマホに打ち込むと、その名前に満足そうに笑った。



『My home、in yesterday』



 この瞬間、彼女の物語が始まりを告げた。

 そこにあるのは、昨日までそこにあった、彼女の故郷。これから彼女が目にしていく、故郷の姿。

 これはそんな故郷を探し、旅する少女の物語。

 その時、結喜がベッドに勢いよく寝転がった。これから行くことになるであろう旅に想いを馳せて、彼女が小さく笑った。

「次、どこに行こうかな……?」

小説『My home,in yesterday』をお読みいただき、ありがとうございます。 作者の葉桜 藍です


今回のお話はいかがでしたでしょうか? ファンタジーや異世界物とは違う、本当にゆるい日常系の物語で、ハラハラもドキドキも、冒険も何もない、何も変哲もない日常の物語は、おそらく需要はないだろうと思っていました。

おそらく書いても反応は多くはないだろうし、面白いと感じる人は少ないだろうと思っていました。


自分がこの物語を書こうと思ったのは、前作『ロマン・エイジ』が完結に向かおうとしていた頃でした。私は佐世保に住んでおり、佐世保周辺の土地をドライブして、その土地の光景を写真に撮るのが好きでした。


それまでの私はドライブに出るようなこともない、引きこもりのインドア派で、外に出ることに興味のない人間でした。

だけど、私を外に連れ出したのはやはり物語でした。それは多くの人が知っているアニメ『ゆるキャン△』で、その物語は私の目に輝いて見えて、そこで描かれる物語を私は美しいと感じました。


その美しさを見た私もまた、旅に出たいと思うようになり、それから色々な土地を巡るようになりました。作中で使っている挿絵の写真も、その時に撮った写真で、それまで私が知らなかった世界でした。

とても近くにいて、だけど知ることのなかった世界がたくさんあって、その世界はどれも美しく輝いていました。


ある意味この物語は私の半私小説であり、主人公の海鳥 結喜は私の分身とも言うべき存在です。

作中のことは全てが本当というわけではありませんが、私が旅して感じたことを、彼女は代わりに感じてくれて、言葉にしてくれています。

みなさんに私が見た世界の美しさが伝わっていたら嬉しいです。


この物語を書くにあたり、きっと反応は少ないだろうし、面白いと感じる人は少ないだろうと思っていました。

それなのに何故この物語を書こうと思ったのか。


私が住む佐世保はお世辞にも豊かだとは言えません。他の街でも同じことが言われていますが、佐世保も人口は少なくなり、寂しさが目立つようになっていました。作中に出てくる佐世保交通公園も今はなく、全く違う光景がそこにあります。挿絵に使っている写真も、閉園前に撮りに行ったものです。

街が移り変わり、姿を変えるのは当たり前のことだし、私もそれは受け入れています。

だけど、受け入れることと寂しくないことは違います。昔から当たり前だと思っていた自分の故郷がなくなるというのは、やはり寂しいものです。

そこに、この物語を書いた理由があります。私はこの物語を書いて、私が生まれ育った故郷をみんなに知ってほしい。みんなに見てほしいと願ったのです。

乱暴な言い方をすれば、『みんなの心に私の故郷を刻みつけてやる』といった、私のわがままなのです。


決して読んでくれる人は多くないと思います。だけど、たとえたった一人でもこの物語を読んでくれる人がいるのなら、その人の心に私の故郷を覚えてくれたなら、この物語を書いた価値があるのだと思います。


佐世保を忘れさせてなんてやらない。この物語に込めた、私の想いです。


この物語がいつまで続くのかはわかりません。ただ、私が旅してきたのはここだけではありません。他にも多くの土地を巡って来たし、写真も撮ってきました。それら私の故郷をみなさんに全てお見せしたい。覚えてもらいたい。そのためにできる限り書き続けて行こうと思います。


どうか一人でも多くの人に、この街のことを知ってもらえたらと思います。


読了、ありがとうございました

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