第7話 いないな・・・どこにも・・・ここにいるはずなのに
7月17日月曜日、祝日。快晴。ダンジョン日和である。
静葉は7時に目を覚まし、歯を磨き、朝食をとり、装備を整え、8時には家を出て、駅に8時30分についた。
鮮色駅近くの小鬼ダンジョン(G級)までやってきた静葉は、驚きの光景を目にすることとなった。
いつも必ず遅れてくるアゲハが、先についているのである。30分も前なのに、である。
静葉はまず、飛行中に目にゴミが入ったわけではないかぬぐい、
次に駅の時計と腕時計を見比べ自らの時計がずれているわけではないことを確かめ、
最後に自らの頬をつねり、幻覚を食らったわけではないことを実証し、
ようやく目の前の信じがたい光景を現実であると認識できた。
幼稚園時代から集合時刻から遅れてでもくればいいほうで、
小学生になれば約束をしたこと自体を忘れて翌日も忘れていることがままあり、
中学に至っては入学式や終業式にすら遅刻してきたアゲハが、である。
静葉はアゲハに「おはよう」と言った後、自らの装備を再確認し、
緊急時用の赤いポーションと青いマジックポーション、黄色いスキルポーション
がすぐ取り出せる場所にあるかを確認し、靴紐が切れる兆候はないか、
緊急時用の発煙筒、最低限の水分、糖分、塩分補給用アイテムがあるかを確認し、
バッグにほつれや弱い部分がないかを確認し、
ダンジョン解放連盟の象徴的なマスクをかぶった集団がいることを確認した上で、
「ごめんね、ちょっと違和感を感じて。でももう大丈夫。さぁ行きましょう。」
と声をかけた。
戸惑ったアゲハが、
「う、うん。いきなりどうしたの?」
と静葉に問いかけたが、静葉はアゲハの両頬をつかみ、伸ばし、
「うん、この触り心地は本人ね。特に何でもないわよ」
と言い、ダンジョンに歩を進めた。
アゲハは何があったのかと考えたものの、まぁいいかと思い直し、
「まってよ!先に一人で行かないでよね!」
と言いながら駆け出した。
Side ダンジョン解放連盟?
顔を隠した者たちが5人ほどいる。
その中で最も背の低い男が、
「この場所に我らが捜しているモノの一端があるというのは本当か?この大幹部である我を呼んだのだ、
確実な根拠を持ってのことだろうな?」
とほかの4人に問いかける
最も背の高い男が、
「はい、確かにございます。かの翠翼がこのダンジョンに入るのを確認しましたので。
かの者がこのような低級ダンジョンに入る理由など、あのモノの一端が保管されているに違いありません」
最も背の低い男が語気を強めながら、
「よもや、それのみで判断したわけではあるまいな!
それ以外の根拠なく我を呼び、あのモノの一端がなかったらどう責任を取る!?」
という。
最も太っている男が、
「大丈夫でふ。ここ数日、かの者がこの辺りを飛び、見回っているのを確認したでふ。
あのような行動をするなど、付近にあると言っているも同然でふ。愚かでふ」
という。
最も背の低い男が、肩を怒らせながら、
「かの者がこの付近にいるというのか!?我とかの者が戦えば、あのモノの一端が無事かはわからんぞ!?」
という。
最も痩せている男が、
「かの者はつい先日飛び去ったであります。
我らに気付かれていないと確信し、この地を去ったと推測するであります。
実に愚かとしか言いようがないであります」
という。
最も背の低い男が、半ば呆れ、頭を抱えながら、
「それは、ここにはないから飛び去ったのではないか?あのお方に、なんと報告すれば・・・」
という。
それをすべて明らかに違う仮面で顔を隠している少女がすべて聞いており、
「あなたたちって、馬鹿だったのね。この付近で残党がこそこそしていると聞いたから来てみたものの、
これなら何もできそうにないわね。」
という。
それを聞き最も背の低い男が
「貴様!幹部たる我になんという口をきくのだ!不敬ぞ!」
といった後、まったく異なる仮面をつけていることに怪訝な表情を浮かべ、2人に
「こいつは何者だ?」
と問う。
最も背の高い男は
「あなた様の後ろを歩いて来たのでてっきりあなた様の護衛かと思っておりました」
という。
そして
最も背の低い男は
「残り二人はどこに行った?」
と尋ねたが
返事をするものはいなかった。
それを気にせず少女に
「まぁいい。あのモノの一端がどこにあるか知っているか?」
と問う。
少女は
「えぇ、もちろん知っているわ。でも、あなたが気にすべきは本当にそのことかしら?」
と問う。
最も背の低い男は
「そういえば、貴様は何者だ?いや、その前に、あいつらはどこだ?
いないな・・・どこにも・・・ここにいるはずなのに」
と言う。
そして少女は
「私は黄泉。あなたたちを狩る者よ。来なさい」
と言い、どこからともなく現れた大鎌を振るい、最も背の低い男、いや、最後まで生き残っていた男を切り捨てた。
その後、
「周りの人が彼らの存在に恐怖しないよう付近の全員にスキルを使って思考誘導するのは思いのほか疲れたわ。」
と溜息を吐きながら呟き、その場を去った。
Side 赤羽
結論から言えば無事スキルの差もあり、ゴブリンを80匹ほど狩り、
BOSSであるゴブリンパーティのゴブリンアーチャーからは視力強化のスキルオーブが落ち、
レベルアップも果たし、4800円ほどの収入を得、幸せなランチを取り、
幸運にもまた会うことができた黄泉に握手をしてもらい、幸せな一日を終えた。
ダンジョンに入る前の違和感のことなど忘れて。




