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英霊さんいらっしゃい

さて、この「戦士の試練の闘技場」にはレアエネミーとして英霊と言う存在が出現する。実在した英雄を模した存在で、分類上は魔力を物質化して作り上げたゴーレムに近い魔物だ。リビングアーマーほど耐久力は高くないが、ステータスのバランスが良く、スキルやアーツ、魔法なども駆使してくる厄介な存在だ。代わりに経験値が高く、リビングアーマーと違いアイテムを盗む事ができ、報酬の宝箱が増えるというボーナスがある。まあクソ強いからボーナスキャラと言うよりもトラップ扱いされているんだが。幸い出現率はおよそ0.2%と言われ、滅多に出くわす事は無い。まあ普通に考えればたかが10戦で出会う事の無い相手だ。

え? フラグ? フラグじゃないよ。だってその英霊さんが今、目の前にいるねん。これ絶対加護のせいですよねぇ。しかも撤退予定の10戦目で出て来るとか嫌がらせか何かですかねぇ。ろくな事しねぇなあの神様。

『いや濡れ衣だから!?』

まあそんな事より今は英霊だ。『私の扱いが雑過ぎる!』英霊は闘技場中央に仁王立ちで俺を待ち受けている。

いや9戦目で連戦を選んだ瞬間、目の前に《英霊ゼガルドが乱入しました》って半透明のプレートが現れ、視界がグニャリと歪んだと思ったら入口の通路に戻されてたんだよ。背後は鉄格子で塞がれたままで、正面の闘技場には既に英霊が立っていた、というわけだ。ただ立っているだけで動く気配は無い。どゆこと?

『通路内は安全地帯です。強敵との戦いの前の準備タイムを取れます』

! つまりここで装備を替えたり回復したり英霊無視してグースカ寝たり出来ると?

『最後のは英霊さんが可哀想なので止めて差し上げなさい』

いや、本人模しただけのゴーレムなんだから別にいいじゃん。

『稀にあの世から暇してる本人が中の人になっています。で、あれも中身入り』

「中身入りかい! それ絶対普通より強いやつだよね!

ええい! こんな敵相手にしていられるか! 俺は外に帰らせてもらう!」

「まてまてまて!」

神様の言葉に思わず声を上げる俺に、思わぬ所から声が掛かる。闘技場の中央にいる強面おっさん英霊である。

「せっかく暇な冥界からやって来たのに出番無しとは酷くないか!? せめてちょっとくらい戦っていっても良いのではないかね! それでも危険なダンジョンに勇気をもって挑む冒険者か!」

「いや明らかにヤバそうな相手に撤退を選択するのは普通だと思います。リスクとリターンの計算出来ないと早死にしますし」

って言うか普通に喋れるんだな。んな情報ギルドに無かったんだけど。

『……一応、ダンジョン規定で冒険者との会話禁止だから……』

ん? その規定を破ったらどうなるん?

そんな疑問を俺が思い浮かべたのと同時に、英霊のおっさんに地面から黒い鎖が飛び出して絡み付く。

「っ! ま、待ってくれ! 今のはちょっとしたミスでぇぇぇっ!」

そのまま鎖はおっさんを縛り上げると地面に向けて引っ張り始める。すると英霊の体からスルリと半透明なおっさんが引き摺り出される。鎖は英霊の体をすり抜け半透明のおっさんだけを引っ張り、地面へと引き摺り込む。

「い、嫌だ! 平和で安定した冥界にいるよりワシは鉄と血にまみれた戦いがしたいんだぁぁぁっ!」

物騒過ぎるぞおっさん! こいつ本当に過去の英雄なのかよ!?

『「屍山血河」ゼガルド・オースティン。かつてレイガル王国がイオス・アーセイ帝国の不意の侵攻を受けた際、単騎で帝国軍に斬り込み敵将の首を取り、帝国軍を混乱に陥れて侵攻を遅らせた事で王国軍の援軍が間に合い帝国は撤退する。本人はこの戦いで死亡するも帝国兵を1000以上討ち取っており、王国からは英雄として扱われている。なお本人の参戦の動機は「大規模なお祭りだったから派手にやってみた」とのこと』

ああうん、ただのバトルジャンキーが勘違いで死後英雄にされた感じね。

じたばたとした抵抗も虚しく、おっさんの体は地面に飲み込まれてしまう。片腕だけが天を掴むように伸ばされるが、それも徐々に地面に引き摺り込まれ__最後に何故か親指を立てたサムズアップのポーズで消えた。

『I'll be back』

そのセリフ、例のシーンでは使われてませんからね?

『まじでっ!?』

後に残されたのは先程とは打って変わって無表情になった英霊さん(中身抜き)のみ。ふむ、何となくだが威圧感が無くなった気がする。格上なのは変わらないが、多少は弱体化したかな?

『位階65→60、スキルレベルも軒並み低下してるわね。まあ本人に比べたらの話だけど』

うーん、試しにやってみるか? 加護がある以上、英霊とのエンカ率高そうだし避け続けるのもなぁ。ただし中身入りは除く。

闘技場に踏み出す。英霊は動かない。時計回りの螺旋を描く様に周囲を歩きながら少しずつ距離を詰めて行く。英霊は最初の位置を動く事なく、体を常に俺に正対するように小刻みに回転させる。後3歩で相手の剣の間合いに入る、その瞬間に俺は今までと反対、反時計回りにダッシュして距離を詰め、左側後ろの位置から蒼牙を、

ギインッ!!

だが俺の一撃は一瞬で俺に向き直った英霊の剣に受け止められる。いや、受け止めたのではなく弾かれた。おそらく圧倒的に筋力値に差があるのだろう。蒼牙を手放す事こそなかったが、手は痺れ、さらには剣を弾かれた事でまるで万歳するかのような体勢になり、胴体ががら空きになってしまう。そこにすかさず英霊の横凪ぎの一撃が叩き込まれるが、どうにかバックステップでそれを回避する。だがそれで危機が終わったわけではなかった。今まで一歩も動いていなかった英霊が、追撃のために踏み込む。袈裟斬り、斬り上げ、突きから唐竹割り。流れるような連続技に回避に手一杯になる。速い、速すぎる。こいつ俺より敏捷上か!? 堪らずに距離を取る為に大きく跳び退り……いやまずい! 敏捷で上回る相手に距離を取っても一瞬で距離を詰められる! むしろ大きく跳んだ事で体勢が崩れて不利になる。追撃されたら避けられない、くそっ、致命傷を食らう前にギブアッ……あれ?

何故か追撃が来ない。英霊は先程の位置で待ち構えている……んんん? 待ち○イルかな? いやさっきの隙は勝負を決められるだけの隙だった。俺より敏捷が高いなら間違いなく殺られて……そうか!

俺は収納から鋼のショートソードを取り出すと左手に持ち、蒼牙との二刀流にすると英霊に正面から歩み寄る。一足一刀の間合い。僅かに隙を見せて相手の攻撃を誘発する。英霊が踏み込み、

キィンッ!

尋常ではない速度の一撃が放たれるが、待ち構えていた俺の左手のショートソードに受け流される。

やっぱりだ。剣を振るスピードに比べ踏み込みのそれは明らかに遅い。

武術系スキルは威力は筋力、命中及びパリィの精度は器用、そして攻撃速度は敏捷に依存する。そしてスキルに+があればその数値×10%だけ能力が上昇したものとして判定を行う。例えば短剣術+6で筋力:55 敏捷:150 器用:130の俺なら短剣で攻撃やパリィを行う場合のみ、筋力:88 敏捷:240 器用:208として判定が行われるわけだ。つまり例え敏捷が80程度でも剣術+10なら敏捷160になって俺を上回る。これが英霊の異常な攻撃速度のカラクリだろう。ならば対応は回避に頼らず、短剣術補正の掛かるパリィでの防御、それも筋力差の出にくい受け流し主体で行う。二刀流にしたのは片方を防御専用にしてもう片方を攻撃に使う為だ。付け焼き刃だかスキル補正のお陰でそれなりに様になっている。英霊の剣を受け流して後ろに逸らす。僅かに体勢を崩した腕に蒼牙の斬り上げ。英霊は身を引いて避けるが斬撃が掠めると僅かな筈の傷が独りでに弾けそれなりにの傷になる。……やっぱり蒼牙はチートだな。これで英霊は剣の振りが鈍り、更なる傷を負い……最後にはあっさりと首をはねられる事となった。

あ、アイテム盗むの忘れてた。

ターミネーター2の溶鉱炉に沈むシーンで「I'll be back」のセリフが使われてると思ってる人多すぎじゃない?

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