二つ名被害者の会?
ナヴィガトリアは北極星の事で、ラテン語で「航海を導く星」の意味らしいです。カッコいいカタカナ語「ナ行」で見つけて思わず使用。
腹いせに絡んできたチンピラ達をボコボコにして、やや冷静になってみればわりと危険な事をした気がする。今回はろくに情報収集もしていないアホだったから良かったものの、もし俺が中級ダンジョンにソロで潜っている実力があると知った上で、金を奪える見込みを持って襲って来るような奴らだったら? やはり身を守るにせよ逃げるにせよ力は必要だろう。力があれば弱い奴らならどうとでも出来るし、本当に強い奴らは300万セル程度ガキ襲わずとも稼げる。……上級ダンジョンパーティーなら1回潜れば100万セルとか聞いた事あるし。
ま、今日はもう日も沈むし、やるにしても明日にしよう。つまりご飯タイム! え、さっき串焼き肉食ってなかったかって? 串焼きはおやつでご飯じゃないんですよ? ハハハ、育ち盛りの胃袋なめんな。
ふと、猛烈に食欲をそそる匂いに気付く。ふらふらと誘われるように匂いの発生源に歩み寄ると、果たしてそこには一軒の飲食店が存在していた。看板にはただ一言。
「焼肉」
料理名のみ、店名すらない看板に、潔さと拘りを感じ取ってしまうのは気のせいだろうか。こういう店って美味いか不味いかの二択だよな。よろしい、ならば開拓だ。
意気揚々と店に入……ろうとしたところで、同じく入店しようとした二人組とぶつかりそうになる。
「っと、失礼……ってあれ?」
「「あ」」
とても見覚えのあるカップル(生物学的には両方男)だった。
なんだかんだでヴァイスとエミリアの二人と一緒に食事する事になった。しかも奢りで。
「気にしないで欲しい。君には助けられているからね(両手に花ひゃっほぅ)」
「ボクの問題も貴方のおかげでどうにかなるかもしれないんです。お礼させて下さい(これが両手に花状態……うへへ)」
「気にしないでいいんだが……まあ礼は受け取っておくよ(焼肉♪焼肉♪人の財布で焼肉♪)」
『(なにこの状況、全員欲望に忠実過ぎる)』
この焼肉屋、実は結構な名店らしい。さすがに紹介なしの一見さんお断りという事は無いが、冒険者としての腕を認められないと一部メニューが解禁されないという謎システムがあり、上位冒険者が利用する店としてそこそこ冒険者界隈では有名だそうだ。
「……いや、どうやって冒険者の腕を測るんだ?」
「あ、店員さんが職業鑑定技能を持ってて、何次職かで判断するそうですよ。ボクはまだ位階18なんでモツ系メニューが解禁されてないんですよね」
「3次職からは希少部位、4次職から高級肉、5次職になるとドラゴンステーキが解禁になるらしいね。いつかは食べてみたいね」
「むしろ俺は自分で倒したドラゴンのドロップ肉を焼いて食ってみたい」
「「わかる」」
冒険者のロマンだよな! なんか周りの連中までうんうん頷いてたわ。ところで位階100の6次職用メニューは無いんですか? あ、仕入れの関係で予約限定……あるのにびっくりだよ! 人類最強の英雄クラスの入店想定してるとか意味がわからん。
俺がそう言うと真顔になったヴァイスが、手のひらを上に向けて近くのテーブルを示す。
「あちら、「双剣乱舞」アルベルト卿、双剣士系6次職の「双剣神」になります」
「なんで普通にいるの……」
こちらの声が聞こえていたのか、髭面の気の良さそうなおっさんが、笑顔で手を振っている。
「なんか新人時代からの常連で、今でも月2、3回は来店されるそうですよ。他にも名だたる二つ名持ちがこの店を利用されているそうですよ」
「二つ名……」
その単語に思わず目のハイライトが消える。どうしたのかと心配する二人に、下らない話だと前置きして今日起きた話をする……? なんか二人とも決意したような表情で顔を見合せ頷き合ってるんだが?
「シン……改めて自己紹介を。僕は「串刺」ヴァイス」
「串刺」ヴァイスの場合。
「あの人に近づくな! 男も女もぶっといので串刺しにされるぞ!」by元ペットの人
「ボ、ボクは「導きの星」エミリア……です」
「導きの星」エミリアの場合。
「あの子凄く可愛いな……」
「……あれ男だぞ」
「えっ?……いや……だが……俺は……男でも構わない!」
「……また1人導かれたか……」
…………………………………
「同士達よ……今日は飲もうか!」
「「おー!」」
三人でヤケクソ気味に酒の注文をする。多分俺達の心は一つになっていた。自分は1人だけじゃない、そう思える事のなんと幸せな事か。
ふと気付くとテーブルの周りに人が集まっていた。
「坊主……俺は「迅雷」のゲイル、由来はナンパした女から早漏認定を受けたからだ!」
「私は「清廉なる騎士」ウォーレン、初恋の相手にこっぴどく振られたトラウマのせいで、未だに清い体です!」
「「一角獣」のアイル、ロリコンですがなにか?」
「ふはははは! 我こそは「双剣乱舞」アルベルト! 両刀使いで乱交上等! 文句あるか!」
「あれ? 私普通に火魔法得意だから「豪火」なんだけどこれ私の方がおかしいのか?」
「裏切り者だ! 処刑しろ!」
「「「ZAP!ZAP!ZAP!」」」
「な、なにをするきさまらー!」
……おおう。
『やべぇこいつら掲示板と同じノリじゃん』
まあこの人達も俺と同じ十字架を背負って生きているんだろう(大袈裟)。新しい仲間を見つけて嬉しいんだろうな。
「んー、でも「串刺」はそこまでいい二つ名じゃないよな。格好良さが足りない」
「そうかー、悪くないと思ったんだけどなー」
……ん?
「それに比べると「逃水」はかなり良いよな。響きがもう格好良い」
「だろ! 思い付いた時はこれだって思ったわ!」
……おい。
「でもやっぱ「導きの星」が頭一つ抜けてるよなー。なんか少年の心を刺激するって言うかなんて言うか」
「だよなー、やっぱアルベルトの旦那のネーミングセンスにはかなわないよなー」
元凶お前らじゃん! 仲間だと思ってたのに! というかなにやってんの英雄クラス!
「むしろ仲間を積極的に増やして行くスタイル」
「俺らも酷い目にあったんだ。今度は俺らがやる番だ」
「味あわせたいこの屈辱」
「自分がされて嫌なことは、人にやるようにしましょう」
「我らの受けたこの苦しみ、貴様らもとくと味わうがいいわ!」
さ、最低だーっ!
畜生! でも全員明らかに格上だから喧嘩も売れねぇ!
ヴァイス達もなんか白目むいてるし。
「強くなりてぇ……強くなってこいつらまとめて全員ぶん殴りてぇ……」
「……そうだね。不条理に立ち向かうには力が必要だ」
「……ボク達はあんな先輩にならないようにしましょう」
俺達は心を一つにして、理不尽に負けないように強くなり、あんな風にならないことを誓い合ったのだった……
なお、数年後。そんな事はすっかり忘れてしっかり二つ名を付ける側になっているのだが、それはまだ見ぬ未来の話である。
ほら部活でしごかれる一年の時はそう思ってても三年になると結局やってたりするじゃん? つまり俺は悪くねぇ!




