ある落伍者の独白
なんかお休みしてるのにブクマが地味に増えとる……! くっ、休むつもりなのに書かなきゃいけない気分になってきた!
お、俺はそんなにチョロくないんだからねっ! ただたまたま筆が進んだだけなんだから! 折角書いたの更新しないと勿体ないと思ったらだけなんだから勘違いしないでよねっ!(誰得やねん)
どうしてこんなことになっちまったんだ……
俺は無くなった右腕の切断面を押さえて止血しつつ、そんなことを考えながら路地裏を彷徨っていた。
昔から体格が良く頑丈だった俺は、四男だった事もあり12になって直ぐに故郷の農村を出て冒険者になる事にした。農家の四男なんて居なくなっても誰も気にしない。親も兄弟もあっさり送り出した。唯一可愛がってくれたばあちゃんが悲しんでくれたのはちょっと嬉しかった。選別に貰った御守りは今でも身に付けている。
幸い、天職は戦士で体格の良い俺には前衛はぴったりだったので、すいすいと位階は上がり一月程で俺を含めたパーティーメンバー全員が2次職になる事が出来た。同期の中では早い方で正直調子に乗っていた。順調に実力を伸ばしていると思った俺達は、更なる飛躍を求め中級ダンジョンに進出し……壊滅した。
罠にあっさり引っ掛かり、その隙に背後から忍び寄った魔物に後衛の魔法使いと弓使いが殺された。混乱する中、次々と仲間達が殺されて行くのを見て、俺は逃げ出した。幸い俺は2次職に体力が大幅に上がる格闘家を選んでいた為、魔物の猛攻でも多少の余裕があった。仲間を囮にしたのも正解だった。アイツ等が喰われてくれたおかげで俺の方に来る魔物が少なくなった。
どうにか逃げ出して新しいパーティーを組んだ。格下の新人だったが贅沢は言えない。みっちり鍛え上げてやはり一月で2次職にした後、再び中級ダンジョンに挑む事にした。
そして2度目の壊滅。今なら分かるが当時は圧倒的に知識が足りていなかった。中級以上のダンジョンで活動するには罠を発見出来る盗賊が必須だと。第二天職を選ぶ時にパーティーで感覚の高い奴が一人盗賊を選ぶのがセオリーだと。順調に位階を上げて調子に乗っていた俺達はそういう事を教えようとする先輩達を「先輩面してマウントとってくるウザい奴等」と遠ざけていた。
そんな事も知らずに何度もパーティー壊滅を繰り返し、その度に仲間を見捨てて逃げ出す俺には、何時しか誰もパーティーを組んでくれる相手が居なくなっていた。
「疫病神」のロイス。気付けば俺はそんな名で呼ばれていた。俺は二つ名……悪名持ちの要注意人物になっていたんだ。
ソロで出来る事には限界がある。中級どころか下級ダンジョンですら満足に探索出来ず、満足な収入を得られずに腐っていた時、それは起こった。
ダンジョンの安全地帯で会った新人パーティーに、疫病神呼ばわりされて馬鹿にされた。頭に血が昇り、気付いた時にはそいつ等は全員死体になっていた。やっちまったと思った。だがそいつ等の持っていた素材と装備を剥ぎ取り売り飛ばしても事件が発覚する事は無かった。当然だ。冒険者が迷宮で行方不明になるなんてありふれていて誰も気にしない。
後は転げ落ちる一方だった。自分で狩りをするより、油断した新人を狩る方が効率が良かった。なんなら町中でボコッて金を奪っても問題無かった。……迷宮都市の衛兵は町のまともな住人に手を出せば黙ってはいないが、冒険者同士のいざこざにはほぼ不干渉だった。荒くれ者同士が殺し合っても気にしない……と言うか冒険者同士のいざこざが多すぎていちいち相手にしていられないってとこか。
いつの間にか俺の周りには新しい仲間がいた……俺と同じくまっとうな冒険者からドロップアウトした、日銭を犯罪行為で稼ぐ仲間が。……落ちぶれたと思った。だが一人よりは、餓えるよりはマシだと思った。罪を重ねるうちに罪を罪と思わなくなった。むしろ真面目にダンジョンに潜っている連中を馬鹿にしていた。こっちの方が楽に稼げるのだから。わざわざ苦労してダンジョンで命を掛けるなんて馬鹿馬鹿しいと。
それが間違いだなんて分かりきったことなのに。位階の差は絶望的な差となり得る。そして人と戦う限り位階は上がらない。そんな事すら理解出来ない間抜けだったんだと今なら分かる。
酒場で鍛冶ギルドの連中が騒いでいるのを見た。今までろくに入荷していなかった素材を新人冒険者が大量に卸したらしい。どうもかなりの額の報酬を受け取ったらしい。早速仲間を使って調べると、どうやら孤児院出身の12のガキでソロで活動していると分かった。カモにしか思えなかった。
数日後に目撃情報が入ったので仲間を4人連れて襲撃しに行った。12のガキなんざこれで充分なはずだった。だが相手は恐ろしく素早いガキだった。一瞬でジャックがやられ、二人目のケビンに襲いかかった時点でヤバいと感じて逃げ出した。
後で調べたがなんでも「逃水」とか言う二つ名持ちの冒険者だったらしい。二つ名持ちとは言えガキに負けたせいで俺のメンツは潰れた。ナメられたら終わりのこの業界で、この評判は致命傷になりかねない。俺は仕方なくコネとカネを駆使して助っ人を集め報復に動いた。
だが失敗した。前に戦った時は全く本気じゃなかったんだ。前回辛うじて見えた動きは全く目に映らず、気が付けば利き腕が切断されていた。助っ人どもはそれを見て何もせず逃げ出した。俺も一緒に逃げたが奴は追わなかった……圧倒的強者の余裕。俺の事なんぞ道端の石ころのようなもんなんだろう。邪魔になれば蹴り飛ばすが、そうでないならわざわざどうこうするような物じゃないってわけだ。
完全に相手を間違えた。ガキだから、まだ迷宮に入って一ヶ月だから、そんな情報に惑わされて二つ名持ちを甘く見た。ガキがたった一ヶ月で二つ名持ちになったと言う意味も考えず。
「ちくしょう……」
命は失わなかった。だがそれ以外の全てを失った。貯めた金は助っ人を雇うのに使った。俺のメンツはもうどうにもならない。腕を失った以上は荒事も無理だろう。
「なんでこんなことに……」
わかっている。自業自得だ。楽な方に逃げ努力を怠った。そもそもやっていたのは犯罪だ。いつかこうなるなんて誰にでも解る。ただなんの根拠もなく「俺は大丈夫だ」なんて思っていただけだ。
「ばあちゃん……俺間違えちまったよ……」
ばあちゃんが昔、村を出る時に言っていた事を思い出した。
『いいかいロイス、覚えておくんだよ。いい縁を結べばいい運命が訪れる、でも悪い縁を結べばいつか悪い運命がやって来るんだ。冒険者になるんなら信頼出来る仲間は大事にするんだよ』
ああ……最初にアイツ等を見捨てた時に間違えていたのか……いや、調子に乗って先輩の忠告を聞こうとしなかった所からかな……
血を失ってフラフラしなから路地裏を彷徨う。正直どこを歩いているのかももう解らない。
「犯罪仲間とかどう考えても悪い縁だよなぁ……」
元々俺がクズだったのは事実だ。だが群れる事で調子に乗ってエスカレートしたり、犯罪の手口を情報交換していたのも事実だ。無論俺が悪くない等とは言えない。だがそれで悪化したのも事実。もっとも向こうも俺との縁で悪化しているのかもしれないが。
「考えてみればこれで悪い縁が切れたのかもな……」
やり直せるだろうか? 正直食っていくのも難しいだろう。だが……ばあちゃんの言葉を思い出した今、せめてやり直す努力くらいはしないと顔向け出来ない。今でも身に付けているばあちゃんの御守りを残った左手で握りしめて悪縁を切り捨てやり直す事を誓う。そしてせめて今度こそ良縁を掴んだら手放さないと……
ふと気付くと妙な空地にいた。周囲を壁に囲まれ、中心部に石で出来た小さな家のような物がある。
「なんだ? ……ん? これは……」
何かに導かれるように近づくと、小さな家のような物の扉に見覚えのある模様が刻まれているのに気付く。握りしめた御守りに目をやると全く同じ模様が描かれている。
ぎぎぃ……
扉と御守りの模様を見比べていると、どういうわけか扉がひとりでに開いた。中には見慣れない美しい金属製のメダル。その表面にも同じ模様が刻まれている。
「こいつは……おっと」
思わず手を伸ばしたが、誰の物とも知れない物。やり直すと誓って早々に盗むわけにはいかない。そう思ってすぐに手を引っ込めた。だがそのメダルは勝手に宙に浮かび上がると俺の手の中に収まる。
「は? え、これマジックアイテムか!?」
マジかよ。運が向いて来たのか? 所有者を自ら選ぶ系のアイテムとか絶対スゲェやつだよな。
俺はメダルに付いた鎖を首に掛け、装備す……
彼は信心深くなかった。
だからその模様が縁故神の紋章であると知らなかった。
彼は神殿などろくに行かなかった。
だから縁故神が既に神の座を追われている等と知らなかった。
彼は欲を捨てきれなかった。
だからタリスマンの美しさに目が眩み、それから漂う禍々しい雰囲気に気付けなかった。
そして彼にとびっきりの悪縁が降りかかる……
もっとも彼はそれに気付く事なく、自分の運が良いと信じて逝けたのは幸せだったのかも知れないが。
書き終わったら力尽きた……
〇トラッシュ… 疲れたろう… 僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ。〇トラッシュ……




