俺達の冒険はまだ始まったばかりだ!
あの後は凄まじい宴会になった。
ヒーローとなった俺は否応なく連行され、やたら強い酒を勧められ……露骨に下心が見えたから断った。ちなみに一番勧めてきたのはアルベルトのおっさんである。まあキツそうな美人のおねーさんにぶん殴られてたから実害はなかったが。
周りの連中もひたすら飲んで、食って、騒いで、これぞ冒険者の宴だと言わんばかりの乱痴気騒ぎだ。ある者は歌い出し、ある者は踊り、またある者は救出した女の子と一緒にこそこそ出ていった。
ヴァイスは平然とした様子でカパカパと蒸留酒を飲んでいるが、話しかけているのが壁なので相当酔っているのだろう。エミリアは顔を真っ赤にしてケタケタと笑い出したと思ったら、そのままヴァイスに抱きついて寝落ちた。あとたまたま目に付いたが、俺を落下から助けてくれた魔法使いのおっさんが裸踊りを披露していた。
正直俺も途中から意識が朦朧としていたが、ここで寝たら割りとガチで貞操がヤバい気がするので、根性でヴァイスとエミリアを担いで宿屋へ、4人部屋を借りて2人をベッドに放り込み、自分も布団にダイブしたところで記憶は途切れている。
「………………ん!………シ…………さ……!」
何か聞こえる。微睡み特有の心地良さ。ポカポカ暖かい寝具に包まれ、抱き枕をぎゅっと抱きしめる。
「……きて……さ……! シ……さん!」
うるさいなぁ……しかし俺、抱き枕なんて持ってたっけ? なんか温かくてすべすべして胸元に吐息を感じ……!
一気に目が覚めた。がばりと上体を起こすと、胸元にはすがり付くように俺の背に手を回し抱き付く全裸の幼女。そしてベッドの脇に仁王立ちして白い目を向けるエミリア&ヴァイス。
「また可愛らしい子をお持ち帰りしましたねぇ」
「さすがに幼過ぎないかい?」
「まって身に覚えがない!」
ほら良く見て俺ちゃんと服着てるし!
潔白を主張するが全裸幼女に抱き付かれている状況では説得力は欠片もない。ギャンギャンやり合っていると、五月蝿かったのか幼女が目を覚まし、眠たげな視線を彷徨わせ……俺と目が合うとにっこり笑って一言。
「おはよーございましゅ。おとーしゃま」
「「「お父様ぁぁぁっ!?!?!?」」」
シン は こんらん した!
ヴァイス は こんらん した!
エミリア は こんらん した!
ようじょ は ほほえんで いる!
えーとまてまて、この子の身長は1m位、たぶん幼稚園程度だから4~5歳として俺が7~8歳の時の子供……ってさすがに無理があるわ! そもそも現時点でまだ子供作れる身体じゃねーよ!
『……あー、テステス、聞こえるー?』
神様ーっ!? あっ、タリスマンが元のピカピカに戻ってる! 神様助けてこれどうなってんの!
『一言で言うとそれはあなたの言う「ミタマ」よ。
なんでそうなってるかは……昨日邪神殺った奴の悪ノリが原因ね。父親呼びは発生の原因があなただからそう呼ぶようにデフォルト設定されてるわ……』
え……これミタマちゃんなん? 何か喋り方幼くない?
『精霊殻……使ってる器が幼女型で、行動と言動に「あざとい幼女ムーヴ」バイアスが掛かる仕様……あ、その子、服は命令すれば自力で生成するわよ』
それ早く言って!?
「あー、ミタマ……だよな?」
「はーい!」
「とりあえず服なんとかして」
俺の言葉にミタマは一つ頷くと、「ふんにゅ!」と気合を込める。すると謎の光の帯が身体に巻き付き、あっという間に白いワンピースとパンプスに変化する。
服を着た事でようやく幼女……ミタマを観察する余裕が出てくる。透けるような白い肌、薄紫色の髪と目、幼いながらも整った容貌で将来は間違いなく……んんん!? なんか見覚えのある顔だな? というかこのカラーリングも見たような気がする。……神様ー、ちょっと聞きたい事があるんですけど……
『……まあベースになったのは私だし? ……それと重要な事だけど、その子はまだ精霊としては幼くて不完全、あなたとの契約による力の供給なしでは存在を保てないわ。少なくとも10年は契約解除=その子の消滅だと思ってもらって構わないわ』
……本来なら消滅するはずだったんですよね? まあ命の恩人……恩霊?だからそれくらいなら面倒みますよ。
「で? 結局この子は何なんだい?」
いきなり服を出現させるという超現象に、眉を寄せてヴァイスが問いかけて来る。さて、何から説明するか……
考える俺を尻目にエミリアはミタマちゃんと話している。
「ミタマちゃんですか? なんでここにいるのかな?」
「はい! わたしおとーしゃまにゃしでは生きられにゃい体にしゃれたからしぇきにんとってもらいにきました!」
「言い方ぁっ!」
ドヤ顔でぶちかます幼女の言葉に、信じられない物を見たような表情を浮かべる二人。
「シン……君は……」
「そんな……娘とだなんて……」
「誤解だーっ! そもそも年齢を考えろ! こんな育った娘がいるわけねーだろ!」
「はい! じちゅはおとーしゃまじゃなくてごしゅじんしゃまなんでしゅ! でもおとーしゃまってよんでって言われたでしゅ!」
再び幼女に巻き付く光の帯、一瞬で服がメイド服に換装される。
「「シン(さん)……」」
ああっ! 二人の俺を見る目が完全に変態を見る目に!
信じてくれ! 俺はロリ属性はあってもぺド属性はないんだ!
だがどれだけ言葉を尽くしても二人の不信感は拭えず、結局神様に俺の身体に降りて説明して貰う事でようやく信じてもらえた……ありがとう神様。
「「だからこんな事で神を降臨させないでーっ!」」
何故か二人は不満がある模様、解せぬ。
朝っぱらから騒いで疲れたので、朝食を取って一休み。
チェックアウトして歩きながら今後の話し合いをする。
「なら今後は上級で活動するのかい? さすがに早すぎないかい?」
「ボク達まだ3次職になったばかりですよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、邪神戦で位階上がってるから」
まだ石板に触れてないから正確な数値は分からんけど、かなり身体能力が上がってるのは分かる。こいつらもかなり位階上がってるんじゃないかな?
『……クエストクリアボーナスとMVPボーナスであなた位階60到達してるわよ。その子達も50オーバーね。パーティー組んでたから経験値ボーナスが一部流れたから』
「ぶっ!」
まさかの4次職到達に思わず吹く。やっべ早くクラスチェンジしないと!
「よっしゃ! これからダンジョン行くぞ!」
「「いきなり!?!?」」
「おー!」
戸惑うヴァイス&エミリアと、笑顔で賛同するミタマちゃん……そういえば君何が出来るの?
『現状、弱すぎて何も。とりあえず探索の時は実体化解いて体の中に仕舞っときなさい』
指示を出すと俺に抱き付き、そのまま同化するように姿を消すミタマちゃん。
ウキウキしながら俺は二人の手を引き中央ギルドに向かう。4次職かぁ……思えばクソザコ状態からずいぶん強くなっもんだ。最初はソロの上にド貧乏だったよなぁ……
ちらりと振り返れば苦笑しながらも付いて来てくれる二人の姿。力を手に入れ、金を手に入れ、そして仲間もどうにか手に入れた。俺はこれからもダンジョンに潜り、より上を目指すんだろう。何故だろう? そこそこの生活をしたいだけなら安定した場所でドロップ集めるだけでいいはずなのに。解っていても新しいダンジョン、新しい階層に足を踏み入れる度にワクワクする。……結局、俺はゲーム感覚の抜けてない馬鹿なんだろう。安全や安定よりも冒険を好む大馬鹿者だ。けどまあそれでいい。まだ俺は12歳。限界を決めるにはまだ若すぎる。だからこれからもダンジョンに潜る、そう……
「俺達の冒険はまだ始まったばかりだ!」
「「いきなり何言ってるの!?!?」」
底辺冒険者のダンジョンサバイバル ─完─
これにてこの物語は完結とさせていただきます。
正直、ストーリー的にはまだまだ続けられそうですが、肝心の作者の引き出しの方がですね……(^ ^;
まあそんなわけでここで終わりになります。
拙作にお付き合いいただきありがとうございました。
ではまたどこかでお会い……出来るかな?
え? 最終回に新キャラ出すな? だってあのままミタマちゃん死んだままにしときたくなかったんや……
書き終わった感想
もう二度と「はよ続き書けや」とか「もうちょっとましな終わり方なかったの?」とか思いません……
読み専で上のような事を思った事のある方! ぜひ書く側になってみましょう(そして同じ地獄に落ちよう)!




