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邪神の怒り

「要救助者確保ーっ!」

──あ゛あ゛っ゛、お゛ま゛え゛ら゛な゛に゛を゛す゛る゛!──

呆然としていた邪神の隙を突き、冒険者達がアルベルトの切り開いた道を通って囚われていた女性達を救助する。邪神側も触手で妨害しようとするが、大きく扇形に削られた触手の海は、離れる程に妨害が難しくなる。さらに救助に直接関わらない者が触手を迎撃する事で、逃亡を補助していた。

──よ゛く゛も゛わ゛た゛し゛の゛こ゛た゛ち゛を゛!──

「いやお前のじゃないから」

俺は俺で邪神の核とおぼしき例の人間形の触手の塊に近付き、蒼牙で攻撃しようとしていた。もっとも周りの触手の妨害でなかなか攻撃機会が得られないのだが、嫌がらせにはなっているらしく、俺の相手をし始めてからは他の冒険者達への攻撃密度が明らかに下がった。

ちなみに聖属性の蒼牙は邪神相手に効果抜群。太い触手もスパスパ切れる……どころか触れただけで塵にするという超効果を発揮している。とはいえ邪神の再生能力は凄まじい、切っても切ってもあっという間に元に戻ってしまう……さてはアルベルトの相手してる時は観戦モードになっててサボってたな? これどうにかなるのか?

『ゲームではないので無限の再生能力などありません。再生する度にリソースを消費するので、その分力が弱まってはいるはずです。……ただ仮にも神、そのリソースの量は膨大でしょう』

でもある程度削れば神様達が助けてくれるんだよね!?

『……今、神界との連絡が断絶していますので……』

あっ(察し)。

ヤバいな。援軍の来る見込みもないのに倒しきる保証のない相手とかやってられないぞ? ここは逃げることも視野に入れて……

『あと邪神の張った結界により迷宮都市は封鎖されています。弱体化させない限り逃げることも不可能でしょう』

ア、ハイ。

結局やるしかないんですね。ならば出し惜しみは無しといきますか。収納から以前ヘイグさんから仕入れた中級精神回復促進ポーションを呷る。これは本来30秒で1%回復する精神値を1時間の間5秒で1%に促進させる効果がある。なおお値段1本5000セル……高いよ……(なお上級は1秒1%で4万セルだった)。だがこれで5秒で精神値が0.6回復する。アーツも撃ち放題とは行かないまでも結構使えるはず。早速消費10の「闘気刃」を使い、蒼牙を当たるを幸いと振り回す。えーと、闘気刃は60秒持続だからその間に12%回復して……0.6×12=7.2回復か。25秒の息継ぎ入れれば3回復して全回復するな。過回復分がもったいないからたまに飛刃撃つ事にするか。

──あ゛あ゛あ゛! う゛っ゛と゛う゛し゛い゛!──

チョロチョロ自分の周りで触手を削り始めた俺を、邪神は本格的に鬱陶しく思い始めたのか、他の冒険者達への攻撃を止め、俺に攻撃を集中してくる。

だがこれまでのソロ戦闘経験から、俺は多方向からの攻撃の回避とパリィは得意中の得意、攻撃を回避しつつ蒼牙で触手を切り払い消滅させていく。……とはいえ運動量はハンパない。ある程度やったら一度休憩は入れるべきだろう。

「うおっとぉっ!」

外れたと思った触手が鋭角に軌道を変えて襲い掛かって来たのに不意を突かれ、思わず声を上げる。無理やり〇トリックスばりに上体を反らして回避し、同時にその触手を切り払い消滅させる。その拍子に胸元からタリスマンのメダルが飛び出し、上体を起こそうとした俺の顔面を強打する。地味に痛い。防御力でダメージそのものは防げても痛みまでは完全には防げないんだよなぁ……どういうシステムになってんだろ。

ふと、攻撃が止んでいるのに気付く。? 何か邪神がこっちをガン見してる?

──……そ゛れ゛は゛……お゛ね゛え゛さ゛ま゛の゛──

邪神は突如、うにゅるん、と上体を伸ばして俺の胸元に顔を寄せる。なんか胴体が蛇みたいに伸びてるんですけど! キモいな!?

時にミタマちゃんや? 邪神のこの反応に心当たりは?

『そのミタマちゃんと言うのは私のことですか?』

分御霊だからミタマちゃんですよ? 本体の神様と喋り方が全く違うので区別してみました。

『……いえ、処理能力が違うだけで基本同一存在……いやまあいいです。それで心当たりですが……この邪神が恐らくかつての部下で後輩でもあった元縁故神だからではないでしょうか』

縁故神……あー、なんか私欲のままに神の力を振るって邪神化しかけて神の座を追われたとか聞いたような?

『ちなみに(運命神)に対する覗き、盗撮、ストーカー行為などですね。他にもそれらの行為をやるために業務上横領などを……』

それ絶対後半の方がメインの罪状だよね。

『そういえば百合的な意味で敬愛していた私に、男の眷属が出来た事で、その眷属(あなた)に対して殺意じみた感情を持っていたような……』

……あの、そーゆー重要な情報は早目に教えてくれませんかね?(´・ω・`;)

恐る恐る邪神に視線をやると、こちらをねめつける血走った目と目が合った。

──……お゛ま゛え゛か゛──

「人違いです」

思わずノータイムで否定する。だが邪神はこちらの声には反応することなく、触手の海を構成していた触手を中心部に集め、人の形をした部分を肥大化させる。先程まで伸ばしていた首も、シュルシュルと掃除機のコードを巻き取るように体に収納されていく。

そうして出来たのは頭から爪先まで触手で構成された巨人で、もともとあった美女の顔は右目の位置に配置されている。ちなみに左目の位置には何やら邪悪な笑みを浮かべた醜悪な老婆の顔が貼り付いている。また、全身の触手の先端はまるで某映画の宇宙生物(エイリアン)の頭部のように変化しており……

『いえ、あれは特徴からしてワラスボですね。有明海に生息する魚類です。ちなみに食用』

あのキモいの食べるの……いや、似てるだけで別物なんだろうだけどさ。凄いな我が前世の母国。

──ゆ゛る゛さ゛な゛い゛……ぜっ゛た゛い゛ゆ゛る゛さ゛な゛い゛ーっ゛!!!!──

イソギンチャクのような形状の口が開き、轟音……というかもはや物理的な衝撃波を伴う咆哮を上げる邪神。小柄で体重の軽い俺はそれだけで数m程吹き飛ばされてしまう。

──ぜっ゛た゛い゛に゛ほ゛ろ゛ぼし゛て゛や゛る゛! か゛く゛ごし゛ろ゛!──

どうやらここからが本番のようだ。

ついに遅れに遅れたあの方がやってくる!

次回「シリアスさん見参」(そんなタイトルじゃない)

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