第5話 7月13日 受難
・・・これが物語なのであれば、次のシーンは鳥野高校の入学式であっただろう。
もしくは、時間が半年ほど飛んで、受験期だろうか。
だが、これは現実であり、現実というのは無情なものである。
ゆえに、こうなることは予想できていた。予想できていたにもかかわらず、
無策で挑んだ私が間違っていた。
何の話かって?
昨日の私の醜態が学校中に広がってたんだよぉ・・・
昨日あのようなことがあり、馬鹿な男子達が話を広めるのは当然、予想できた。
それにも関わらず、何の対策もせずに登校したのは私の落ち度と言えるかもしれない。
だが、だからと言って、痴女呼ばわりはないだろう・・・
朝投稿した時点で斎藤に「あれ?今日は空飛んで来なかったんすか痴女さんw」といわれ、
斎藤の取り巻きである佐藤、村井、伊藤らが騒ぎ立てる。
私の友人はおとなしい人が多く、巻き込まれたくないのか、近づいてこない。
ほかの女子はひそひそと私を指さしながら話しているし、
斎藤の取り巻き以外の男子も下卑た視線を向けてきている。
そのせいで、今日は何を聞いても頭が働かず、気付いたら放課後になっていた。
当然、友人と話すわけにもいかず、昼休みのようにからかわれるのを防ぐため、
誰よりも早く教室を後にした。
部活に入っていない帰宅部でよかったと心底思った。
駆け足で帰っていたため、家と学校の中間くらいで息が続かず、少し足を止めてしまった。
「お、やっと止まったみたいだな」
なぜここに斎藤たちが?
「なぁなぁ痴女さん、あんな大胆なことできるんだしよ、ちょっと付き合えや。」
「は?」
「は?じゃなくてさ。やらせろっていってんの。」
「いやよ!そんなの!従うわけないじゃない!」
「え?なに?逆らっちゃうわけ?俺らのほうが早くダンジョンに潜ってるんだから、
力で屈服させられる前に自発的に従ったほうがいいんじゃないんですかぁ~?」
確かに、数か月前からダンジョンに潜っている斎藤たちとのステータス差は絶望的である。
いくら空を飛べるからと言って、魔法で撃墜されてしまう恐れがある以上、
安易にその選択をするわけにもいかない。
「おら、さっさといくぞ」
斎藤が私の肩に手を回そうとしてくる。
「いやっ!やめて!」
静葉は斎藤の手を振り払う。
「ってぇなぁごら!自分の身分わきまえろや!格闘術Lv2!キック!」
「がふっ」
斎藤の蹴りがおなかに食い込む。痛いいたいイタイ・・・
「うぅ・・・ゲホッゲホッ」
足に力が入らず、うずくまってしまう。
「斎藤さぁーん、やりすぎじゃないっすかぁwやる前に壊れちまいますよw」
「うるせぇな佐藤!俺をたたきやがったんだ、当然の報いだろう」
すたっという音とともに翠色の髪の男性が静葉と斎藤の間に降り立つ。
「・・・偶然飛んでいる<パトロールしている>ときにあの時の少女の魔力を見かけたので、
トラウマになっていないかと心配してきてみたのですが、このようなことになっているとは。
君の理論だと、君がつぶされるのも、当然の報いということでよろしいかね?」
「あぁ?誰だおっさん。関係ない奴がしゃしゃり出てんじゃねぇぞ!」
「ふむ、関係ない、ですか。まぁ、この件に直接関係はありませんが、
見逃す理由がありませんので。あなた方が行っているのは、立派な犯罪です」
「あぁ?だからなんだよ。てめぇにとやかく言われる筋合いはねぇよ!」
「「「そーだそーだ!」」」
「いえ、あるんですよ。私、来年の4月までは、警察官なので。
勤務時間中に警察官が犯罪行為を見逃す、
などということがあり得ないのは考えなくてもわかるでしょう?」
「んなっ、警察だぁ!?っち、ずらかるぞ!」
「「「うぃーっす!」」」
「逃がすとお思いで?重力属性魔法Lv2、ハイグラビティ・2」
「うわっ!なんだこれ!?体が重い!おいおっさん、これを解きやがれ!」
「お断りです。さて、静葉さん、大丈夫ですか?」
ぁ、私に、話しかけて、くれてる。返事、しないと。
「ぅあぁ・・・」
あ、れ?
翠色の髪の男性が、顔色を変える。
「これはまずいですね。肋骨が折れています。あんなのの相手の前に治療すべきでした。
これをお飲みなさい。」
翠色の髪の男性が、しゃがみ、赤色の液体が入った瓶のふたを開け、静葉の口元に差し出す。
「ゲホッ」
静葉は、うまく飲めないのか吐き出してしまった。
「仕方ありませんね。」
そう翠色の髪の男性はつぶやくと、自らの口にポーションを含み、静葉に口移しで飲ませた。
静葉がポーションを嚥下するとともにが輝き、静葉の体が正しい姿に修正される。
どうやら、相当高位のポーションのようだ。
「ぁ・・・ありがとうございます。また、助けていただいちゃって・・・」
「いえ、私の職務みたいなものですからお気になさらず。」
そう翠色の髪の男性はウィンクを1つし、斎藤たちをつかみ飛び去った。
「あ・・・また、名前聞きそびれた・・・」
そう静葉はつぶやきながら、自然と唇に手を当てていたのであった。
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