ねんがんの……
あれから10日、俺はゴーレム採掘マッスィーンと化していた。「巨像の守る遺構の荒野」の安全地帯にキャンプを張った俺は睡眠時間と食事、あとは1日2回の砥石の納品を除いた全てを採掘に注ぎ込んだ。初日は100を越える程度(十分多い)だったが、採掘方法とルート取りの効率化を行うことで、2日目以降からは軽く150を越え、8日目からは200を越える事すらあった。もっともそれは8日目に手に入れた「採掘マスター」という採掘時良い物が出易くなる称号のおかげもあるのだが。
結果、俺は実に1647個の砥石をドロップさせ、関係者一同をドン引きさせた。ちなみに内訳は荒砥石823、中砥石658、仕上げ砥石166で総売上はなんと296万9千セルというイカれた額になった。「収納」のスキルスクロール代5万セルをさっ引いても290万セル以上……ヤバい。何がヤバいってこんな大金を持っているのがバレるのがヤバい。12のガキが日本円で3千万相当を持って治安の悪い国うろついてると言えばそのヤバさが分かるだろうか。銀行? そんなものは無い。
というわけである程度はパーッと使う事にする。まずスミス親方に200万セル(!!)を渡してその値段で買える最高品質のショートソードを発注してみた。
「おまっ!? 金遣い派手だな!」
「冒険者の装備は投資ですよ?」
「いや分かるけどよぉ…… 材質と付与効果どっち優先だ?」
「付与は錬金術で後付け出来ますよね? なら材質優先で効果は長持ちするように自己修復付けて欲しいんですけど」
高い買い物なら出来るだけ長く使いたい、という意思を示すと親方は納得したように頷く。
「なるほどな、なら素材はアダマンタイト8ミスリル2の合金だな。ただ俺は魔剣鍛治だから今の腕なら効果(中)の付与3つまでは追加素材なしでも100%成功するから1つでも3つでも値段変わらねぇぞ?」
「耐久強化と攻撃力上昇……いや非実体に有効はつけられます?」
また悪霊女みたいなのが来たら嫌だからな。
「付けられなくもないが……そっちは錬金術の方が効果が高くなるぞ?」
そう言って親方はカウンターでだらけているヘイグさんを顎で示す。
「あー、付けんのに「魂喰の牙」4500セルに技術料4500セルでおまけして1万セルでどうだ!」
「高くなってますけど!」
ばれたか、と言ってケラケラ笑う不良親父にジト目を向けると、スミス親方に向き直って話しかける。
「このおっさんよりまともな人格で腕もそこそこ以上な錬金術師の知り合いっていません?」
「それならソレの師匠のエルフがいるぞ。なに12のガキ騙して小銭ちょろまかそうとしたって言えば……」
「すいませんでしたーっ!」
カウンターを一瞬で飛び越え、見事なジャンピング土下座を決めるアホ親父。生産職なのに無駄に動きが良い。
『これ体術系のアーツよ』
……うごご、アーツとはいったい……
ちなみに「非実体に有効」は採掘でドロップしたゴーレムコア3つで付けてもらえる事になった。これ1つ3000セルするんだ……ポーチの中にまだ30以上入ってるんだけど……
「んじゃ、明日の朝工房にこいよ」
「? なんか用あります?」
「何言ってんだ? お前が剣注文したんだろ?」
「?…………! え、まさか一晩で出来るの!」
「おうよ、位階82の鍛治聖舐めんなよ」
「まさかの5次職!」
何でこの人、俺みたいなガキ相手にしてんの!? 国お抱えレベルだぞ!
戦く俺の肩に、ポンッと手を置きヘイグさんが一言。
「スミスが王侯貴族相手に仕事出来るとでも?」
「あっ(察し)」
全てを察して納得の声を上げる俺を、やたらと不機嫌そうなスミス親方が睨み付ける。
「おいてめぇら、そりゃどういう意味だ」
「そりゃスミスにお貴族様相手の礼儀とか、なぁ?」
ニヤニヤしながら同意を求めて来るヘイグさんに、しかし俺はあざとくきょとんと首を傾げて一言。
「実用品の武器を造る職人気質のスミス親方に、貴族の装飾過多な壁飾り造るのは無理だろうなー、って思ったんですけど?」
俺の言葉にスミス親方は満足そうに頷く。ふっ、これから剣を打ってもらうのに変な事は言えんからな。
「シンはわかってるな! ……ただしヘイグ、てめーは駄目だ」
笑顔から一転、ギロリとヘイグさんを睨み付ける親方。ダッシュで逃げ出そうとするヘイグさんとの距離を一瞬で詰め、襟首を掴んでそのままずるずるとバックヤードへと引き摺って行く。
「ちょ、まっ、おい、シン助け」
「それじゃまた明日ー」
戦略的撤退! さらばヘイグさん、貴方の事は忘れない。……今日の夕飯何にしよっかなー。
『もう忘れてる!?』
そして翌日、10日ぶりのベッドを堪能してから工房を訪れた俺を出迎えたのは、スミス親方と顔をボコボコにした不細工なおっさんだった。取り敢えずスルーして親方に挨拶する。
「おはようございます親方。剣出来てますか?」
「おう、当然だ、錬金付与も終わらせた……こいつだ」
そう言って親方は一振りの抜き身のショートソードをカウンターの上に置く。
美しい剣だった。刀身は青みがかった銀色をしており、金属光沢を持ちながらも何処か透明感を感じさせる不思議な色合いだ。こういった西洋剣は叩き斬るという使い方の為、刃は頑丈さを重視して鈍角に研ぐのだが、この剣は素材の強度と自己修復の効果があるからか、日本刀並みとはいかないが鋭角に研がれている。まあ剃刀並みに鋭い日本刀がおかしいと言う説もあるが。その美術品とも思える美しい刀身に反して、拵は後から出された鞘も含めて簡素と言っていい。見た目は明らかに駆け出しの使う安物……というか前に使ってた兎の耳剣と同レベルだな。
「腰にあんまり高そうな物ぶら下げてっと狙われると思ってな。拵は見た目だけは安物風に仕上げてみた。素材は悪くねぇから耐久性は高ぇぞ?」
「ああなるほど、お心遣いありがとうございます。にしても想像以上の品ですね! 何か色合いも透明感があると言うか……」
「あ? 知らんのか? アダマンタイトは元々半透明だぞ? 叩いて薄く伸ばしゃ透けるぐらいだぞ? まあそのままだと魔力と相性が良くねぇし、粘りが若干足りねぇから合金にするからな。あんまり知られてねぇのか? それよりシン、おめぇ鑑定使えんだろ? 見てみろよ」
? 疑問に思いつつも言われるままに「鑑定」する。
アダマンチウム合金製ショートソード「蒼牙」(銘品)
ふぁっ! 銘が付いてる!?
銘は武具系生産職が大成功を起こして生産された品に稀に付く。銘が付いた品は基礎能力が1.2~2倍まで強化され、その強化率は生産職が何次職かで決まる。つまり5次職の親方なら2倍……
「いやこれ幾らするんですか!? 明らかに200万じゃ足りないですよね!?」
「あ? オーダーメイド品が銘品になったからって追加料金なんざ取れっかよ。運が良かったと思って受け取っとけ」
マジか……マジかぁ……バレたらガチで「ころしてでもうばいとる」案件の代物なんだよなぁ……心配ではあるがこうなれば言う事は一つ。
「ねんがんの めいけんをてにいれたぞ!」
「何言ってんだおめぇ?」
お約束ですよ?
ジャンピング土下座
使用武器種:なし(体術)
必要能力値:敏捷15 器用25 精神40
消費精神値:5
効果:使用すると自分の位階+10までの魔物の敵意を消失させ、立ち去らせる。ただしボスには無効。
土下座系アーツは全て奥義書を使用しないと習得出来ない。これらの奥義書は生産職にわりと人気。
土下座→ローリング土下座→ジャンピング土下座→ムーンサルト土下座→……と効果が高くなって行く。




