神託
切りの良い所まで書いたら長くなった。
前半は平常運転だけど後半回想部分が思わぬヘビー具合。内容的にもボリューム的にも。2話に分けりゃ良かった……
いや、さすがに駄目じゃないか?
困った時の神頼みとは言うものの、実際に神様に頼み事とかハードルが……俺の場合は難易度というよりは精神的にだが……高過ぎる。ましてや着信拒否までしておいて、自分の都合の良い時だけ連絡するとか最低だよな。でもなぁ……
視線を胸元のタリスマンから正面に移す。今にも泣き出しそうな顔をしたエミリオ……いや女性として扱うならエミリアと呼ぶべきか? 出来る事をせずに見捨てるのはなぁ……どうでもいいが泣き出しそうな表情に正直グッと来ている自分がいる。だが(肉体的には)男だ。なんか本能的に力になってあげたくなる。だが男だ。正直見た目はど真ん中ストライクだし、僕っ子というのもポイントが高い。だが男だ。……なんか男でもいけそうな気がする自分が怖い。あれ? もし神様パワーで性別どうにか出来るならこんなに悩む必要は無いのか? ……うん! 困っている人を助ける為なら仕方ないよね!
タリスマンを握りしめ意識を集中させると、《着信拒否設定を解除しますか? キャンセル ok》の文字が脳内に浮かぶ。……ふう、俺は息を大きく吐き出し、覚悟を決めてokの文字を選択した。
呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!! by神
そしてちょっと後悔した。
ちょっ、ひどい! せっかくアドバイスしようと思ってたのに! by神
うっ! すみません、ちょっとテンションについて行けなくて……っていうか、アドバイスくれるんですか、着信拒否してたような相手に。
……あー、あれはふつーにセクハラかました私が悪かったし、それに神にとって眷族……自分の力の一部を分け与えた存在は特別なんだよ。よっぽどの事が無い限り見捨てるような真似はしないよ。
あと眷族情報の好感度と信頼度が低いの地味に辛い。例えるなら一向にブクマと評価が伸びないなろう作家の気分。 by神
神様、その例えは何故か心が痛いので止めてください。まるで自己満足で評価なんか気にしないで投稿したのにいざ評価してくれる人が出てくると気になって、でも今更評価くださいとは言い出せないなろう作家みたいな気分になります。
いや具体的ぃっ! なんか私まで心が痛くなってくるんですけど! by神
ところでそのby神って付けないといけないんでしょうか。なんか気になってしょうがないんですけど。
あー、これ創造神様が決めた仕様。鬱陶しいんなら念話にする? このあいだの幽霊女の時に君が捧げた信仰値でバージョンアップが可能です。 by神
ん? 信仰値? ひょっとしてあの時タリスマンに感謝のキス……
くぁwせdrftgyふじこlp by神
あ、あれ? なんか作法ミスってた? この世界では聖印へのキスは神への感謝と忠誠を表すって習ったような。
きききき気にしないで。作法は正しいから! それよりバージョンアップよバージョンアップ! さーやるわよー。 by神
あからさまにごまかした!? まあ言いたくないなら聞かないけどね。
『……聞こえますか……聞こえますか……私は今……貴方の……心に……直接……話し掛けています……』
いちいちネタ挟まないと話せないんだろうかこの神様。
『おやご存知ない? マグロは泳ぐのを止めると死んじゃうんですよ』
死ぬの!? ネタぶっ込まないと死ぬの!?
『まあ冗談なんだけど』
知 っ て た。
『それはさておき、性転換なら幾つか方法があるし、教えるのも構わないわ。ただし条件が3つ。
ひとつ、毎日私に祈りを捧げること。
ひとつ、せめて月一で神殿で祈ること。
ひとつ、性転換の方法の伝え方は私に任せること。
これを守るなら協力するわ……っていうか眷族からの信仰値が無いと出来る事が制限されるんで協力してください。1000年待ってたんですぅ(;ω;)』
アッハイ。
俺は条件を守る事を誓うとヴァイス達に話し掛けた。
………………
…………
……
僕、エミリオは物心ついた頃から変わり者として扱われていた。男の子同士で勇者ごっこで遊ぶより、女の子に混じってままごとをしている方が楽しかった。誰にも言えなかったけど初恋の相手は近所の優しいお兄さんだった。どうしても男の子として生きる自分に違和感を感じていた。
ある日、男物の服が嫌でこっそり姉の古いワンピースを着ていたのが家族にバレた。父には『男なら男らしくしろ』と言われ殴り倒され、兄達には馬鹿にされ、母と姉からは気持ち悪いものを見る目を向けられた。数日もすると兄達が吹聴して回ったせいで村中に話が知れ渡っていた。僕だけでなく、家族全員が居心地の悪い思いをする事になり、何故かお喋りな兄達でなく僕が殴られた。父は僕がなよなよしていると怒り狂い『どうして男らしく出来ないんだ!』と言って殴り付け、兄達もそれに加わった。姉は『あんたのせいで振られた』と言ってヒステリーを起こし、母は暗い目で『こんな子生まなければ良かった』と聞こえよがしに言うようになった。
ほんの少し前まで普通だった僕の家は、すっかり壊れてしまっていた。僕のせいで。僕が異常だったから。
僕の体は常に痣だらけで、たまに見かねた村人が注意しても父は『この子の将来のための躾だ』と言って取り合わなかった。食事も満足に貰えず、怪我と餓えでこのままでは死ぬと思っていた時、村に来ていた行商人が迷宮都市で見つかった不思議な薬の噂話をしていたのを聞いた。失った手足を生やす薬、禿が治る薬、異性に好かれる薬、そして飲んだ者の性別を変化させる薬。最後の話を聞いた時、それさえあれば僕が僕らしく生きられるんじゃないか、そう思ったんだ。気が付くと僕は家からお金と食べ物を盗み出して迷宮都市バルトへと向かう荷馬車に潜り込んでいた。途中で見つかったけど御者のおじさんは僕の境遇に同情してそのまま馬車で送ってくれた。
どうにかバルトにたどり着いた僕は、迷宮に潜るために冒険者ギルドに登録し、自分の天職が魔法使いだという事を初めて知った。そして親切な先輩、まるで物語の王子様みたいなヴァイスさんにパーティーに誘われてその日の内に迷宮に潜り……人気の無い安全地帯で貪り喰われた。正直怖くはあったけど、格好いいヴァイスさんに力ずくでものにされるという展開にちょっと興奮したことは否めない。それに『今日から君はエミリアだ』といって女性として扱ってくれ、可愛らしい女物の服をプレゼントしてくれるヴァイスさんを、僕はチョロくもあっさり好きになっていた。……あと、夜がいろいろ凄くて癖になったのは認める。
そんな風にちょっと(ちょっとか?)強引だったけどヴァイスさんのおかげで、僕は初めて自分を認めて受け入れて求めて貰える喜びを知る事になったんだ。
でもある日、僕は……僕達ヴァイスさんの愛人達に別れ話が切り出された。なんかヴァイスさんは力ずくでそういう関係になったことを後悔していたらしい。てっきり忠実な愛人だと思っていた先輩方はあっさりその提案を受け入れちゃうし……僕が茫然としている間にヴァイスさんの姿は消えていた。
次の日は脱け殻の様になって惰性でダンジョンに向かい、戻って来たところで偶然ヴァイスさんを見かけた。綺麗な銀髪の、幼いながらもどこか凛々しさを感じさせる美少年と話すヴァイスさんは、とても嬉しそうで……彼の事が好きなんだと一目で理解出来てしまった。それで頭がぐちゃぐちゃになってギャン泣きしたりキレ絡みしたりして迷惑を掛けてしまったけど、彼、シン君はとても紳士的だった。僕とそう年も変わらないのに落ち着いていて、感情的になる僕の話を黙って聞いてくれた。それに物知りで僕が「性同一性障害」とか言う状態で、僕以外にもそういう人がいるらしいって教えてくれた。なにより多分ノーマルなのに、僕を知った上で普通に女の子として接してくれた。……いっそ嫌な奴なら嫌いになれたのに。
ヴァイスさんとも話し合った。なんか男同士の性行為が大好きな変態幽霊に取り憑かれていたとかで、ヴァイスさんも愛人の皆も正気じゃなかったらしい。それでそんな不自然な関係は止めようと思って別れ話を切り出したんだって。ちなみにヴァイスさんは普通に両方いける人で、もし本気なら関係を続けても良いって言ってくれた。……というか昨日もそう言ってたらしいけど、頭真っ白だった僕は耳に入ってなかったみたいだ。笑われちゃったよ/// それで正式にパーティーを組んでお薬探しを手伝ってくれる事になった。やったね。
話し合いが一息ついたところで、ずっと胸元のタリスマンを弄りながら考え事をしていたシン君が真剣な表情で話し掛けてきた。
「……性転換に関する情報を教える事が出来る。ただしその情報の出所が俺からだと誰にも言わない事、それを誓えない限り教える事は出来ない」
思わずヴァイスさんと顔を見合せた。え、なんか手掛かり無しだと思ってたのに、あっさり情報が見つかっちゃったんだけど。二人揃って同意して誓いを立てた瞬間。
空気が変わった。
凄まじい厳粛な雰囲気に包まれた。衣擦れひとつ、息遣いひとつの音すら出す事を躊躇うほど、しかし緊張はしても恐怖は感じない。
「__汝、運命に抗う者よ__」
シン君の口から声が紡ぎ出される。だがそれはシン君の声ではなく、涼やかさを感じさせる少女の声だった。
「__運命を変革したくば我が声に耳を傾けよ__」
聞いただけで理解させられた。圧倒的な上位者。ヒトが抗う事など考える事すら出来ない存在。すなわち神だと。
「__汝に可能な手段は4つ__
ひとつ、「悪魔の蠢く地下神殿」31~40層の宝箱より0.1%の確率にて、性転換ポーションを入手__」
上級ダンジョン、その中でも悪名高い「悪魔の蠢く地下神殿」の30層以降!? さらに見つかるとは限らない宝箱から0.1%!? 思った以上に難易度が高い。
「__ひとつ、変化草、精霊樹の新芽、淫魔の血、飽和魔力水、高品質な安定剤、以上の素材を判定器用値300以上の調合技能で性転換ポーションを作成__」
素材名に聞いた事が無いのがある上に調合難易度高過ぎなんですけどーっ!
「__ひとつ、「魔法少女」系統の天職について「伝説の魔法少女」になり、「永遠の少女」技能を入手__」
……突っ込み所しかない。魔法少女系統の天職ってそもそも女性専用職業だし、技能を入手してどうするの!?
「__魔法少女系統最下級職「魔女っ子」の転職条件は「魔法使い」が女物の服を着て100人以上から「可愛い」または「綺麗」と認識される事__そこに性別は関係しない__また、魔法少女の「変身」技能は術者を一時的に魔法少女に変化させる__すなわち男性が使用すれば一時的な性転換が行われる__永遠の少女はこの変化を永続させる__」
……僕が何も言ってないのに回答があるのはどういう事なの……ところでその天職、絶対高次職ですよね。
「__魔法使い→魔女っ子→魔法少女→魔法少女(覚醒)→伝説の魔法少女で5次職__ちなみに変身中に妊娠すれば授乳期間中まで女体化が継続する__5年以上女性のまま過ごせば性別は固定される__それが4つ目__」
位階80必要じゃないですかーっ! ……あれ、最後の方法ならヴァイスさんに協力してもらえば……きゃっ♡
何故か隣でヴァイスさんがぶるりと震えていたけどきっと気のせいだね!
気が付くと厳粛な雰囲気は霧散しており、目の敵でシン君がテーブルに突っ伏していた。
「うげぇ……思った以上にしんどい……」
……うん、さらっとやってたけど神様を体に降ろすとか聖人とか巫子のやることだよね。普通なら神殿の奥から出て来れない……ああ、だから情報の出所を秘密にするのを誓わせたのか。バレたら神殿関係者に拉致られるから。でもそれなら……
「なんで助けてくれたんですか?」
「ん?」
僕の質問にシン君はきょとんとした顔を見せる。ちょっと可愛い、なんか隣で唾を飲み込むヴァイスさんの足は踏んどく。
「初対面の大した縁の無い相手を助ける為に、どうして秘密の漏れる危険を冒したんですか?」
「ああ、そういう事か」
続けての僕の質問に、シン君は納得したように頷くと、照れたようにはにかんだ笑みを浮かべた。
「まあなんだ、困っている奴がいて、無理の無い範囲で助けられる方法があったから……かな」
……は? それだけ? お人好し過ぎない?
「助けられるのに見捨てるのってなんか気分悪いじゃん。なんかこう……君の為って言うよりやらない自分が嫌だったから?」
だから気にしないで良い、彼はそう言って優しく笑った。……家族ですら僕は受け入れて貰えなかった。なのになんで今日初めて会った他人がこんなに優しいんだろう。……なんだろう、凄くドキドキする。まさか恋? ヴァイスさんがいるのに? 隣にいるヴァイスさんに目を向けると__なんか真顔で瞬き一つせずにじっとこちらを見ていた。……なんだろう、凄くドキドキする。まさか恐怖? シン君に優しくされた僕に嫉妬してるよこの人。
見つめ合って固まる僕らに、何か勘違いしたのかシン君は咳払いを一つすると、退席を告げる。え、まって、この状態でヴァイスさんと二人きりにしないで。
でも僕の声にならない助けを求める声はシン君に届かず、彼は部屋を出て行ってしまう。ぽんっと肩に置かれる手、恐る恐る目を向けた先には爽やかな笑み(ただし目が笑って無い)を浮かべたヴァイスさん。
「他の男に色目を使う悪い子には、お仕置きしないといけないねぇ♪」
「ふ、ふぁい」
この後めちゃくちゃお仕置きされた。
そしてお店の人にバレてめちゃくちゃ怒られる。
「ウチはそーゆー店じゃねーっ!」




